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ネットなりすまし事件の怖さ、誰もが「容疑者」に
犯行の手口と自衛策とは

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2012/11/17 7:00
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 今回はたまたま愉快犯に利用されたTorだが、言論の自由を守るために活用される例もある。利用者が多い国トップ10には、イランやシリアなどがランクインしている。これらの国々では、国家権力による検閲をくぐり抜けるための貴重なツールだ。機密情報を収集して公開するWebサイト「ウィキリークス(Wikileaks)」へのアクセスにも使われていた。利用方法によって毒にも薬にもなるため、一律に規制すればいいかというと議論が分かれるところだ。

13日、「真犯人」とみられる人物が落合弁護士宛に送ったメール
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13日、「真犯人」とみられる人物が落合弁護士宛に送ったメール

 今回犯人が経由したとされる米国や欧州の中継地点は、これら検閲禁止に賛同する人権保護団体や大学の研究者によって管理されているものも多いという。そこに問い合わせをしたとしても、「容易に接続情報を開示するとは思えない」(北河氏)。

 13日には真犯人を名乗る人物から「ミスしました」とするメールが、弁護士や報道機関などに届いた。添付されていた画像の位置情報を手掛かりに、捜査本部は捜査員を派遣。しかし真犯人につながる情報は14日夜の時点では見つかっていない。画像の位置情報は編集可能で、警視庁などの合同捜査本部は真犯人が捜査のかく乱を狙った可能性があるとみている。

メールに添付されていた画像=落合弁護士提供・共同
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メールに添付されていた画像=落合弁護士提供・共同

 ネット上には「(かく乱だとしても)捜査しない訳にいかないから大変だ」と理解を示す声がある一方、「今度は位置情報から、無関係の人が引っ張られるのでは」と危惧する声も挙がっている。

 こうした声を生んだ責任の一端は、ネット犯罪に不慣れな捜査機関にもある。そしてそれこそが、遠隔操作によって悪用されたパソコンを使っていた一般の人が誤認逮捕されるという「もう1つの脅威」だ。

■「2秒間で300文字打ち込んだ」と自白

 一連の事件では、誤認逮捕された4人のうち2人が自白している。中には技術的に実現不可能な内容も含まれている。

 例えば7月に逮捕された杉並区の男性(19)の場合、当初は「何もしていない。不当逮捕だ」と容疑を否認。しかし後の検察の取り調べには一転して容疑を認め、8月に保護観察処分となった。

 横浜市のサイトに送られた脅迫文は約300文字で、男性のパソコンが市のサイトにアクセスしてから約2秒間で送信されている。男性は取り調べで「2秒間で300文字を一心不乱に打ち込んだ」と”自白した“とされた。しかし同じキーを押しっぱなしで連打したとしても、2秒間で書き込める文字数はせいぜい10~20文字前後だ。誰もが試せばすぐ分かる内容に、民間のデジタルフォレンジック(鑑識)会社の担当者は「明らかなシナリオ破綻」と指摘する。

 捜査機関が逮捕の根拠にしたのは、踏み台になった被害者らのパソコンのIPアドレスだ。しかし民間のデジタル鑑識会社の担当者は「IPアドレスは車のナンバーと同じ。交通事故を起こした車を割り出す際、ナンバーから持ち主が分かっても、その時間に本当に運転していたか裏付けをとる。なぜサイバー犯罪では、それを行わなかったのか」と首をかしげる。

■誤認逮捕のリスクを減らすためには

 今回の事件で「大したスキルがなくてもウイルスが作れ、実際に感染させられるということがわかってしまった」(西本氏)。今後、より巧妙な手口の模倣犯が出ないとも限らない。気づかないうちに遠隔操作され、ある日突然誤認逮捕されたらどうすればよいのか。

 複数の弁護士は「まずは、やっていないことなのに、取り調べ時の圧力に屈して自白しないこと」と口をそろえる。もっとも、今回は杉並区の男性(19)は約1カ月半拘束、大阪府や福岡市の男性らも1カ月近く勾留されている。相当な精神的負担を伴う上、たとえ不起訴になっても学校、会社などの社会生活に支障がでるのは必至だ。

 こうしたリスクを減らすためには、まずウイルスやCSRFなどの不正プログラムに引っ掛かるリスクを減らすことが重要だ。ネットの利益は享受しつつ、リスクを最大限に減らすにはどうしたらよいのか。

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