戦いの趨勢が優位に傾き、召集されない平和な日々。
 そんな中、その少年に気が付いた。
 人を嗤い、人を遠ざけ、ただ一人で、醒めたままで生きているその少年は、冷たく、そして剥き身の憎悪を身に囲っていた。

 ただ近づいて、話を、聞いた。

 あの一族を、殺す。
 かつてうけた、拭いきれない憎悪。母を失った、それを指示した、その男を殺す為に生きていると。それはそれはほがらかに笑って彼は僕にしなだれかかった。
 その計画を美貌の人形のように輝く表情で打ち明けられたとき。その為に少女を使うのだと論理的に言い切られたとき。僕は、深入りしすぎた事を知った。

「手伝えないよ」

 どうであろうと。どう想われようと。裏切る事はできなかった。
 でもなぜだったのだろう。
 涼しげに微笑むその下の、冷たく燃え上がる激情を冷静に見つめながら、驚愕に歪むその下の、乾ききった諦観と憤激を見つめながら、僕がその行為を一つ、黙認する気になったのは。
 『ラブ・レターを使うんだ』
 脳裏で、口の端が綻んだ気がした。
 こんなもので彼女が───そう、思った。
 カダヤ。
 誰にも知られてはいない、だがそういう関係の、芝村の少女。だが、手は、出せなかった。自分を包むその想いが、溢れだした結末に恐怖して、動けなかった。何度肩を抱き、頬を包み、唇を合わせる日を夢見ただろう。だが、その先を止められる自信など無くて、その先を望む想いが浅ましくて、何も出来なかった。
 だから、だったのだろうか。
 誰もが同じだと。
 そう、信じて。

 

 

 

 止められた。その、瞬間に判っていた。

「裏切ったな」

 そう、叫びながら。

「僕の気持ちを裏切ったな」

 そう、叫びながら。

 行きたかったのだ、母の下へ。
 甘く香る、その場所へ。

 全てを失ってなお、その空隙を埋める為に、その想いで身を満たし、生きてきた。
 母から生み出された自分。
 美貌。知謀。そして肉体。完璧で、そして完全な自分。
 自らに並ぶ者など、無いと思っていた。
 自らを超える者など、いる筈も無いと思っていた。
 それが真実にあり得るはずもないと、考えれば判るはずなのに。

 生きる目的。
 その為に手に入れた最良のチャンス。
 だが、並ぶ者はすぐ側にいた。
 超える者はその先にいた。

 敗者とは、虫けらのようなものだ。
 そう思ってきた。そう信じてきた。
 何より、そう感じてきた。
 だが、自分がそうなった時、これ程までに受け入れ難いものだとは思いもしなかった。
 完璧な計画───
 未熟で稚拙な小娘を踏み台にして、あの男に到達する為の。
 ───それが。

 

 

 

be A "Hero"
Gunparade "MODE" Edition
"AnotheR RooP Mix"

 

 

 

 ほんの少しだけの可能性。それは絶望の最中に幻獣が現れない事。何故と言って、無能で無気力な兵士を養っておけるほど軍隊は甘くはなく、また、現実に5121小隊の指揮官も甘くなどなかったから。
 ふと、自分が絶望から立ち直っていたと気が付いたその日の朝。小隊長室の机の前で、彼、茜大介は善行小隊長の言葉を聞いていた。

「君には明日から司令になってもらいます」

 部屋が茜色に染まる頃。
 目の前の机の上には筆立て一つ無く、無機質に磨きをかけた風にただ佇んでいる。

 芝村の嫌がらせかとも思う。だが、目の前の何もない机を見つめながら、そうではないと思い直す。奴等はそんな事をしはしない。婉曲ではあっても、行動は直截的だ。猫のように、ネズミをいたぶったりはしない。
 だとすれば、一つしかなかった。権力を握る為に、あらゆる行動をしてきても昇進すらままならなかった自分がこうも簡単にこのポストに就けたのは、いや、就けさせたのは───

「やあ」

 ガタン!

 見た目にも驚いた風に。茜は腰を机にぶつける失態を見せながら振り向いていた。

「どうしたの?そんなに慌てて」
「いや、その、考え事をしていたんだ」

 そこにはほがらかな笑顔で佇む少年がいた。速水、厚志。千翼長にして、黄金剣翼突撃勲章を持つ、騎魂号メインパイロット。

「こんな時間に会うなんて珍しいね。あ、もしかして陳情?」
「いや。そうじゃない」
「そう…?」
「………」

 茜は表情を消して、厚志を見やった。いつも変わらない顔。だが、なんとなく違う風にも感じられるぽややんとした、その笑顔。
 そこまで考えて、ふと怒りがこみ上げてくるのを感じる。
 何を、普通の顔をして応対しているのだろう。この男が邪魔をしたのに。
 この男さえいなければ、僕の計画は───

 カチャリ。

 ふと、また自分の思考に入り込んだ事に気付いて茜は意識を振り戻した。
 そして、そのきっかけとなった音に。
 何の音だろう。いや、これは扉に、錠が下りた音……?

「どう…したんだ?」

 訝しげに、茜の眉がひそまった。安普請で閑古鳥のプレハブ隊長室とはいえ、出入りがない訳ではない。特に、まだ後数時間は部隊行動時間だ。それに、ここには小隊金庫番の加藤の執務机もある。

「鍵、なんかかけて、何を……」
「君が、閉じこめて欲しそうだったから」

 ばかな───そう言いかけた瞬間、厚志はもう目の前にいた。
 習い覚えた技は何も出せなかった。指一本動かす間もなく。

「なっ?!んっ…!!」

 唇を塞がれる。
 腕ごと、抱きしめられる。

「ん……むっ……んんっ……!!」

 それだけで、力が抜けた。理由など判らない。

「…どうしたの?抵抗、しないのかい?」

 そして、軽い含み笑いのような声が、唇と一緒に覆い被さってくる。

 ドタン。

 どうぞと言わんばかりに何も置かれていなかった司令机の上に、茜が背を下にして押さえつけられた。
 だが、乱暴に叩き付けられたわけではない。かわりに唇は離れず、ただ、抑えつけた勢いを駆ったまま、ぬるりとその舌が入り込んできた。

「んむぅっ…!んちゅ…んんっっ!!んはぁあっっ!!」

 他人の体温を持った舌が、唇をついばみ、口腔を犯し、頬を、そして耳たぶを舐めしゃぶっていく。
 熱い吐息がぬくもりとなって残り、嫌悪混じりに思わず反らしてしまった喉元に、かぶりつくように唇が吸い付き、そして顎の下に頬が擦りつけられる。

「んふっ…ぴちょ…れろ……ん…あはぁ……んむぅ…んっ!」

 厚志がまるで吸血鬼のように、喉元をしろしめし、歯を突き立て、喉仏すらまだ無いその肉の痙攣を舌で味わうように丹念に舐めている音が響く。

「やぁ…ぁめろっっ!!」

 ようやく、茜は厚志から逃れようともがきだした。だが、それを待っていたとばかりに厚志はその動きを利用し、脇で絞められていた両手を万歳の形で逆に片手で握り締めてしまう。

「ふふ、駄目だよ、今頃じゃ。はは、可愛いなぁ………もしかして茜、ファースト、ディープキスだった?」

 悔しさに茜の顔が真っ赤に紅潮したのを見ながら、厚志はほくそ笑んだ。

「あ、怒ったの?ふふ、ご免。だって、すごく…」
「ふ、ふざけ…あ、うぁ?!や、そこは、何を…!!」

 厚志の右手がそこを軽く撫でる。
 だが、まだ、だった。思ったより自制心が強いのか、それとも単純に「強い」のか。
 肉体の出来も違うのかと想像しながら、厚志はわざと嫌らしく唇を開いていく。

「あんまり大きい声出すと、聞こえるよ?わざわざ建ててもらったっていっても、安普請のプレハブなんだからさ」

 途端、茜の抵抗が硬直したように収まった。
 そうなのだ。この小隊長室に、壁など無いに等しい。

「それに…祭ちゃんも帰ってくるかも知れないし?見られたら…凄い事になるだろうね?」

 厚志にはさらに腕の中の肉体が硬直していくのが判った。そして、もうひとつ、茜がそれを知らない事も。
 加藤祭は今日、学校を風邪で休んでいた。テレポートまで使って確かめたのだ。そうでなくては、こんな事を堂々とできはしない。
 だが、同じクラスなのにそれを知らないというのは、おそらく配置換えの衝撃が大きくて気付いていなかったのだろう。そんな茜に厚志は本当に愉しそうに微笑んでみる。

「や…やめ…」
「いやだ」

 次の瞬間には、押し倒された茜の身体の向きが横にねじ変えられていた。茜は何も乗っていない机の上に、膝から上を全て、まるで俎の上の鯉のように晒されてしまっていたのだ。

 ぺたり。

「……っ…!!」

 暖かい手が、白い剥き出しの太ももを触った。腿の筋が僅かに浮く。

「この足……この足で、僕を誘ったんだよね?」

 指先がゆっくりと太ももをなぞって降りていった。さらに膝小僧で円を描くように指先を弄ると、ゆっくりと手のひらで包み込んで、さするように臑の上を移動していく。

「綺麗な足だよね本当に…眩しいくらい。女の子の大きいおっぱいくらい、魅力的だよ。原さんくらいかな?君と張れるのは…」

 褒めているのか。けなしているのか。下世話な単語を混ぜながら、厚志は左手で茜の両手首を拘束したままで右手を蠢かせる。

「ふふっ…感じてるの?こんなので…可愛いね…」
「くっ…んんっ……っ……!!」

 茜が嫌悪と心地よさとが同居する感触に身震いしながら必死になって身を捩っていく。

「ほら…足を上げて…膝を、曲げてよ…」

 だが、そのむずがるような動きを利用しながら茜の左足を素早く折り畳むと、厚志はその足から軽いタッチで制靴を脱がせ、そして白いハイソックスを一瞬で抜き去った。

「なっ……?!」
「上手いもんでしょ?はは、ちょっと練習したんだ」

 そこには、真っ白に、そして美しくのびる美少年の爪先があった。少しだけ蒸れ、すえた匂いが辺りに漂う中、厚志はそれに頬ずりをするように顔の横へと抱きしめると、うっとりとしたような表情で茜を薄目で見やる。

「こんなに弱いのに、これで、舞を誘ったの?どうやって…誘ったの?」
「う、うるさいっ!!」

 裏返る寸前の声だった。

「なんで…なんでこんな事をするんだ……!!」
「なんで…?」

 ちょっと不思議そうな顔をして、少年は首を傾げた。そしてそれからにっこりと相好を崩すと、教え諭すかのように優しい口調で、語り始める。

「君はこう言ったんだよ。ことが終わったら、僕の物になるって。どんな事でも、させてくれって。だから、今、僕はこうしてるんだ。だって、それが君の望みなんでしょう?」
「ば、馬鹿なっ。僕はそんな事を言った覚えは!大体、そうだとしても僕の邪魔をしておき───」

 怒気を露わに首を起こしたその視線の先で。笑いながらも、笑ってはいない目で。助けた事などどうでもよく、その為に助けたのだと言外に示しているかのように。

「事が成ったら、なんて、君は言わなかったよ。終わったら、って、君は言ったんだ」

 ぞくりとした。そして、記憶を、探し出す───ほんの、数瞬の間。
 恨めしい程に明晰な記憶力が、それが事実だと告げてくる。
 計画の順調すぎる遂行に、悦びを見ていたあの日。見付けてしまったたった一人の仲間。心を許せると、信用に値すると信じていた甘い喜びが、あの言葉を吐き出させた。あれほどの悦び、心愉しい時間は無かった。だからこそ───今なら判る。

「どうしたの?思い出したんでしょう?」

 ぽややんとして、だがそれが嘘だと思わせる瞬間。こいつは知っているのだ、多分。そして、その上でやっているのだ。
 ───敵わないのか。いや、そんな筈はない。僕は、僕は!

「だから。君は今日僕に慰められるんだ。ふふ、違うね。今日、君は僕の慰み物にして貰うんだよ」

 背筋に寒いものが走り抜ける。軽い気持ちで、だが、心地よい達成感の中で少年にファーストキスを与えた事を思い出す。あのときは、自分にとっても遊びに過ぎなかった。ただ、身の毛もよだつ、唾棄すべき一族にくれてやるくらいなら、たとえ男でも自分が認めた相手にくれてやったほうがましだと思っただけだった。だが───今の厚志にとっては?!

「な…?!ま、待て、男だろうお前!僕も、僕も男なんだぞ?!」
「それが?」
「男が、男が男にそんなことをしていいと……!!こ、この変態がっ!お前は狂ってるっ!気違いだっ!!」

 冷静さなどかなぐり捨てた風に。茜の絶叫に近い糾弾の声が迸ったその時。

「改造再生産クローンなのに?」
「!」
「一代限りの変異種に、なんの価値があるの?その言葉が」

 あまりにも冷たい言葉が簡単にそれを遮っていた。なにか、違う現実を見せられているような、そんな言葉が二人を浸していく。

「僕には判るよ。人を心で好きになるのも、そして、その人を肉で欲しくなるのも、僕たちの幻想に過ぎないんだって。第四世代は僕たちを恐れている。僕たち、第六世代が彼らよりも優等な種だから。いや、種じゃないね、優等な形態を備えているから。だけど、きっとその前の、第二、第三世代の人も、そして、何よりもオリジナルの人もそうだったんだと思う。だから、僕たちにはそれがない。文字通り、タネが。僕たちは増えない。そして、また、僕たちは創り直される。死ねば、輪廻なんかじゃなく、純粋に再び、この世に還ってくる。そんな僕たちに、男だとか、女だとかいう事がなにか意味でもあるのかな?女性を妊娠させられない男の生殖器に、男性の子供を妊娠できない女の生殖器に、いったいどんな意味と価値があるのかな?もしあるんだったら、それは快楽の為だけだ。そして、快感なんてものは───わかるでしょう?君にだったら」

 本来なら悪意に満ち、それが噴き出す程であろう事を、当たり前のように言う少年。だが、茜はその先を諳んじるかのように続ける事ができた。

 ───だたの、摩擦運動による生体反応に過ぎない。男性体にとっては、女性体に必要な一種のデリケートさすら必要のない、単純な、一方的な、排泄行為に過ぎない。

 茜の理解した瞳が、大きく揺れていた。
 だが、何かを言いたそうに、それでも言葉をみつけだせずにいる焦りと懊悩を閃かせながら、睨み付けるような茜の視線が厚志を捉えていく。

「性器だよ。僕らのは。生殖器じゃない。なら、気持ちよくなれればいい…そうでしょう?」

 まるで譫言のように。厚志は自分の言葉に引きずられるようにして虚ろに輝く笑顔を晒しながら───

 戦争。大陸にしか戦火が及ばなかった頃すら、傭兵として多くの人命が失われていった天敵との戦争。いつしか失われる国民は、産み落とされる数を上回った。そして総数の減少によって当然のように稀少物化していく、ただの”オリジナル”人間の数。
 相対的に増えていく創り出された国民。幻獣との殲滅戦争がはじまって半世紀、たった半世紀でもう、「ただの人間」は一人しかいない。そしてもう、この国に女の腹より出でし者はいない。
 幻獣。全てを懸け、全てを賭して殺さねばならない人類の天敵。
 だからこそ、己の後を継ぐ、より強き世代に怖れと嫉みを感じながらも、次の代へ、そしてその次の代へと禁忌の技の倫理など一顧だにせずにこの国は世代を作り替えてきた。
ただ一つ、変異種として次代を創り上げる事をその心の平静を保つ代償として、より強く、そして幻獣に優る為に世代を引き継いできたのだ。
 それは目的地に着くまで永遠に漕ぎ続けなければならない自転車に乗る人々だった。平衡を崩せば、足を止めれば、それは転び、二度と立ち上がる事はない。そしてそれは即ち人類の滅亡となる。その思いを免罪符に、人はより強く、早く、長く足を動かせる漕ぎ手たらんと自らを律し続ける。
 しかし、世代は十年程で変わっていくに対し、人は数十年を生き延びていく。その矛盾が、より優れた次代への怖れを煽っていた。より優れた次代への劣等感を煽っていた。
 だがそれでも天敵への怖れは、同族への怖れを上回って余りあるものだった。そしてただその平静を、心の平衡を得る為に、前世代は、新世代との共存を、心の繋がりを求めたのだ。それは自らが選び、創り上げし一代限りの変異種への贖罪などでは決してなく。
 気が付けば、この国では家族「ごっこ」こそが家族を意味する普遍的な「常識」となっていた。遺伝子を操作され、試験管から生まれ、そして名前までつけられて「預け」られる子供達。いつか、どこかにいたオリジナルの、その外見だけを受け継いだ「異形」の戦闘クローン達。産み落とした訳でもないのに、それは親子となり、家族としての生活を営んでいく。遺伝、などという言葉がこの世から去ってどれくらいになるのだろう。その絆を、目に見えて確認する術はいまやどこにも存在しない。ただ、名前だけが、それを留めるのみ。
 人を律するのは言葉だけなのだと。そして、想いだけなのだと。不確かなものを確かなものだと誤認する事が、人が人である証なのだと。そう、絶えず叫んでいなければ忘れてしまうかのように。
 ならば───全てはままごとに過ぎないと。人命に、価値などあろうはずもないと。それは、高くある事を望み、その力を持つ全ての人々の等価の意識となっていくのは必然なのだろう。倫理など、この世には存在しないのだと。知らぬ者だけが、「ただの人」として護られていく、この国では。
 しかし、誰も、気付いてはいない。それが、それこそがあの一族の生き方であると。血統ではなく、家風をこそ継承する。家を、名を、その血の代わりとして、繋いでいく事こそが。そして、望む者のみが、それを求めていく事ができるのだという不文律。
 いつしか、この国はそうやって染められていくのだろうかと。世界はそうやって染められしまうのだろうかと。怖れる者だけが───

「僕は、そんなふしだらな教育を受けてはいない!僕は人間だ。貴様のように、芝村のように、人ではない、人を虫けらのように扱う連中とは───」

 自分の思考の深淵を覗き込んだ体勢から、厚志はふと面を上げた。
 目の前で、金髪と美貌を兼ね備えた少年が唾棄すべき対象として自分を見上げながら罵っているのが見える。

「ママンから?それが、教わった事?」

 反射的な、嘲笑の色が浮かんだ。
 びくり、と茜の表情が歪んだ。

「君は、何を学んで来たの?士魂号の、生体モジュールの中身?君のママンが到達したという、バイオマッスルの基礎理論?もしかして君は理論と記号と、恨みだけを覚えて、後は何も学習していないのかな?」

 茜の歪んだ顔を、意志を取り戻した厚志の笑顔が凍り付くような迫力をもって見下ろしていく。

 ───何故判らないのかな。天才少年のくせに。

 寝取られた。その昏い想いを。
 何事もなかったかのように、そして、自分とすら何事もなかったかのように、ただ普通に佇んでいた彼女を彼は見据える事ができなかった。

「僕たちは、戦争機械なんだよ?ただ幻獣と闘う為だけに産み落とされ、そして、死んでいく。なにより、使い捨ての。死んでも、国が生きてさえいればいつか、次の世代としてクローニングされるだけの。だったら、戦争を遂行するのに、こんなものは絶対に必要がないと僕は思う。おしっこをするためにあるだけでいいじゃないか。勃起したり、射精したりする必要がどこにあるっていうんだ?」

 滅茶苦茶な理論だった。圧倒的に正しい。だが、破滅的に間違っている。

「だから。僕は君を犯すんじゃない。ただ、セックスをするだけだよ……ふふ、そりゃ、君は傷つくかもしれないけど……まさか、男がどうのというなら、レイプ一つで殺人だなんて、言わないでしょう?」

 茜にとって、それは瘴気すら漂ってきそうな、捕食者の笑みに、見えた。

「大丈夫。気持ち悪くなんてないよ…きっと、気持ちイイ。ううん。僕は、必ず君を気持ちよくしてみせるから…そうさ…穴なら、同じなんだよ。ただ、その穴が好きかどうかだけ。僕は君を愛してあげられる…君の穴を…誰よりも愛おしく……」

 厚志は、言いながら欲情していく自分を冷ややかな視点で感じていた。
 何故、欲情するのかを心の裡にしまいこみ、ただ、腰の奥に燃え上がる疼きを解放しようとするかのように声を震わせ、甘く掠れた呻きを漏らしていく。

 ───どうやって?どうやって、彼女を。

 判っている。痛いほどに。この少年を選ばせた心の流れが。自分が与えなかったが故に選ばせてしまったふがいなさを。
 そして、同時に肉を求める自分の浅ましさを。
 好きだけで、凌辱しようというのではない。だが、汚す為に、凌辱するのでもなかった。凌辱が、暴力と同義である自分たち世代の中であっても、厚志には、それとは違う疼きがあるのだった。
 ───犯す。
 それは、生殖本能に基づく感情。繋がり、種を継ぐ者の根源を為す昏い衝動。
 彼らには無い筈のモノ。そして、あってはならないモノ。
 その想いを。
 遂げる事はできないからこそ喪ったその想いを。
 彼は埋め合わせなければならなかった。

「愛してあげるよ…もう、考えられなくなる程。ねぇ…茜…僕のモノに…なってよ…」

 だが、あまりに恥ずかしく、そして露骨な言葉に、呑まれていたようになっていた茜の表情が動きを取り戻す。

「何を言っているんだ速水……お前は…あの、あの田舎娘が好きなんだろ?女が、好きだなんてわかっているくせに───」
「僕にキスした君がその言葉を使うのかい?いや、君だって田舎娘が好きだったくせに。女の方が好きだったくせに。だって舞が田舎娘なら……精華だってそうだろう?」

 刹那で返す刀のように刺し込まれた言葉に、茜の胸が軋みながら痛んだ。

「ば…」
「初めて聞いた時、君は、森が好きだといったじゃないか。義理とはいえ、血が繋がっていないとはいえ、義姉が好きだったなんてね。知った時には驚いた。だから。そんな君に言われたくはないよね」

 茜の唇が、噛み裂かれる寸前まで食いしばられる。

「家族だったんでしょ?姉弟だったんでしょ?それを、飛び越えて関係を持ちたかったんでしょ?アハハ。誰からも後ろ指をさされる、立派な気違いの所業だって思わない?」
「ふ、ふざ───」
「それ以前に、人を利用して、人を殺そうとした君は、想いを利用して、それを踏みにじった君は、充分以上に気違いだよ?だけど、僕は君とは違う。嫌いな相手に、愛を紡いだりしない。唾棄すべき相手に、肉体を開いたりしない。ましてや…ふふ、なんでそんな相手の穴になんか入れたいと思うもんか」

 矢継ぎ早に。たたみかけるように。そして、なんとなしに壊れかけた風に。
 茜の言葉を全てはたき落としながら、厚志の声が熱を帯びていく。

「でも本当はね……君を…君の、お姉さんみたいにはしたくなかったんだ」

 だがその熱が、一遍に冷めた。それを受けたように、びくり、と茜の筋肉が締まっていく。嫌悪と忍耐の表情が驚愕に染まり、一瞬の停滞の後に貼り付いた仮面の下へと埋没していく。

「まさか…あいつを…お前が?!」

 まごう事なき、純粋な驚愕と憎悪の声。だが、厚志はそれを受け流すように首を振ると、自らを憐れむような瞳でやるせない声を上げた。

「どうして、君たちは、そうなのかな。何時間もかけて、それこそどんなつまらない事でも、君たちだけの為にそれだけの事を使っても、それでも信じてはくれない」
「な…」
「僕は、言ったんだ。嫌な予感がするって。そのまま進めていけば、絶対何か起こるって」

 瞳が、過ぎた日を映し出していく。

「次の日だ。彼女が死んだのは。交通事故で。でも、何故だと思う?」
「芝村がっ…だろうがっっっっっっっっ…」

 茜が、血が噴き出してしまいそうな程に唇を噛み締める。あれは式典の前日の事だった。彼の最愛の義姉が、その命を失ったという連絡が入ったのは。

「そうだ。だけど、違う。死んだのは、彼女のせいだ。現実に整備長は、彼女が探し出そうとしていたレベルの情報を持っていても、死なずにいる。それが例え誰かの力によるものだとしても、それを持たない彼女がそれを行ったからには、それは自殺と同じなんだ。それに気付かない……それでは、この世界で生きてはいけない。僕たちは、戦争の為にいるんだよ?それ以外の事をしたいなら、それ相応の事が必要なの、当たり前だろう?」

 この世界を、この国を。幻獣という天敵から守り抜く為には芝村が必要なのだ。
 いや、芝村に必要とされたから、守り抜けるのだこの国は。
 それが、例え芝村にとって必要なだけだったとしても。
 それが、たとえ芝村以外の誰にとっても耐え難い苦痛であるとしても。

「次は、無い。でも次があれば……だから僕は決めた。次は、強引にでも止めようと」
「だから、僕を止めたのか?!」
「君たちは同じじゃないか。なら、結果も同じだって分かる。自分を疑わない、行動の意味を考えない。でも…正義は、常に強い方が持つんだ」
「……っ……!!!」

 厚志とて、使うだけで嫌になる言葉ではあった。だが、それは痛い程に刻み込まれた真実でもあった。死ぬ。仲間が。それも、戦争ではなしに。一人でも必要な筈のこの時代に、それでもあっさりと。

「もう、失いたくなんてなかったんだ。だから僕の好きなヒトが、これ以上この世界から失われるのを黙って見ているのはやめたんだ」
「お前だって、お前だって芝───む、ぐぅ…んっっんんんっっ!!」

 首を無理矢理捻らされて顔を引き寄せられ、唇が強引に塞がれる。そして、なま温い体液の交換が全ての感覚を奪ってゆく。

「あの一族は、同族殺しを赦さない。まだ何もしていないから、僕は君を助け出せた。もしピクリとでも。もし一言でも、君が準竜師を攻撃していれば───どうなっていたかは判っているはずだよ」

 解放され、荒く息をつく中で、茜の胸に重く苦い思いが噎せ返る。
 とうに判っていた。助けられた事など。あの瞬間の、垣間見たあの男の顔を思い出せば、それが判る。予定を台無しにされた、呆れたような色の瞳。普通なら、その不快な乱入者毎排除するあの男が、あの一族が、それでも黙っていたのはこの目の前の凌辱者のせいだと。速水、厚志。だが、すでにその名は違うものへと変わっているはずの。

「酷い事を言うよ。多分、僕は君よりも、何かできるんだと思う。この肉体の奥に、より高く、より強く何かができる自分が居るんだと、判るんだ」

 突然、茜の瞳に煌めく何かが映し出された。西日の赤い陽に包まれた部屋の中に、黄金に淡く輝く12枚の───

「な、なんで……そんな…」

 突きつけられた現実に、茜の心が切り裂かれ、砕かれていく。
 芝村。準竜師、そして厚志。おそらくは現役最高の第六世代達。
 だがそれを超える筈の、自分。
 でも。
 僕は、僕の翼は何枚だったろうか。

「なんで、僕に隊長をやらせる。善行はどうした…こんな、こんな負け犬に───」

 凌辱されようとしている事も忘れる程の衝撃に茜は打ち据えられた。そしてそれから逃れるかのように、無意識に今の自分を再確認する言葉だけが唇から紡がれていく。
 だが、絶望だけは、受け容れてはならなかった。目の前のそれは、能力に比例しない。そんな事実は聞いた事が無い。ただ、ただそう呼ばれているだけだ。そんなものに、価値がある訳がない。
 堕天使の支配階級など───!!

「君は、本当に無知だ」
「なっ?!」
「天才だと言っているけど、同じだね。君は、舞と一緒だ」
「な、ふざっ、けるなっ…やぁっっ?!」

 次の瞬間。厚志の手が茜の肉体をまさぐり始めていた。制服の裾をたくし上げるようにして腕をこじいれ、薄いシャツ越しに胸の上を撫でまわす。剥き出しのふくらはぎの裏を微かに触れるようにさすったかと思うと、太ももの根本をからのびる太い筋を愛おしげに指先で揉み込むように触っていく。

「ぅ…さ、触るな馬鹿野郎っ…!やめ…!あひゃっ…?!」

 だが、熱く感じる指先が肉体のあちこちをまさぐる度、その思いが徐々に溶かされていくように消え去り、嫌悪感と、快感とにすり替わっていく。

「ほら、もっと、もっとしてあげるよ」

 気が付けば、両手での愛撫が始まっていた。素手で拘束されていた筈の両手首は抜き取られたソックスで固結びにされ、その端を机の角に引っかけるようにして押さえつけられている。

「あっ、馬鹿っ…ひ、っっ……!!」

 熱い吐息が、ねぶるように肌の上を流れていく。喉元に、耳たぶに、そして足の指にまでその粘つくような熱い風に絡みつかれる度に、だが嫌悪感とは違う感覚が沸き上がってくる。

「いや……だっ……!!」

 それが拒否しなければならないものだと、茜は本能的に感じていた。それを拒むために目を閉じ、歯を食いしばり、そして身を固くする。
 確かに、かつての、絶望を感じる前の茜ならば、たとえ同じ凌辱を受けたとしても、それが可能であっただろう。だが。今の茜には、それを拒み続けられる程に強い壁を心に持っていなかった。
 計画の失敗と、裏切りと、そして真実を知った虚無感が、茜の心を剥ぎ取ったばかりでは。

「……んんっ…!!」

 自分の知らない快楽が、茜の肉体を少しづつ浸していく。
 自慰すら、したことなどない。同じ家に、隣の部屋に、愛すべきあの女性が暮らしていたあの空気の中で。いや、愛すべき対象を相手にそんな事を考えるなど、沸き上がった事もない下劣な感情に過ぎなかった。
 芝村の田舎娘とも、キス以外はしていない。肉欲など感じもしない自分に、それ以上のものなど必要すら感じていなかったから。

「僕は、君で気持ちよくなりたい。君を、僕で気持ちよくしたい。今日は、僕のモノなんだから」

 なのに。

「ぅ……ぁぁ………!!」

 何かが目覚めさせられようとしているのではないかと思うほどにぞくりとする感覚が、茜の神経を激しく撫で、揺すぶっていく。全身がチリチリと総毛立ったように過敏になり、冷え切った肉体の奥にじんわりと疼く熱い塊がしこっているような感覚が産まれ、そしてそれに全神経が囚われていく。

「ふふ、やっと…わかってくれたんだ…」

 その指の下で。軽く、持ち上がる布の下で。

 カチャ、カチャ。

 慣れた手つきで、半ズボンを抑えるバックルが外されていく。

「や、やめろっ!速水、やめ───」
「聞こえるよ?」
「───ぐっ!!」

 今迄、被ってきた仮面。屈辱に耐え、優等生を演じてきた自分が、枷になっていた。まだ、他の連中は知らないのだ。茜が、授与式で本当は何をしようとしていたのかなど。知られていれば、今頃は英雄か、でなければ村八分になっている筈だった。だが、何の変化もない。ならば、連中にとっての自分は、高慢で、お高くとまった優等生でしかない。計算高く、執拗で悪辣な。
 そんな、嫌な奴だと思われる事などはなんとも思う必要もない。だが。変態だと思われるのは耐え難い限界を超えている。

「いい子だね…」
「…っ…」

 屈辱が身を焦がす。唇を噛み、今まさに自分を剥こうとしている男の顔を刺し殺すように睨み付ける。
 だが、睨まれた少年はそれを全く意に介さず、ぽややんとした顔つきで愉しそうに右手を動かし続けた。

 シュッ……

 その瞬間。茜は顔を背け、肉体が折れる程に身を引き締めた。
 夏用の、薄い布地が太ももを、そして靴下に覆われたふくらはぎを滑り落ちる感触。学兵用夏期礼服の半ズボンが、自分の下半身から抜け落ちる感触。

「ふふ、なんだ、期待してくれてたんだ?」

 恥辱だった。何よりも。男である以上、下を晒されたそれはあらゆる怒りに超越する。だが、同時に自分の浅ましい欲望すら浮き彫りになっていた。
 ほんの少しだけ、悦んでいた自分。速水という存在を、好いていた自分。それが、自分の分身に少しだけの破廉恥さを与えていた。

「半勃ちでも…嬉しいなぁ」

 本当に嬉しそうに、厚志の声が響いた。
 それが、耳元で囁かれる。
 顔が真っ赤に染まる。今度は怒りではなく、羞恥で。

「あぃぃっ?!!」

 無造作に、それが掴まれる。手のひらで強くさすられ、ゴリゴリと押し付けられるように弄ばれていく。

「じゃぁ……見せて…ね?」
「やめ……ろ…!!!!」

 一気に。厚志の指が縁にかかったかと思うと、一瞬で白いブリーフが膝まで引き下ろされてしまった。

「ぅ……ぐ……っ!」

 恥辱と屈辱に浮かぶ涙を堪えながら、茜の押し殺した声が漏れていく。

「あは……可愛いね…ううん…凄く…え、こんなに…おっきぃんだ…」

 目の前で。そういう中でも皮膚を刺激し、愛撫をやめない厚志の目の前で、茜のそれがその容積を増し、そして角度を跳ね上げて立ち上がろうとしていた。

「へぇ…これが…フランスの血なのかな?ふふ、白くて…おっきくて…皮、かむってるんだ…あはは」

 日に当たった事さえないような、透き通るような白磁の塔だった。薄桃色にぬらついた内側を穴の奥に煌めかせながら、青い血管が浮き出したままの肉の塔が鼓動に合わせてビクリ、ビクリと揺れ動いている。

「ふふ、毛は、少ないんだね…でも、凄く柔らかくて…綺麗だよ…」

 だが、厚志はあえてそこには触れずに、その上に繁る金色の茂みにその指を滑り入れた。指の間を、細く滑らかな陰毛の触感が心地よく通り抜けていく。

「ホント…金色なんだ…ふふ」

 ゆっくりと、お腹を愛撫して、また指先が茂みへと戻っていく。僅かに生え、淡く密集した金色の陰毛をそっと撫でつけながら、甘く響く厚志の声が艶めかしく肉体を這い回っていく。

「なんで…こんな事をするんだ…僕を、僕をそこまで辱めて、何がしたいんだ……!!」

 血の涙でも流れていそうな、苦鳴だった。

「嬉しいって、思って欲しいんだけど」

 だが、あっけらかんと、にこやかな答えが跳ね返る。

「こんな状況で、どうやったらそんなことが思える!」

 茜は、死にたいと思った。これ程の屈辱を受ける為に生きながらえさせられたのなら、いっそ死んでいたほうが数倍ましだったというものだと。だが、同時に思ってもいた。この感覚を最後まで耐えきれれば、きっと、目の前の男の顔を、嘘に違いないこの笑顔を、崩してやる事ができるのではないかと。

「どうやってもだよ。思って。ううん…ほら、こうすれば…きっと、思えるよ」
「ぅひっ?!!」

 柔らかく、優しい動きを一瞬だけ捨て去り、厚志はその腕に強引な力を入れた。
 途端に茜の肉体の上下が入れ替わり、視界が反転してうつぶせになったことを知らせてくる。

「やっ…こ、こんな…」

 厚志の目の下で、茜の尻が露わになっていた。先ほどまで彼の目を楽しませていたペニスの代わりに、同じ様に透き通る程に白く、薄く血管すら浮いている張り詰めた尻肉が晒されているのだ。

「美味しそうだよ…茜のおしり」

 羞恥からか。その視線と言葉から逃れるように茜のお尻が震え、そしてうねった。むずがるように嫌がる度に、なんとも言えない青い艶めかしさがそのお尻から発散されるように厚志の目には映っていく。

「あぅ…っ…!や、ぁぎっ……ぃぃっ……!」

 そして茜が見えない恐怖と、そして図らずも腹の下敷きになってしまったペニスが送り込んでくる言い様のない痛みから逃れるように身をくねらせると、まるでおしおきを前にする子供のように尻が震え、縛られた両手をどうする事もできないままに動きが止まってしまう。

「や、めぇ……?!!」

 茜の声が甲高く引きつった。
 厚志の熱い手のひらが、目の前の白い肉をやんわりと掴み込み、そしてじっくりと揉みはじめていた。柔らかく、そしてたっぷりと時間をかけて、極上のパン生地を練り込むように、厚志の手がやんわりと茜の尻を味わっていく。

「はぁ……これ…こんなに…はぁ…凄いよ、茜ったら…こんなにお尻が…柔らかくて…まるで……あぁ、もっと、もっとしてあげる……」
「んんっ…!んんっっっっ!!!」

 厚志は憑かれたようにそう呟くと、そのまま肉体をズリ下げて茜のお尻の上に顔を持って行った。そして、息を呑むようにお尻に目をやると、そのまま顔をその尻肉に埋めていく。

 頬を擦り寄せる感触が、茜の背筋を駆け上がって突き抜けた。そして、ぬるりとした舌の熱い感触がまんべんなく自分の尻を舐めしゃぶって───

「やめ、やめ───」

 だが、諦めたように。そして、疲れ果てたように。
 気が付けば茜は抵抗を忘れたかのように、その厚志の行為を受け容れていた。
 もう、どうにもならないと判っていた。
 全てを失って、そして、全てを奪われた事に気付くしかなかった。
 ならば。

「うあ……ぁぁ…ぅっ…!!!!」

 顎を上げ、白い喉を晒した茜の口から、硬さの取れた甘い呻きが漏れ始めた。

 

 

 

 にゅっ…ちゅ、ちゅぱっ!…にゅちゅ…

 既に気の遠くなるような時間、そこを舐られ続けていた。汚い、という感覚すら失う程に執拗に、そして何よりも情熱的に。
 何度も肉を割られ、その奥底にある穴を責められる。指で、そして舌先で。熱く、ぬめった涎を塗り込まれ、そして注がれる。指の太さに慣れきった穴の奥が、まるで自分の肉体ではないように拡がり、そして求められるままにそれを呑み込んでいく。

「ぅ…ぅあ……はぁ、はぁ、うっ…!…ひ、ぅぅひっ!」

 喉の奥から絞り出すような、苦鳴のような喘ぎ声が響いていく。汗と、涎にまみれて照り輝く尻の肉が撫でられる度、その中央の窄まりを舌先がこじる度、茜の肉体は嫌悪以外の感情に震え、そして声以上に露骨に全身で声を上げていく。

「んむ…ぐう………っ……」

 厚志はほぐしきった尻からようやく顔を離すと、そのまま蛇のように肉体を絡めたまま、身体をずり上げて茜の顔へと寄せた。そして、後頭部を鷲掴むようにしてねじ曲げると、呆けたようなその唇に唇を重ね、舌を絡めて涎を交換していく。

「んんん………むぅ…じゅるっ!」

 無理矢理な体勢でずれた唇から、二人のカクテルされた涎が、溢れたものを啜る音が汚く響く。だが、構わずに厚志は容赦なく激しく茜の唇を奪い、そして貪っていく。

 じゅる……ずちゅ…ちゅるる……

「ん……はぁ!んっ……くぅ、はぁ……むっ…んむぅ……!」

 口の中の音が頭で反響する程に唾液を吸い出し、そして呑み下される。そんな中、一瞬だけ唇を放した瞬間の茜の息継ぎの表情に、嫌悪よりもその行為の意味に震えているのを愉しそうに看取りながら、厚志は一層の笑みを浮かべた。

「もう…よさそう?」
 それが、ようやく唇を離した言葉だった。それは、数十分にも及ぶ愛撫の末の、確認の言葉ではなく、宣言でもあった。

「………」

 ほんの少しの沈黙。
 だが、その一息つくだけの間が、怒濤のような感覚に流されていた茜に僅かな立ち直りの時間を与えてしまった事には気付かないように、厚志は震える茜の尻の肉を慣れた手つきで一瞬でかき分けると、鉤のように曲げた指で肛門を無造作にこじった。

「あおっ…!お、や、やひぃっっ!!」

 沈黙を破る反応は一瞬で引き出された。
 たったひと突きで正体をさらけ出し、抵抗を失ってしまった茜の肉穴を今度はゆっくりと労るように指でさすると、それは逆にその尻肉に窪みすら浮かべて引き締まっていく。
 そして中に入れまいときつくヒクつくそれに合わせるように指先を尖らせて突き込むと、濡れきった穴はその意志に反して当然のように一本分の指を受け入れてしまった。

「なんでぇっ?!そんな、あいっっ!あ、お…く、くぅっっ!!」

 意識の回復が故に感じる、内臓を掻き回される不快感とそれ以上に鈍く響く快感に茜が身を捩っていく。

「やめ、やめろ…ひっ!あぐ、ぅぅううっっ!!うあああっっっ!」

 厚志は、指を軽くこじるだけで茜の尻が浮き、快感を伴った痙攣を面白いように返してくる様を嬉しそうに見つめていた。そして尻穴の茜の汁で汚れるのも構わず、哀れな程に翻弄されていく白い肌をさらに弄ぶ為に指先を埋めていく。

「こんなに、淫乱のくせに人の心配なの?精華もそうだったよね。頭はいいのに…バカだ」

 そして、意識の回復に合わせてとでもいうのか、嬲り始める前の話題を忘れてはいなかったとばかりに厚志は話し始めた。

「やっ…は、めっ!あぅっっ!くそ、く、ぅあぁあっっ!!」
「善行はね、帰ったんだ。あの人の、正しい戦場へね。君はそれを知らないだけだ。君は彼の後釜に過ぎない…もちろん本当は、僕がやってもよかったんだけどね」

 途端に白香魚のようにしなる肉体を腕力だけでねじ伏せながら、厚志は茜の柔らかい耳たぶに背後から噛みつきながら囁き続ける。

「君はいつか、多分この人類の闘いの命運を動かすよ。君が望んだ通りの地位で。世界を、僕たちが護るべき仲間を救う為に、ただの人達を救う為に」
「僕に、経験…しろというのか。その為に……ふざけ…るな…貴様の施しなど…僕…ぅあぁああっっ?!!」

 指が踊る。そして、剥き出しにされたままで汗と液体にまみれた尻がくねる。

「まだそんな口、利けるんだ…もう、こんなにお尻の穴はトロトロなのにね。いいね、本当に僕は君が好きだって再確認できる。ああ、心まで虜になりそうだよ」

 ───そうだ。その為に、君を隊長にする。僕たちを、本当の駒として、でも、本当の仲間として死に追いやる事ができるようになる為に。この国を、そして、人々を本当に護る意味を知る事ができるようになる為に。

「施しだと思う?違うよ。これは僕の好意。誰にも邪魔させない、僕の君への証なんだ。それともちろん…もう、僕以外には誰も触れさせない、そして、君が誰にも触れる事をできなくさせるための……だよ」

 そう、最後だけ掠れた声で言うと、厚志は右手の二本の指を、思い切り開いて手首を捏ねた。

「んぐぅぃひいっっ?!!!あぅ、ぅああっっ!!」

 尻が跳ね、茜の背中が海老のように反り返って顔に溢れた汗を撒き散らした。ギシギシと軋む机の上で、硬く勃っているペニスが自分の肉で押し潰されてその口から甘い苦鳴を流させる。
 だが、厚志は茜のペニスが机と腹の間に挟まれている事には気付かないかのように、その後ろから乗りかかるように体重をかけていく。

「う、うぐぅっっ…!!」
「綺麗な背中だね。ふふ、汗が浮いて…ほんとうに、綺麗だよ…」

 覆い被さった厚志の眼下、胸元までたくし上げられた制服の下で、背筋が完全に浮いた華奢な肉体が滝のような汗にまみれていた。悩ましげな、そして苦悩の色で味付けされた艶やかな悲鳴が、汗に照った肌と一緒に例えようもなく濃厚な空気を編み出していく。

 じゅにゅる…にゅる…ぬちゅっ…ぢゅぶっ…!

「うはっ…ひっ!あ、ああっ…!あぐぅ、ぅぅっっっあああっっ!!」

 うなじを、耳の後ろを。囁くようにキスをされ、かぶりつくようにキスをされた。した事はあっても、された事などない、細やかで、そして激しい愛撫。していた時には気付くよしもなかった、その堪えようもない快感に、全身が総毛だったように粟立ち、そして、全てが膨れ上がっていく。

「じゃぁ…ふふ、次は、美味しいの、貰うよ…」

 厚志は戦慄きに近い快感に呆けてしまった茜にほくそ笑みながら何かをたくらんでいるような妖しい声でそう呟くと、力が抜けた茜の身体をズリと引っ張った。

「お…ふぅ…!」

 ペニスの上ギリギリの所まで、茜の尻が引かれていた。同時に勃起しきった男根が、その角度を誇示するかのように机の脇の冷たい金属にピタリと貼り付く。

「う、うひゃはぁっっっ?!!!!ああああっっ!!」

 突然の衝撃。完全勃起し、その姿を全部剥き出しにした亀頭が、その机の冷たさに過剰反応し、茜に対応できない強烈な感触を送り込んでいく。
 茜の腰がガクガクと空腰を打ち、ペニスだけでもそれから引き離すために、及び腰のまま強引に尻を机から遠ざけようと暴れ回る。

 ピシャン!

「ひぐぅ?!」
「駄目だよ…茜…?」

 厚志はそんな茜の行動をたしなめるかのように一回だけ、強い勢いでお尻を平手ではたいた。パチリ、と手形が付くように指を広げ、尻の奥の骨に響くように指先を尻肉に密着させる。
 そして両手を尻の肉に置き、固定するように鷲掴みにすると、その顔を今度は股間へと突っ込んでいく。

「はぁ……ふふ、こんなに、おっきいんだ、茜のき・ん・た・ま」

 わざと区切りながら、厚志は目の前にぶら下がる皺袋の名を口にしていた。言葉すら道具に使って、茜の下半身をココロから責め立てるように。
 そして、縮みあがった陰嚢の裏、引き締まった皺袋の筋に舌を触れさせながら、厚志はその指を愛おしげに絡めた。

「うひっ?!」

 そして優しく、包み込むように握りしめながら、厚志はその手のひらの中の柔らかい皺袋と、その袋の中にある二つの肉玉を揉みしだいていく。

 ど、どん、どん。

 ペニスが机の横を打つように何度も跳ね返り、鈍い音をドラムのように打ち鳴らす音が部屋に響く。最も弱い部分、誰にも、自分ですら触れた事など無い器官が揉まれ、舐められる度にその快感が正直に伝わり、何度も何度もペニスを痙攣させていく。

「あやっ?!そ、そんな、揉ま、うぁはああっっ!!」

 腰が揺れ、そして未知の感覚に捕らわれる茜の困惑の喘ぎが迸る。

「コリコリしてるよ…どう、こうすると…イイ?」
「あぉぉおおっっ?!ひ、ぁあっっっ!!あうああっっっ!!」

 いまや、何の意味もない、だが今でも精液という汚濁の汁を作りだしつづける男の象徴が他人に責められるままに弄ばれていた。
 厚志はその二つの肉玉を指先で摘みあげるようにさすりながら、べっとりと涎をのせた舌先でそこから尻の中心までを何度も舐め上げていく。

「うあ、そんな、やめ、やめぇ……!おおああっっ?!!!」
「もご……む…んぐっ…もっ……んおお……」

 その声に満足したのか、充分にさすり回した指先を止めた厚志は、突然その唇の奥に陰嚢を呑み込んだ。尻の下、股の間で、直角にねじ曲げられた少年のペニスが波打つのを、厚志の顔が食いついたようにその根本に吸いついて抑え込んでいく。

「ば、ばひゃぁ?!あぐ、ぐぅうっっ!うあ、うは、はひぃいぁああっっっ!!」

 男なのに、男に性器を舐められている。既に尻穴をこじられ、その快楽の端緒を十二分に味合わされていた茜にとってすら、その衝撃は更なる被虐と無情を味わうに充分な意味を擁していた。
 しかも、後ろから、尻の下から顔を突き込まれての愛撫となれば、外聞もなく泣き叫び出したくなるに足る絶望と言えた。これでは、自分の尊厳など、どこにも隠せはしない。全てを鷲掴みにされ、剥き出しにされて剥ぎ取られるせつなさと虚脱が、どうしようもない感情となって茜の中を駆け抜けていく。

 ───次は。

 茜の頭に、肉体に、次に訪れるその光景が貫くように駆け抜ける。唇を奪われ、尻を奪われ、陰嚢を含まれ…そして。

「あああっ?!あ、そ、そこうはぁああっっ!!や、あひ、ひぃううっっ!!」

 男根を、握られた。

「やぁあっ!お、おぅ…ぅほぅっっ?!あいっ…いひ、ん、やぁあっっ!!うああっっっ!!」

 何度も、何度も扱かれた。
 白く、柔らかいペニスの皮が、伸び、縮み、ピンク色に照った可愛らしい亀頭を覆ったり剥き出したりと激しく責め擦られる。
 白人特有の包茎巨根めいた男根が、厚志の手の中で何度も勃起を繰り返し、鉄のような硬さと、火箸のような熱さを蓄えていく。

「もぅ、ぅひっ!あ、あはぁおおっっ?!う、うふ、んんっ、んんんっっっ!!」

 射精しないのが不思議なくらいだった。
 経験など、ない。回数など、こなしていない。
 それでも、茜は股間の奥をのぼってくる熱い疼きに、耐え続けていく。

「うあぁ…ぁ、あぐ……ひ……ああ……やぁ…う、うぁああ…………」

 だが、その責めは永遠に続くかのようだった。
 厚志の綺麗な指先が、男根の裏スジを何度も優しくなぞっていく。男の、逃げようのない感覚器に注がれる快感が、茜の譫言のような喘ぎを引き出し、そしてまたその喘ぎが厚志の指先を喜びで動かしていく。

 ───もぅ……も、う……

 勃起しきり、厚志に見せ付けるように浮き上がっているはずの肉の筋を扱かれる悦楽を震えながら感じつつ、茜の瞳は霞み、そして、涙をとめどなく溢れさせていた。
 もう、耐える事などできそうになかった。
 執拗に繰り返される愛撫で暴発寸前にまで快楽を練り込まれた男としての機能。その一切の理性を否定する肉体の欲望の前で自分の心を護る術は、それに溺れる他には無いのだとどこかが警告の囁きを上げている。これ以上それに抵抗していたら、きっと自分が壊される。壊された後、自分は……
 失われつつある茜の心を微かな恐怖が締めつけた。何よりも優しく、だが容赦なく激しく、厚志の指が、舌が、自分を犯してくる。
 だが、恐怖はそれではない。このまま抵抗すれば、心が壊される。壊れた自分に価値などない。今迄自分が生きてきた事。今、生き残っている事。その意味すら、無くなる。それが、恐怖。なによりも茜を責め貫く、言外の恐怖。恐怖は快楽を打ち消す。だが、それ以上に快楽は恐怖を打ち消すのだ。
 多分に漏れず、茜も肉を犯される現実の快楽を打ち消す事はできなかった。舌が這いずる度、指が撫でさする度、知らない悦びと、生理的な嫌悪がないまぜになって心をかき混ぜていく。もう、昇ってくるものを我慢する事もない───

「え…あ…?」

 途端に、重みと、熱が消えた。

「ぁ……?」

 喘鳴に高鳴る鼓動に身を揺らしつつ、反射的に茜が首をねじ曲げて後ろを見やると、そこから厚志の姿が消えていた。
 たった今まであったそれが無い。理性からくる解放の悦びと、だが本能の感じる気怠げな喪失感にやっとの思いで溜息を吐いたその瞬間、茜は脇から抱き起こされ、そして不条理にも告げられる。

「いくよ、茜」
「え……?」

 唇を。いままでがまるで児戯であったかのように奪われる。口の中を、舌を、歯も歯茎すらも奪われる情熱的なそれ。

「ん…んむぉう!!んんっ!ふんむぅ、むぅううっっ!!」

 頭が真っ白になりそうだった。
 熱く、激しいキス。口だけで、全てを吸い取られそうな愛撫に口腔が犯されていく。厚志の舌が触れ、絡んだ所が蕩けるように熱く疼き、そして溶けたままの全てを吸い出され、呑み込まれていく。
 だがその間も、指先が肉体を這い回って止まる事はない。着けたままの上着の下に、仰向けになって晒され、硬く尖ってしまった事を隠しようもない乳首を扱かれ、もう何の液体か判らないまでに溢れたそれを指先に塗り込めながら、尻の肉を強く揉みしだかれる。
 そして。

「んひ、んなあああっっっ!!あああ、あぅうぅおおっっっ!!」

 ペニスが潰される感触が駆け抜ける。
 硬くしこり、限界の角度で勃起しきった剥き出しの性器が太ももで圧し潰されていた。薄くとも鍛え上げた腹筋と、混毛ズボンの刺激の強い布地に挟まれ、針で刺されるようなむず痒さと、ゴリ、ゴリと内臓に響くような圧迫感に擦られながら、硬く反り勃った肉棒が思う様責め嬲られていく。

「おあああっっ!ぎひぃ?!ひはああっっっっっ!!!!」

 厚志に塞がれた口をもぎはなすように喘ぎを上げた茜の肉体が快楽の痙攣に包まれ、その表情が涙を止めどなく流しながら忘我の色に染まっていく。

「ああがぁあぁっっっ!やめ、ああはやぁぁああっっっ!!」

 腹の中を掻き回されるような嘔吐感と、それを上回るきつい快感。快楽の源でもあり、そして急所でもあるペニスを際限なく襲う責めに、茜は身を捩って悶え、そして逃げまどうように泣き叫んだ。

「あっ……か、はっ……ひっ……」

 責めが、止んだ。反射的に茜はゆっくりと再び俯せに肉体を捻りなりながら、胸を大きく脈打たせて激しい呼吸をとった。まるで全力疾走をした後のような酸欠に肉体が悲鳴を上げている。

「ああ……あぁ?!」

 ずる……

 だが、自由な時間はそれまでだった。厚志の手が腰を鷲掴むと、今度は、茜の肉体はそのまま後ろに引きずられていった。

「ば……?!」

 手がようやく机の端にかかるまで持って行かれたその体勢は、頭を下げ、尻を限界まで遠くに、そして高く突き出した屈辱の体位だった。
 茜の脳裏に、その姿勢を認識したおかげで何度目かの理性が舞い戻った。だが同時に、あまりにぶざまな自分の肉体に、言い訳すらできない悔しさが沸き上がる。

「やっ……やめ、ろぉっ、この、変態、へんたいせいよくしゃがっ…!お、男のくせにっ、男掴まえて、っ、せ…性器、いじっ…たり!お、お尻なんかにっひっっ?!!!」
「うん、それで?」

 愉しげに、厚志の唇が歪む。

「やっ、やめっ!あ、あがっ、く、ひっ?!お、お尻のっ、あなっ、ゆ、指入れるなん、あひぃっ!!だ、だめっ、や、やめろっ!おおっ!に、二本もぉっっ!!」
「どうしたの?さっきまでの威勢はもうないの?」
「うぎぃっ!きっ、きひっ、あああっっ!!そんな、ああああっっっ!!舐め、舐め…る、なっ、お、お尻ぃひいいっっっっ?!!!!尻穴、ボクの、ボクの肛門がぁっっっっっ!!!!」

 だが無情にも一旦開発されてしまった肉体は、もう茜に強がりを言わせる事を許してはくれなかった。
 茜の肉体は指先で再びこじ開けられた穴の奥に触れる空気の感触に喜々として反応し、厚志の舌が茜の尻の窄みを丹念に、そして強引に擦り抉るたびに呼吸すら失うほどによがり狂っていく。
 そして厚志は、白く、だが薄くしか肉を持たない可愛いお尻が、嫌がる意志によってきつい窪みを浮かべて閉じようとするのにも構わず、それに深々と食い込んだ両手の親指が引き締めた尻の肉の奥に潜む、汚物をひりだす穴を余すところ無く剥き出しにしていく。

 ぺちゃ…ぴちゅ…れろ……ちゅ……

「うああああっっ!や、あやぁぁっっ!!」

 音を立てて尻穴を舐めしゃぶられる感触を茜が拒絶しようと尻に力を込める度に、その奥に隠された前立腺への刺激の反動で膨らみきり勃起しきったペニスがへそを叩くようにしゃくりあがっていく。
 勃起した先端、かわいらしさすら備えた皮を抜け出してその顔を見せつけるピンク色の鈴口から溢れ出す透明な液体が、そのぶざまな首振りに合わせて何度も飛び散って、腹や、太もも、そして胸にたくしあげられた制服にまで粘液質の糸を伸ばしていく。

「ぁ…や……ぁ…ひっ……ぉ、ぉぅっ…!」

 翻弄され、息も絶え絶えになる程に嬲り尽くされる茜の痴態を微笑ましく綻んだ表情で観察しつつ、厚志は遂にその身を立ち上げた。

 カチャカチャ。

 二度目の、金属音。さっき聞いたものと同じ、バックルを外す音が、今回は何より凶悪に茜の耳に響いていく。

「もう…いいよね」

 ズボンと、トランクスを落とした厚志のそこには、見事な程に勃ち上がったペニスが天を向いて揺れていた。透明な、玉すら浮いたその先端には、茜よりもひとまわりは大きく見える、エラばった亀頭が照り輝いている。

「ああ、あ、や、あ、うあ……!!」

 それを見てしまった茜の肉体が反射的に前へと伸び、機敏さのカケラもないぶざまな動きで机にしがみつくように逃げだそうとする。
 声はすでに譫言のような恐怖まじりの叫びにしかならず、倫理にすりこまれた無情な焦りだけが神経の切れたように動かない肉体に必死の命令を下していく。

「だめだよ。茜ったら」

 だが、ズボンを落とし、足首に枷をはめたような体勢にあっても、厚志は冷静に、そして悠然と茜の自由を奪っていた。逃げる肉体を腹に回した腕一本で引き留め、ばたつく肉体をもう一度さっきの位置まで引き戻すと、右手の親指で尻肉を開き、その中心に息づく悦びの穴を剥き出しにする。

「今度は…僕も気持ちよくして?一緒に、最後までいこう?」
「あ、うああ……ぁあ!ああ!!」

 茜の首が、狂ったように左右に振れた。声は掠れたような悲鳴。ただ、肉体を固く震わせていく。まるでいつもの茜からは想像できない、本物の子供のような拙い否定が厚志の背筋を駆け昇っていく。

 ぴちゃ。

 濡れた穴と、濡れた先端が、溶け合うように触れ合った。厚志は観念したように目を瞑って震える茜の腰から手を離し、汗でへたった金髪にうなじからゆっくりと指先を入れながら、労るような優しい速度でその腰を突き出していく。

「ふ…ん……ぅ…!!」

 時間をかけ、外から、そして内から湧き出す程に練り込まれた尻穴は、持ち主の拒絶すべき想いに呼応せず、侵入者に抵抗無くその門を明け渡していた。

「うあ……うああああっっっ?!」

 ぬるり、とそれは入り込んできた。
 おぞましいまでの異物感。しかもそれはさっきまで入り込み、弄ぶように奥を引っ掻いていた指などよりも遙に太く、そしてさらに遠くに、奥深くまで入り込んでくる。

「いや、ぁあああ、あが、あああっっっ……!」

 声になっていなかった。
 悦びでもなく、痛みでもなく、だが嫌悪だけでもない。
 貫かれたという事実が。
 尻の穴が犯されたという事実が。
 茜の心に穴を開けていく。
 その穴から零れるように溢れていく何かが、手の隙間から零れる砂のように中に詰まったものを露わにしていく。

「ほら……全部、入ったの…わかる?」

 儚いほどに白くて小さい尻に、ぴったりと厚志の股間が押し付けられていた。腹筋に浮いた汗がじっとりと流れ落ち、茜の尻に浮いた汗と混じり合ってくちゅくちゅと卑猥な音をたてる。

「うあ、あ、あ、あ……」
「じゃ、抜くよ」

 ず、ず、ず。

 一センチで一秒ずつ。
 厚志はそんな気が遠くなるようなペースで茜の尻から腰を離していった。肛門の縁が赤黒いペニスの肉竿にスッポンのようにしっかりと食いついたまま、まるで引き剥がされるかのように伸びきっていく。

「ふふ、欲張りだなあ…すごい締め付け。抜くの大変だよ、茜のお尻って」
「やぁ、め、あああっっっ!!」

 穴が、拡がっていく。
 言葉で責められる度に、自分の心の中が崩れていく。
 拒絶できない肉体に、茜の心が少しずつ壊れていく。

「うお…お、おあ…あ、あ……!!」

 内臓が引き出されていく、その感覚。尻の穴から、胃が、喉が、掴まれて引かれていくような未体験のそれが茜を襲い、その感覚に全ての意識が捕らわれていく。

「ん…ああ、すご…ほら…いく、よ」

 そして、再び厚志はその腰を前進させた。
 ゆっくりと白い肉玉に自分の肉棒を挿し込んでいくだけで、得も言われぬ悦びが腰から背筋を通って沸き上がっていく。だが、厚志はその感覚を、より強く欲しがる自分の腰の動きを必死に抑えながら、ゆっくりと、じっくりと茜の尻を刺し貫いていく。

「ひっ…あ、おおぅ、う、うあああっっ…!」
「おふ…おお……は、はぅ…う……あぁ……」

 亀頭まで引き抜く度に、太い喘ぎが溢れ、
 根本まで挿れる度に、安堵に近い吐息が流れた。
 肛腔性交の悦楽を示す声が茜の口から上がり、それを全身から伝わる震えが教えていく。

 ぬ………ぼ………ぬちゅ……くぽ……
 ぎしっ…き…ぎぎっ…ずっ……

 もう数分、肉が擦れ、机が軋んで動いていく音が止まずに続いていた。
 虚ろに濁った瞳を瞬かせながら下半身の悦びにその身を浸しつつ、抑えた喘ぎだけが充満していく中で、確実に二人の腰の動きは滑らかに、そして早くなっていた。
 肉の中で混じり合い、何ともしれない液体を潤滑油としながら、何度も何度も腰と尻がキスをし、分かちがたい鈍重さで離れ、そしてまたキスをする。

「んふ…ぅぅ、お、はぁ…くぅ……ぅんっ…んんっ…!」

 男同士でしか為し得ない、おぞましくも淫らなキス。
 その白い肉の唇の奥を、ごつごつと膨れ上がった醜い肉の棒が容赦なく掘り進み、引き抜く度にその傘のようなエラで引っかけ、掻き擦っていく。
 逆にその唇の肉は、お返しのようにそれをつるりとした肉で圧し包み、その全てできつく握り締め、扱き上げていく。
 そしてされる側の唇の下で、悦びに弄ばれ、酔うように踊る肉の棒が激しく波打ち、そして歓喜の涎すら撒き散らして悲鳴を上げていく。

「んあぁあっっ!お、おぅぅ、うはぁあっっ……!ひ、ひっ……!!」

 抉られる度に、尻の奥が疼いた。
 抜き出される度に、腹の奥が捩れる程にせつなくなる。
 もっと、もっと。
 もっと、深く。
 泣きそうだった。いや、もう涙は溢れて止まる事などなかった。
 もう茜は認めるしかなかった。自分は、感じているのだと。

「やはぁ!!ひっ、う、うひぃっっ?!!!」
「う…ふっ…はっ…んんっ!あ、んっ!」

 熱い呼吸。この狭い部屋の中に、二人分の男の声が虚ろに、だが激しくこだまする。
 だが、それは無粋な唸り声ではない。
 甲高い、少女のような喘ぎと、青臭い、少年の吐息。
 見る者によっては、倒錯すら感じる風景。それでも、その腰が汗にまみれて繋がり、生々しく汚らしい音をたててぶつかりあっている事には違いない、けだものの媾合。

「あう、うう!う、うああっ!おお、おああっ!!」

 いつしか、はっきりと茜の声が変調していた。甲高い声が、ハスキーな喘ぎに変わり、声すらもより深く、重く感じているのを現しているかのように。
 もういまや、茜の下半身に感覚というものは無かった。
 膝が砕け、そして急速に力が抜けていくのを、茜はどうしようもなく認識していた。一人で立っている事が辛い。いや、もどかしい───

 ───もどかしい?

 瞬間、茜は全身が赤く溶け、顔すら燃え上がるような感覚に我を失った。不随意筋すら稼働させたかのように、全身が跳ね上がり、そしてその思いを否定すべく思考が混乱していく。

「や、やぁっ……!!あぐ、くぅぅううっっ!!!」

 恥。悦楽に身を委ねる、それは恥。
 それを打ち消す為に、必死に力を入れ、足を、そして腕を固く引き締めていても、だがしかし、もうそれを行うだけの力など無い。無いからこそ、その思いが湧いたのだから。

「あぅ?!ほっ…ぅ、すご…んっ!」

 厚志の唇が予想外の悦びに呻きを漏らす。
 ただ耐えるだけだった眼下の肉体が、途端に瑞々しく、激しく跳ねてきたのだ。力が弱くとも、その動きに厚志は心と肉体の両面から堪えようもない充足感と満足感を注がれてくる笑みを消すことができない。
 屈辱と恥辱。快楽と悦楽。一度は虜にした相手だった。いつか、溺れさせる事はできると感じていた。
 それがもう来たのだ。

「そんなにお尻を上げちゃって…いいんだ?やっぱりイイんだ?」

 支配する悦びが溢れでる口調が、茜の背中に降り注いだ。より一層の意志を込めて、厚志の腰が押し込まれ、捻り込むように尻穴にペニスを突き込まれていく。

「うぎぃっ…!あ、あおお、おおおっっ…!っ、ひ、んんんっっ!」

 感じているのは判っていた。拘束された以上、快楽に勝てるはずはないのだと。
 それでも、達したい欲望に気付きたくはなかった。
 せつない───
 求める気持ちなど、欲しくはなかった。こんな所で求めてしまったら、こんな目に遭わされているのに求めてしまったら───もう、引き返せない。

「もう、我慢できないでしょ?おチンチン、握ってあげよっか?」

 ズキリと。犯されている尻の感覚すら忘れて茜のペニスに血が送り込まれ、さらなる勃起を促されていく。言葉だけで、期待したくない悦びをほじくられるように見せ付けられる自分。茜は自分の股間で、激しく揺れているペニスを認識した。むず痒い欲望がそれを見るだけで膨らんでいく浅ましさ。しかも厚志の腰が自分の尻に一番深く当たる度、厚志の揺れる陰嚢が自分の縮こまった陰嚢にぶつかってくる感触がそれをさらに加速していく。
 もっと激しく、強く当ててもらえば、きっと我慢できない。我慢───

「でも…まぁだ」

 だが、そんな気持ちを見透かしているかのように、厚志は茜にそれを与える事はなかった。突然、色にまみれようとしていく最後の理性に響くように、意味のある言葉を囁きかけてくる。

「ねぇ…茜。僕に利用されるのは嫌かい?」
「ふぇ…?…な……に……を……ひっ?!」

 溶けかかった思考で、茜はその言葉の意味を探し出した。
 利用───それは自分が母を失ってより生きてきた全てだった。
 いつか人を利用する為に。屈辱に身を屈め、好きでもない奴等に利用されてきた自分。それが、何よりも疎ましかった。だがそれを糧として、その憎悪に因って立って生きてきたのを認めないわけにはいかない。
 そう、あと一歩だったのだ。あと一歩で、自分は全てを利用する側に回る筈だった。そして、この世界を、愚かな馬鹿共に指揮されているこの国を救うのだと。
 だがそれを、突き崩された。今ここで僕の尻を抱え、信じられない汚辱で僕を犯し、まみれさせているこの男に。
 利用される───?
 ではまた再び、今までの人生を繰り返すのか僕は。この男の下で、惨めに肉を苛まれながら僕は───

 だが。

 憎悪の後に残ったものは、何も無かったと心の奥が叫んでいた。
 世界を、愚かな民人達を自分の力で救い、この世界を幻獣の手から守り抜くという熱く気高い想いも、全てはその先にあったのだから。
 憎悪する前に戻る事はできなかった。時間は戻らない。
 復讐した先に進む事もできなかった。チャンスはもう来ない。
 無情、だった。
 もう、先を見る事が茜にはできなかった。ただ、ここで戦っていく。無為に、ただ戦いを続けていく。志を持ち、見識すら秀でていたが故に、茜にはそれが耐えられない事だと判ってしまっていたから。

「君に目的をあげるよ。僕を、愛する目的を」

 下を向いた茜が何を考えているのかは気にしなかった。ただ。
 愛。
 噴飯ものの台詞を厚志は茜の耳に送り込んだ。なぜなら、薄紙一枚隔てた感情なら、それが簡単に生まれ出る事を厚志は知っていたから。共に人生を、永遠を生き抜くただ二つの感情。そして、人生すら擲って恥じない、いや、新たな人生そのものとすらなれる、ただ二つの感情。
 ───ならばもう一度。

「あ……ひ……?」

 何を言っているのかこの男は。
 凌辱され、蹂躙されて生まれる愛など、あるはずも無い。もしあるのなら、それは全く逆の、でなければ奴───

 ずん。

「やはぁあ?!ああ、あおお、うああっっっ!!」

 腰がぶつかる鈍い音。そして、蕩けるような衝撃が茜の全てに走り抜けた。
 これ、これだ。理性を塗りつぶすように、その答えが茜の脳裏を駆けめぐっていく。
 これが、愛。蹂躙されても、尚、きっと、もっと、これが───

「やはっ!あ、あぉ、ぉひっっ!あああっ!!!」

 ゆっくりと、だが止まる事なく厚志の腰が前後に動いていく。脇腹と尻をしっかりと握り、その柔らかい魅惑の穴に自分を突き入れて、抜き出していく。

「やぁっ!も、もぅ、ぅひっっ!だ、だぁっっ……!!」

 悦びながら。喜んでいく。

「ねぇ…利用、されたいでしょ?僕に…それとも、やっぱりイヤ?」

 哀しそうな声で、だがいつもの笑顔のまま。厚志の動きは、止む事はなく。

「あ…ひっ……い…ゃ…ぉぉっ!!…じ…、い、や……な……」

 茜の喘ぎに呆けた喉から、言葉になりそうでならない声が。

「イヤなの?」

 どんっ!

「ぅああああっっっ?!ああ、あ、おおおおっっっっ………!!」

 尻の奥の骨が軋む程に強い勢いで、厚志の腰が茜の尻肉に激突した。
 今迄で、一番深い所まで貫かれる快感。割り開かれ、平板になった尻の窪みの奥に、膨らみきった肉棒の根本までがしっかりと埋め込まれ、そしてまだねじ込もうとするかのように押しつけられていく。

「ねぇ、どうなの、茜」

 ずる…

「お、おひぃいぃぃいっっっ?!おお、おほおおおっっっ…!」

 濁った汁を絡みつけながら、厚志のペニスがゆっくりと白い肉から引き出されていくのに合わせるように、茜の涎まみれの口から獣のように声が上がった。
 咥え込まれた赤黒い男根が、茜の肛門から生えるように後ろへと伸びる。ひきずられるように伸びきる肛門の縁が痛々しく見える程に、ゆっくりと、ゆっくりとその動きは続いていく。

「い、いやぁ…そ、そんなゆっくり、す、するなっ…ああ、ああおおっっっ!!!」

 何度も、何度も、その行為が繰り返されていく。激しく、熱い快楽ではない。深く残り、重く蠢くせつない快楽。届かない、そこまで行こうにも足枷を填められたかのように辿り着けない、生殺しのような快楽。

 ずんっ!

「んひいぃいいっっっ!!……り…りよ…っ…て……ああっ!…れ……ぇぇっっ!」

 溢れる涎と一緒に、茜の声がこぼれた。
 涙も、ことによっては鼻水さえもこぼしている惨めな美貌の主が、さらに溢れる涙をこぼしながら、口を動かしていく。

「何…?ふふ、聞こえなかったよ。もっと、大きい声で言ってよ」
「あう、ぅ、ひっ、も、ぅ、ああっっ!て、……てくれ、ぁぁあああああ!!」
「強情なんだね。もうこんなになってるのに……それとも、もっとお尻を掘って欲しいんだ?あんなに嫌がっていたのに、本当は肛門でセックスして欲しかったんだ?」
「あいいぃぃいいっっ?!!いぃ、いひぃいいぃいっっっっっ!!!」

 笑いながら、厚志の腰が踊った。いままでの優しさをかなぐり捨てるような激しさで、上へ。下へ。違うリズムで、中に挿し込んだ肉棒で肉穴の奥を拡張でもするようにまんべんなく。
 声にならない声がなによりも甘く、悲痛な悦びにまみれたよがり声を迸らせる。

「あああっ、いや、そんっ、な、ぁひぃいいっっ!!やめ、ああああっっ!!」

 厚志は笑っていた。そうやって、茜の肉体が快楽を知る限りはどうやっても逃れられない地獄に落とし込みながら答えすら言わせずに嬲り続ける。

「いやぃひいいっっ?!!あおおっ、そこ、あぐぅ、ぅうあああっっ!!!」

 ───もう、もういいんだ、お願いだ、お願いだ!

 いまや茜の思考はただそれだけに染まっていた。
 直腸を犯す灼熱の棒に、尻が、腰が、もう蕩けそうにわなないていた。
 男なのに、などと思う理性すら消え失せて、尻の奥を刺激する太くて硬い暴虐の塊に合わせて肉体が踊っていくのだ。
 耐えられはしない。耐えられは───

「だ…だめっ……だ……あああああっっっっっっっっっっ!!! 」

 びゅぶるっっ!どびゅっ!びゅびゅっぅっっっ!!

「あややあああああっっっっ!!!!!ひゃぁ、あああっっっっっ!!!」

 ぶりゅるりゅりゅっっっっっ!!!!!!!

「ぁああっっ!!や、とまっ、あああっっっ!!おおおっっっ!!あはおおっ!!」

 まだ、尻の中に厚志がいるのに。
 茜はその肛門を襲う快楽に引きずられるように我慢の限界を超えていた。
 射精。
 全身の血がペニスから出ていくかのような、何か全てが吸い出されるような至福の瞬間。

 どくん!どびゅ!どびゅびゅっ!びゅるるるっっ!!!

「ああああっっ!あ、あひ……あおおおっっっっ!!」

 肛門の奥にあるそこをこじられる鈍い快感は、限界まで茜のペニスの爆発を遅らせ、そして射精の快感をこの上ない所まで増幅してしまっていた。

「うは……あ…あぐぅ……ぅひ……あ……はぁ……!!」

 茜のペニスが踊り狂い、その筒先から白濁した粘液を大量に撒き散らしていく。そしてその凄まじい射精は、あちこちにその汁を撒き散らし、その快感を倍増させるかのように働いていた。
 顎と喉に貼り付いた熱い粘塊の感触。そして目の前にある机にまで届いたその白い汚液が、そしてそこから立ち上る甘ったるい排泄物の匂いが、目と肌と鼻を通して茜の本能に最後の火を灯していく。

 どくんっ!どくんっ!ぎゅぅぅっ……

「あっ、す、凄いっ…!」

 その時、絶頂に達した女のように、射精に震える茜の肛門と直腸の襞が、奥を掘り返す肉棒にすき間無く絡みつき、限界を超えた強さで締め付けていた。
 茜のペニスを射精の脈動が襲う度、厚志のペニスに射精を促そうとするかのように肛門が引き絞られていく。

「もっと、もっと茜!もっとして!もっとイッて、もっと射精してっっ!ああ、こんなにイイなんて凄い!イイよ、ほんとにイイよ茜のお尻ぃいっっっ!!!」

 無意識に、無造作に、快楽に我を失ったかのように厚志が腰を振っていた。信じられない程に長く続く茜の射精を感じながら手を前に回すと、さらに太く、高く反り返ったペニスを握り込み、容赦なくそれを扱き上げていた。

「や、やはぁあひぃいいっっっ!!!

 手の中で握ったペニスから精液が噴き出していくのを感じながら、厚志は茜の尻穴を思う様掘り返す作業に没頭していく。

「あやぁあっっ!!ひ、ひぃいいっっ!やめ、もう、うあぁ!ああああっっっ!!」

 めくるめく時間。射精という、男にとって抗う事のできない最高の至福に身を灼かれながら、茜はそれを強制されるという痛みに耐えなければならなかった。
 射精を続ける男根。その、硬く、腫れてしまった亀頭が激しく擦られ、敏感になりすぎたペニスの肌がぬるついた手のひらに握り込まれ、音高く扱かれていく。
 そして、その脈動を味わい続けるように、奥深く、まるで喉から吐き出したくなる程に深く突き刺されたペニスが尻穴の奥をほじり返すのだ。

「もっと、もっと締めてっっ!!」

 厚志の腰はもう止まらなかった。いまや尻穴が裂けるほどに醜く膨らんだペニスを、咥え込んでいる茜の肛門が擦り切れるほど好き勝手に叩き付ける事しかできなくなっていく。
 ペニスを握る手が一層強く、そして、尻を抱える手がそれぞれの掴む白い肉に食い込んでいく。

「ああ、イクよ、イクよ茜っっ!!」
「あああっ、やめ、うはぁああっっ!!お、おひりが、ぼく…のっ、おほあっぁああ!!!やぁああっっ!!おちん…ち、があああぁ、あああひああああっっっっっ!!!!」

 突かれる衝撃で首が狂ったように揺れる。強制的に下半身を犯され、脳髄に入力される快感があっさりと許容限界を超えていく。
 イッたままの男根が、刺激を受け続けて硬さを失わずにもう一度限界まで膨らんでいく。

「うあああっっ、おおっっ!!」
「いぎっ、ひぃいいっっ?!うあ、あい、イク、あひ、やぁああっっっっっ!!」

 びゅるるっっっ!!どびゅどびゅぅっ!
 どぷどぷどぶるっっ!!びゅばっ!びゅぶぶぅぅっっっ!!

「あやぁああっっ!う、うひっ、ああっ、熱、熱いぃぃっ!!」

 どぷぅっっ!どびゅるるっ!びゅぶぅぅっっっ!!

「いやぁがぁああっ!!あう、うあああっっ!!あひあああっっっ!!!」

 直腸に注がれる熱汁が最後の引き金を引いた。
 茜の肉体がブルブルと震え、食いしばった歯の奥からとめどなく涎が溢れていく。

「う、うぎ…ぐ、ぅぅぅっっっ!!!」

 びゅぶっ!!どぶっ!どくっっ!どびゅぅぅっっっ!!

 茜は尻の穴の奥に射精されていくおぞましい震えと、熱く溜まっていく精液の重みに気が遠くなりながらも、その身の奥までも支配された汚辱からくるしびれと股間から絶え間なく垂れ流れていく射精感にまみれ、哭き喘ぐ自分の声を上げ続けた。

 びしゃぁ!どびゅ、どぷぅうっっ!!

「ああああっっっ!!あが、ひぃ、はひぃいっっ!!ひあああっっっっっっ!!!」

 

 

 

 

 厚志は、床に崩れ落ち、二人分の精液にまみれる茜の肉体に被さって喘ぐ呼吸を整えた。

「あは…いっぺんに全部、搾られちゃったみたいだ……凄い…最高に気持ちよかったよ…茜の、お尻……強情なコが、お尻好きだって、本当なんだ……もう、忘れられないくらい…いやらしかったよ………」
「ぁ…ひ……ぜぇ……ひゅぅ……ぅぅ……ぁぅ…ふ……ぅう」

 もう、何を言われても構わなかった。
 自分の尻穴が厚志の精液を搾り取るように呑み干していく中、逆に最後の一滴まで残らず吐き出すように、茜のペニスが射精の脈動だけを激しく繰り返しながら陰嚢の精子の残り汁を撒き散らした悦楽の前では。
 尻穴の奥から全身を責める快感に全てを操られたまま、犬のように哭きながら汚濁の汁に全身が浸されていく感覚、尻に被さった熱い男の腰と一緒に下半身を射精の余韻で痙攣させながら、厚志の熱い肉と迸りを甘く蕩けた全身で受け止めた現実の前には。
 そしてなにより、涙と精液と涎と汗が、その美貌を汚し、そして匂うように艶やかに彩っている今となっては。

 だが、茜は地面で潰れたように痙攣の疼きに身をまかせながらも、真っ赤に腫れているだろう自分の尻を、そして尻穴を感じていながらも、まだ、元のままである自分を感じていた。
 ───言わなかった。
 その結果が茜の心を繋ぎ止めていた。何度も言いかけた、奴隷への一言。きっと言ってしまっていたら、もう、厚志無しでは生きていく事さえ難しくなっていただろうと感じる陶酔と誘惑の瞬間。
 だが。
 今がどれほど惨めであったとしても。どれほど激しく犯され、本当によがりながら泣いていたとしても。これならば耐えられる。そう、茜は口の端だけを満足げに歪めた。

「そんなに気持ちよかった?…ふふ、嬉しそうだね…茜」

 追い打ちをかけるように言葉をかけながら、その言葉に対する茜の僅かな否定の呻きと、尻を振るかのような身じろぎを愉しげに見つめながら、厚志は自分の股間と茜の肉穴へと細い糸を引くペニスを軽く振り、その雫を拭った。
 そして下腹部の気怠げな喪失感と、股間から去っていくすえた熱が無くなってしまう前に、足首に絡まっていた長ズボンを穿き直していく。

 カチャ。

 絵に描いたような、凌辱の現場。
 下半身を晒して、汚く惨めに打ち捨てられた被害者。
 何事もなかったかのように服を直し、悦びと嘲りの表情を浮かべる加害者。
 確かに、それは悦びに満ちた凌辱であった。
 だが、それは誰に向けた嘲りであったろう。

 何をしても、共に歩んでゆこうと。
 どんな事をしても、護ってゆこうと。
 何よりも、自分のできる事を最大限に使って。
 ただ、それだけの為の嘲り。

「また、したくなったら連絡して?」

 事を済ませた爽快さすら含んだ声で、厚志は扉へと向かいながら背中越しに震える茜へと声を飛ばした。

「…なっ…そんな…事があるはずない…だろっ…!!くそ、こ、この……人でなしが…!」

 悦楽の忘我から回復し、元のプライドを取り戻した茜の怒声が響く。それは本気の罵倒だったが、その端々には、甘いなにかもあるように感じられるものでもあった。
 そんな声を聞きながら、厚志は後頭部で視線を遮った見えない顔で、プライドを保つ事のできた茜の最後の唇を思い出していた。そしてその記憶の唇を満足げに見つめる自分の顔も達成感に満ちあふれているだろうと思った。

 もう、君を誰にも振り向かせない。
 もう、君は誰にも振り向かない。
 そうやって。
 ただ僕だけを見続けて。
 ただ僕だけを憎んで。
 ただ僕だけを怖れて。
 ただ僕だけを。

「あはは」

 背中に突き刺さる、恥辱と、悦びと、憎しみに彩られた視線を感じないかのように。
 ぽややんとした顔で。
 だが、瞳だけは何か違う輝きに包みながら。

「そりゃそうさ。僕は、芝村をやっているんだよ?」

 扉が、そう音をたてて。

fin.