本題に入る前に、素材となるフィフィさんのツイートを整理しておきましょう。というのも、フィフィさんは関連のツイートをほとんど削除してしまっていますので、簡単にはアクセスできない状況になっているためです。
本稿では、favstar.fmに載ったツイート、すなわち、リツイートされたりお気に入りに入れられたりしたことによって、《たとえ削除されたとしても公共性が生じたツイート》を題材として扱っていきます。
出発点となったのは、「田中眞紀子大臣、次は朝鮮学校無償化に意欲」というニュース記事でした。
「ってことは、インターナショナルもインディアンスクールも中華系の学校も無償化されないと納得いかないんじゃ?てか、日本の私立学校は学費払ってるよね?」「ウチの子はインターナショナルスクールじゃないけど、日本で外国語学校に通ってたけど、毎月学費は納めてたよ?」という持論を述べたものです。
しかし、これはフィフィさんの完全な勘違い。事実は、「条件を満たした他の外国人学校などはすべて就学支援金が支給されている一方で、朝鮮学校だけが『慎重に審査している』という名目で長期間にわたって除外され続けている」という状況です。それを、朝鮮学校だけが学費を払わなくてすむようになるのだと思い込んでいるわけですね。(「朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A」参照)
これに対して、朝鮮学校関係者や良心的マジョリティから反論が加えられますが、フィフィさんはカンチガイを修正しないまま、すべて撫で斬りにします。いくつかをピックアップします。
また、「朝鮮学校だけが日本政府から補助を受けてないのは日本の教育基本法6条・学校教育法1条に定める「法律に定める学校」には該当しないからなんです」という考えを述べてもいます。
いわゆる「一条校」ではないから補助の対象になっていないのだというのですが、これもフィフィさんの事実誤認。実際は、各種学校の外国人学校なども「高校無償化」の対象となっており、したがってフィフィさんのお子さんも、通っておられる外国人学校を通じて就学支援金を受けているはずです。(「朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A」参照)
ここで興味深いのは、どうしてこれほど明瞭なカンチガイを7か月ものあいだ修正することなく繰り返すことができるのかということです。これはおそらく、すでに事実認識の問題ではなく、信念の披瀝だと思われます。それがどのような種類の信念のか、次回以降の連載で考えていきたいと思います。
本連載の観点では、次のツイートも興味深いです。「私が在日外国人の制度について問題提起するたび、いつも"在日"という表現で誤解されるけど、在日外国人って私も含めてるし、一部の外国人が対象ではないんだけどな。在日外国人として日本政府の外国人に対する制度に意見することがそんな特別なことか?」
http://favstar.fm/users/FIFI_Egypt/status/267596885106233345
朝鮮学校だけを狙い撃ちにした差別政策が議論になっている以上、そこで「在日」といえば当然のごとく在日コリアンを指すことになるわけですが、フィフィさんには「朝鮮学校だけを狙い撃ちにした差別政策」だという理解がない様子です。居住国の歴史的文脈に対する配慮がないという意味で、きわめて保守的移民一世らしいツイートです。
次に、人権擁護救済法案に言及したツイート。「人権擁護救済法案をメディアが取り上げて議論しない事に不自然さを感じる。」
フィフィさんは常々、日本の国際報道、とりわけ中東に関する報道は量も少なく内容も偏向していると指摘しています。その指摘は客観的事実に基づいており、検証可能です。しかし、このツイートはそれとは異なる「陰謀論」ですね。ネオナチやネット右翼が得意とするアレです。
フィフィさんといえば、ご自身がタレントとしてメディアの舞台裏を知っているうえ、国際報道のバイアスにも造詣が深いわけで、人一倍メディアリテラシーに優れた人物であると思われます。にもかかわらず、このように安易な「陰謀論」を口にしてしまうのはなぜか。それも今後、検証していきましょう。
ネオナチといえば、昨日フィフィさんは次のようなツイートをしたそうです。速攻で削除したとのことですが、どうやら「ホロコーストは自作自演」だと思っておいでのようです。反ユダヤ感情は隠しようもないですね。
中東に限らず、世界的に見てそう捉える方も多いですね。RT @seiichi000: @FIFI_Egypt すみません、私は、ホロコーストはユダヤ人による自作自演の作り話だと思ってるんですが、エジプトや中東では、どうとらえられてるんですか?
関連のツイートとしてこちらも。わかりにくいですが、反ユダヤ感情の発露です。
次のツイートも重要です。移民や民族的マイノリティはどう生きるべきかに言及したものです。「お世話になってるなら、せめてその家のルールにそって仲良く暮らしましょうよ。ってこと。文句が多いと追い出されちゃうよ。」
これは、世界中の自発的移民一世のあいだで頻繁に語られる内容だといっていいでしょう。ところが、フィフィさんはそれが二世以降にも同じ次元で通用すると思いこんでいる。このあたりの世代対立、新旧の移民対立は、移民社会を理解するうえでの代表的なテーマです。
最後に、猛烈に被害者アピールをしたツイート群を。ようするに、在日コリアンが水面下でフィフィ暗殺をもくろんでいる、と示唆しているわけです。日本で生まれ育った身としてはほとんど妄想に近い「陰謀論」であるように感じられます。
ただ、自分から攻撃的に先住の民族的マイノリティを非難しておいて、いざ反論を受けたら強烈に被害者アピールをするというのは、おそらく、移民という不利な立場にあって言いたいことを言うためにフィフィさんが身に付けた生存戦略の一つなのかもしれません。苦悩がしのばれます。