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【衆院選2012】

私たちの手で 問われるもの<上> 脱原発票 無駄にするな

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 「3・11」後、初めての衆院選が十二月四日に公示される。一九四五年の終戦後と並ぶ大転換点に立つ中、私たちの一票が日本の針路を決定づける。三年前に政権交代した民主党政権は行き詰まり、政治は混沌(こんとん)を極める。このままの状態が続くのか。3・11前に戻るのか。それとも−。市民の新たな動きを追いながら、政治が抱える課題を問い直す。

 「バンザーイ」。衆院が解散した十六日夕の本会議場。議員たちは珍しく息をそろえてこう叫ぶと、慌ただしく選挙区へ散っていった。ちょうどその頃、国会近くのカフェに集まった十数人の老若男女。脱原発政党の大同団結を呼び掛けるさまざまな市民グループのメンバーだ。作戦会議のさなか、一人がつぶやく。「足の引っ張り合いはダメだ」

 彼らの構想は脱原発議員の大量当選で過半数を制し、影響力を持つことだ。独自の推計では、解散前に脱原発の衆院議員は、民主党内の百人強をはじめ中小政党などで約百七十人いた。この勢力を保った上で、過半数二百四十一には七十人余が必要と踏んでいる。

 だが、壁となるのが政党数の多さ。脱原発を掲げる政党が多く、脱原発票が分散すれば、結果として民意は生かされない。自然エネルギーの推進に取り組む会社役員の竹村英明さん(61)は「脱原発候補の空白区に国替えした方が当選の可能性が高まる。そう説得したい」と訴える。

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 3・11は深い悲しみとともに、多くのことを国民に教えた。原発の「安全神話」の崩壊。不十分だった事故への備え。政府は迅速な対応が取れず、避難に必要な放射性物質の拡散情報などは隠された。民意を無視した大飯原発(福井県)再稼働も強行された。

 転換期の日本。政治判断の一つ一つが将来の国のありようを決める。道を誤れば、日本は転落の一途をたどりかねない。だからこそ求められるのは、民意を吸い上げ、生かす政治だが、実際は正反対のことが繰り返されている。

 反対論が多い消費税増税は、中小政党の出番がないまま、民主、自民、公明三党の「談合」で増税法が成立。復興予算は被災地と全く関係ない事業に使われていた。挙げればきりがない。

 「前へ進むか、後ろへ戻るかの方向感を決める衆院選だ」。野田佳彦首相は記者会見でこう語った。だが、民意を受信する回路が壊れた政府は既に方向性を失い、さまよい続けている。

 突然の多党化もその流れにある。民主、自民両党は第三極結集の動きに対し、政策の不一致を批判するが、両党内にも政策が違う議員がそれぞれ数多くいる。党内調整が抗争に変わるうちに、民意は追いやられ、政策決定に生かされない。こんな繰り返しの副産物が小党分裂につながっている。

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カフェに集まって「脱原発」選挙の打ち合わせをする市民グループのメンバー=16日、東京・永田町で(小平哲章撮影)

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 「脱原発票を無駄にするな」−。市民グループの有志は今週、脱原発候補の小選挙区一本化などを促すよう各政党に書面で申し入れる。脱原発票が分散し、原発維持の姿勢を示す自民党が勝利すれば、3・11前に戻るというのが彼らの共通認識だ。

 原発訴訟を多く手掛ける河合弘之弁護士(68)や文化人類学者の中沢新一氏(62)らも活動に携わり、候補者の「脱原発つうしんぼ」の作成も進めている。

 「脱原発政党のような巨大な固まり」をつくることで、政治の政策決定と民意の回路をつなぐ。機能しない政治を市民の手に取り戻す試みが始まった。 (宮尾幹成)

 

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