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【地球発熱】

<第1部・備える>6.子グマ争奪戦 出産前から『嫁に来て』

2008年1月7日

お嫁さん募集中の豪太君=秋田県男鹿市の男鹿水族館GAOで

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 「元気な子グマが生まれますように」

 今月五日、男鹿水族館GAO(秋田県男鹿市)の堀幸夫館長は、近くの神社に初詣でをし、こんな願い事をした。

 願掛けの相手は、札幌市円山動物園のメスのホッキョクグマ「ララ」(十三歳)だ。昨年十一月、妊娠の可能性が認められはじめたころから、堀さんは円山側に「メスだったら、ぜひ、うちに」と頼み続けてきた。

 GAOの人気者、オスのホッキョクグマ「豪太」は四歳になったばかり。繁殖可能になるのは先だが、今のうちにお嫁さんを、というわけだ。

 神頼みをしてまで、ほしい子グマ。堀さんら関係者が東奔西走するその姿は、ホッキョクグマを取り巻く厳しい生息環境を反映している。

 温暖化が急速に進む北極圏では、ホッキョクグマの生活の場である氷が減少し、レッドリストの絶滅危惧(きぐ)種に入っている。ワシントン条約で商取引には規制がかかり、国内の動物園・水族館が頼ってきた海外からの入手の道は事実上、閉ざされつつある。

   □   □

 実際、GAOは二〇〇四年七月のリニューアルの目玉にと、カナダ・マニトバ州とホッキョクグマ獲得の交渉を進めていたが自然保護団体の反対で頓挫。開館当日、佐藤一誠・男鹿市長が責任を取りホッキョクグマの着ぐるみ姿で来園者を出迎える羽目になった。

 ようやく交渉がまとまり、ロシアから豪太が来たのは、それから一年後のこと。直後からお嫁さん探しを続けているが、海外での確保はやはり困難で、頼みは国内で生まれた子グマだ。

 しかし、ホッキョクグマの繁殖は難しい。母グマが騒音などでストレスを受けると、育児放棄してしまうケースも多い。国内施設でホッキョクグマの飼育歴は長いが、出産から半年以上子グマが生存した繁殖成功例は十九頭にすぎない。

 その点、円山のララ、オスの「デナリ」(十四歳)カップルは豊富な実績を持つ。〇三年に「ツヨシ」(オス)、〇五年には「ピリカ」(オス)を出産している。国内で二〇〇〇年以降の繁殖例はこの二頭だけだ。

 ララには当然、ほかの施設も目を付けており、天王寺動物園(大阪市)のオスの「ゴーゴ」(三歳)も名乗りを上げている。子グマ争奪戦は、し烈なマッチレースだ。

 ララの出産は昨年末と期待されていた。しかし、ララは“人間様”のドタバタを横目に、防音材などが施された産室にこもったまま。関係者は年始から、じっとララを見守る日々を送る。

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 国内の動物園が繁殖に力を入れるのは種の保存に向けた自助努力。近年、希少種を中心に取り組みは盛んだ。ましてホッキョクグマは、温暖化被害者の「象徴」だ。

 国内で初めてホッキョクグマの繁殖に成功した旭山動物園(北海道旭川市)。「将来にわたって国内で種を保存し、温暖化問題でメッセージを発していかないといけない」。副園長の坂東元さんの言葉は、動物園に押し寄せる「温暖化の波」を如実に言い当てている。

  (温暖化問題取材班)

 

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