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甲状腺検査「福島県立医大メソッド」について

2012/11/19 12:20

 

【緊急資料1116日】

 

甲状腺検査・診断における

 

「福島県立医大メソッド」について

 

2012.11.16 田島直樹

一般市民、市民と科学者の内部被曝問題研究会医療部会員

 

 

 

私は、これまでの鈴木眞一氏講義を視聴して、甲状腺検査・診断における「福島県立医大メソッド」には、多大な疑問をいだくようになりました。

2012719「第2回原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかわる有識者懇談会」環境省

114日「甲状腺検査説明会」at郡山市

1110日「甲状腺検査説明会」at福島市

 

 

 有識者や医師の皆さんの中には、鈴木眞一教授の説明を、あたかも専門的かつ技術的なもので、純粋に学問的なものだという人がいます。しかし私が精査した限りでは、決してそのようなものではありません。

 

 “ 福島の子どもたちにはチェルノブイリのような放射線を原因とした甲状腺がんは決して起きないんだ  

 

という結論ありきのもので、行政的な判断を優先させて、住民に押し付けるものです。 これでは、子どもの健康を憂慮する保護者の方々の安心・安全には程遠いものといえましょう。

 

もくじ

【福島県立医大メソッドその前提の誤り】

【甲状腺がん治療・国際ルールから】

【ダブリングタイム】

【福島県立医大メソッドの問題点】

【鈴木眞一講義の変遷例】

【福島メソッドの診断基準と海外基準】

【「まとめ」について】

 

 

【「福島県立医大メソッドその前提の誤り】

 

1. (誤り1)福島第一原発事故の放射線影響による甲状腺がんは、まずあり得ない

2. (誤り2)幼児の甲状腺がん、放射線による甲状腺がんも、平時の大人(思春期以降)の甲状腺がんの常識で判断できる

3. (誤り3)がん以外の甲状腺の病気は低線量では絶対に起こらない

4. (誤り4)甲状腺以外の体中の病気は、すべて心理的な要因による

5. (誤り5)検査結果のデータは、全て被曝医療行政のものであって検査を受けた本人のものではない。情報の開示は特別の申請をして認可手続きしたものに限られる

 

【甲状腺がん治療・国際ルールから】

 

1. 疫学上の第一リスクは放射線 

2. 穿刺細胞診以外の確定診断はない(細胞診をせずに切除術は行なわない)

3. 少しでも悪性の疑いが残れば穿刺細胞診を行なう

 

4. 甲状腺がんの治療法は限られる

 -1、左右片側の全部切除または両方の全部切除(部分切除というオプションはない)  

 -2、進行したものは浸潤部位切除、周辺リンパ節隔清

-3、転移したものは、I-131大量投与(焼灼) I-131の大量投与は抗がん剤のミサイル療法となって、甲状腺がんの微小転移組織に選択的によく効く。

5. 進行してしまっても甲状腺がんは殺せる。甲状腺を失いホルモンを作れなくなるが、手術後の生存率は高い。「予後良好」とは死なないという意味、決して、ハッピーな人生という意味ではない。

 

【ダブリングタイム】

 

1. 発ガン4年で手術(直径2センチ)の場合、がんのダブリングタイムは46日。組織の直径が2倍になるのは計算上わずか138日。チェルノブイリでは経過観察インターバルは半年。

 

【福島県立医大メソッドの問題点】

 

1. 「乳児・幼児の」「放射線による」チェルノブイリ型の進行の早い甲状腺がんは、「100Sv以下はありえない」と無視

 

2. 「放射線によらない」平時の小児の、進行の早いがんまでも無視 

3. 大人の甲状腺サイズで、子どものがんや腫瘍を判断しようとする、不見識さ&非常識さ。(大人の甲状腺が20gなら、5歳の幼児の甲状腺は8g、乳児の甲状腺は2g

4. 「幼児の甲状腺がん」「放射線による甲状腺がん」は、わが国の臨床医に経験がないはずなのに、全く謙虚さ無し。

5. 大人の「進行の遅いがん」を前提とした診断基準(「甲状腺結節(種瘤)超音波診断基準」201112月学会誌にて公布)と、フローチャート(甲状腺超音波診断ガイドブック第2版「V診断の進め方」)。フローチャートは、福島健康管理調査実施にあわせて20117月「乳腺甲状腺超音波診断会議」大会で集中審議、発刊公布は20125月。

 

 

6. 大人の「進行の遅いがん」を前提とした経過観察のインターバル

7. 良性悪性の鑑別が甘いほうに傾きすぎてやしないか? 

-1「悪性」と間違える「良性」症例ばかりを強調

-2「良性」と間違える「悪性」症例はスキルアップに必要ないのか? 

-3「悪性の疑いが少しでもあれば細胞診」「悪性の疑いが強ければ細胞診」に改変

8. 穿刺細胞診は、「手術前」にのみ行なうという、儀式化

9. 「海外の基準より福島メソッドの診断基準の方が厳格」(鈴木教授)は大嘘 【福島メソッドの診断基準と海外基準】参照

10. 悪性度の高いがんでも「死ににくい」ことを盾に、「予後良好」という市民への詐術。45歳以上と45歳以下を比べた「予後リスク」で、「小児の」「発がんリスク」「QOL」までも過小に印象操作。

 

 

11. がんではない甲状腺の機能異常の症状を無視。ホルモン測定、血液検査もしない。

12. 診断結果を、本人・家族に出来るだけ開示しにくいようにしている =医療を行政統治に従属させ、人権問題となる 

13. 「子どもの甲状腺がん」も「放射線原因がん」も知らない?  もしくは、知っていてもいわない? 鈴木眞一氏による医師や技師への「一元的」な指導 

14. 全国全ての検査行為を福島県立医大の判定委員会に集約しようとする、 被曝医療の独裁化。

(参考:医学の歩み特集の長瀧重信巻頭言)

 http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiBookDetail.aspx?BC=923910 

(参考:被ばく受忍強制『科学僧官』独裁国家)

http://ni0615.iza.ne.jp/blog/entry/2554050/

15. その結果としての、放射能・放射線の危険性を感じる家族たちの、棄民化。 

・・・・などです。

 

【鈴木眞一講義の変遷例】

 

1. 7月の環境省「第2回原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかる有識者懇談会」での講義から114日、10日の「住民説明会」での講義へ・・・悪性度の高い事例があるグラフを外しました。外されたグラフ 

2. 7月の環境省「第2回有識者懇談会」や114日の「住民説明会」(郡山市)での説明にはなかったのに、1110日の「住民説明会」(福島市)での説明で突如付け加わった新たな論点。

「最近の論文」によれば、チェルノブイリの甲状腺がんは「ヨウ素欠乏症」のうえに内部被曝があったためで、「ヨウ素欠乏症」がないわが国では起こりえない。

  

ヨウ素欠乏症による甲状腺全体の腫れ(甲状腺腺腫)と、放射線による小児甲状腺がんは、山下俊一氏が当事、明確に峻別していたにもかかわらず、鈴木眞一氏によってそれらを混同させる古めかしい過ちが、再び持ち出されました。

 

【福島メソッドの診断基準と海外基準】

 

福島メソッドの診断基準と海外の診断基準との違いを比べてみます。

鈴木教授は、"福島メソッドの方が厳しいといいますが、それは全くの虚偽です。診断基準を比較するうえで重要なのは、甲状腺がんの確定診断としての穿刺吸引細胞診(FNAC)、これをどの範囲でするかの問題です。

超音波エコーガイド下穿刺吸引細胞診(FNAC)が、がんの転移を促すというようなことはありません。

穿刺吸引細胞診(FNAC)は子どもにはできないとは、どの論文・どのガイドブックにも書かれていません。子どもが泣き喚いて暴れれば超音波エコーガイド自体ができなくなるでしょうが。

鈴木眞一教授は、19 日『第回原子力被災者等との健康についての有識者懇談会』で、この図を次のように説明しています。

 

「これはアメリカの、やはり同じ時期に出たペーパーですけど、アメリカでも大体10 ミリ、子どもの甲状腺がんは10 ミリを超えたら細胞診をしよう、と、超音波で見て。で、甲状腺がんのリスクが非常に高い人、家族歴とか、そういう人は 5ミリ以上で刺そう。大体われわれよりちょっとゆるいくらいで、われわれと同じようなものだと思います。」

 

前段では『第一リスクは放射線』という最も大事な言葉を抜いています、しかも後段、

「大体われわれよりちょっとゆるいくらいで、われわれと同じようなものだと思います。」

 

これは、まるっきりの虚偽です。

鈴木教授が引用した図は、

The Treatment of Differentiated Thyroid Cancer in Children: Emphasis on Surgical Approach and Radioactive Iodine Therapy (Endocrine Reviews 32: 798?826, 2011)の 816pageの FIG.5です。

標題を確認してください。なんと書いてありますか?

「図5、子どもにおける甲状腺分化がんの診断評価手順」です。

そうして、図の冒頭には、

0.5cm if at DTC risk

と明記されています。

子どもについては、福島メソッドより厳しい取り扱いが提案されています。

 

0.5cm if at DTC risk

の意味は、5mmより大きい結節を有するDTCリスクがある子どもは、無条件に穿刺吸引細胞診(FNAまたはFNAC)の対象となるという意味です。「DTCのリスク」には、小児がんで放射線照射を受けたような既往や放射線被曝が含まれます。

※DTCDifferentiated Thyroid Cancer, 甲状腺分化がん

 

 

次にアメリカのガイドラインを見てみます。

(参照)Revised American Thyroid Association Management Guidelines for Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer,  The American Thyroid Association (ATA) Guidelines Taskforce on Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer, THYROID Volume 19, Number 11, 2009; http://online.liebertpub.com/doi/abs/10.1089/thy.2009.0110

あくまで成人についてのガイドラインですが、ハイリスクの病歴(もちろん放射線被曝体験を含む)がある場合、5mmより大きい結節で、エコー上悪性所見が疑われるものは穿刺吸引細胞診(FNAまたはFNAC)が推奨される(Recommendation A)。5mmより大きい結節で、エコー上悪性所見が疑われないものは穿刺吸引細胞診をするか否かはどちらとも言えない(Recommendation I)。と書かれています。

 

 

 

ところが鈴木氏が説明する福島メソッドの基準は違います。穿刺吸引細胞診(FNAまたはFNAC)を厳しく制限して、甲状腺がんに甘いのです。鈴木氏は、上記「有識者懇談会」で次のように説明しました。

 

「これはどういうのかと言うと、これも超音波学会で私どもがやってるものですから、診断基準が悪性と良性でこういう項目(スライド画面の左下の表の赤矢印)があるんですが、これのすべてが悪性項目になったもの、のようなものは細胞診をしよう、と。5から10(ミリの結節)。

 ほとんどは結節の子どもたち、二次検査に回った人はここにくるんですけど、そうするとこれで細胞診される人って極めて少ないということになります」

 

 すなわち鈴木氏は、5.1mm10mmの結節でエコー上すべての悪性所見(6種類の所見)がある子どもに限っては穿刺吸引細胞診の対象。6つのうち悪性所見が5つしかなければ穿刺吸引細胞診の対象外、だと説明したのです。

 

 今回の二次検査で5.1mm以上の結節がありながら、例えばエコー所見で3つの悪性所見しか無かった子どもは、穿刺吸引細胞診がなされないのです。

チェルノブイリでは、5mm以上の結節がある子どもは、山下俊一氏の指示で、原則として全員に穿刺吸引細胞診(FNAC)が行なわれました。

 

これは明らかに、放射線被曝を含むハイリスクの病歴がある成人のガイドラインよりも、甲状腺がんに対して甘い基準です。放射線のリスクは年齢が小さくいほど高いのですから、福島の子どもたちに『鈴木基準』を適応することは、新たな「医療行為を原因とするリスク」をもたらすかもしれません。

 

【「まとめ」について】

 

1110日福島で行なわれた「甲状腺検査説明会」での鈴木教授のまとめです。誤解をわざと誘引しようとする、作為に満ちたひどいまとめです。(下線と※1※2※3は私がつけました)

 

※1「予後が良好」とは、手術のあとの生存率は悪くない、という医師の間の専門用語です。決して「ハッピーな生活が送れる」という意味ではありません。幼くして甲状腺を切除すれば、一生自分でホルモンを作ることができず、薬剤に頼ることしかできません。成長のバランスを自然体でとれないのです。専門用語をつかって誤解を与えるようなまとめは、言語道断。卑怯もの専門家の典型です。

 

※2「進行も若い人ほど遅い」これは鈴木氏の説明を良く聞くと、45歳以上と45歳以下の「大人の甲状腺がん」での比較が根拠だということです。決して9歳以下の幼児の場合には当てはまりません。誤魔化しです。チェルノブイリでは被曝年齢0歳~5歳の子どもたちの甲状腺がんは物凄く進行が早かったのです。

 

※3「年齢(より若年)と線量(100ミリシーベルト)が影響している」放射線被曝による影響は小さな子どもほど大きく、それは100ミリシーベルト以下でも同じです。広島・長崎の最新の統計報告では、全てのがんにおいて「コレ以下なら大丈夫だ」という許容線量はなく、「しきい値」は0ミリシーベルトだと考えるべきである、と結論しています。(放射線影響研究所、LSS14報)

以上

 

 

カテゴリ: コラむ    フォルダ: 東日本大地震と福島原発人災

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