『ぼくと、松岡と。』松岡敏夫役・高橋光臣インタビュー

どのシーンが印象に残っていますか?

ぼくはこの作品に入る前から、堀北真希さんと共演することを1つの目標にしていました。以前も同じ作品に出演したことはあったのですが、彼女は主役だったし、そのときは遠い存在でした。
『梅ちゃん先生』でその夢がかない、しかも抱擁までしてしまいました(笑)。よく取材で、「印象に残っているシーンは?」という質問を受けますが、そのときぼくは2つのシーンを答えます(本当は数えきれないくらいありますが・・・)。

1つが、松岡が青森から帰って来て、梅子に抱きつかれ松岡がそっと手を添えて抱擁するシーン。松岡の梅子への恋のスイッチがオンになった瞬間です。そしてもう1つが、アメリカ留学と梅子と別れたことを建造先生に報告しに行き、ぶってもらうシーンです。松岡にとって建造先生は、ある意味、梅子以上の存在だったと思います。高橋克実さんにやさしくぶたれた、あのあたたかな手の感触は今も残っています。

『梅ちゃん先生』のすべての放送が終わりました。
みなさんの心に残っているシーンはどんなシーンでしょうか?そこに、もし松岡がいるとしたらこの上ない幸せです。これまで応援していただき本当にありがとうございました。みなさんからのあたたかな声援はぼくの心にしっかり刻まれています。また、どこかで、何らかのカタチでお会いできるのを楽しみにしています。

そりゃあ、おもしろいに決まっている(笑)。

その話を聞いたとき、これはおもしろくなるに違いないと思いました。
10月に放送される『梅ちゃん先生〜結婚できない男と女スペシャル』のことです。このスペシャルドラマは、弥生(徳永えり)と山倉(満島真之介)の2人の関係性にスポットを当てて描かれます。ここをほじくったらおもしろいに決まっている(笑)。これは間違いないですよね。
松岡が大学病院でもうまくやってこれたのは2人のフォローがあったからこそだと思います。それを松岡が自覚しているかどうかは別にして、スペシャルドラマでは2人のために梅子と松岡が協力します。また、松岡の女版とも言えるキャラクターも登場します。
撮影では、ぼくも思わず吹き出してしまうシーンもありました(酔っぱらっている山倉は必見です)。とてもおもしろいドラマになっていますで、ぜひご期待ください。

無事、帰ってまいりました。

ぼくは、松岡が留学していた第17週(7/23〜28)から第23週(9/3〜8)までの台本はあえて読まないようにしていました。その間の展開は、視聴者のみなさんと同じようにテレビの前で「えっ、陽造さん(鶴見辰吾)が捕まっちゃった」とか、「そうか、雨の中でプロポーズかあ」としみじみと、複雑な思いで見ていました(笑)。
そしてその間、約1か月間撮影を離れていましたが、復帰していちばん最初の撮影が、第24週(9/10〜15)の建造先生(高橋克実)をはじめ大学のそうそうたるメンバーの前で講義をするシーンでした。先輩の役者さんたちを前に、たくさんの専門用語を交えながら講義する。久々の撮影にしては、かなりハードルの高いシーンでした(笑)。僕的にはそんなに緊張はしていなかったのですが、なぜか足が震えました。
梅子に対しては、松岡の恋心がどうなっているのか?みなさんも気になるところだったと思いますが、松岡らしく再会することができたのかなと思っています。また、梅子が結婚した相手が幼なじみの信郎と聞いて、一瞬で納得できたというか「ああ、彼だったのか、彼となら理解できる」という感じだったと思います。
2人の赤ちゃんを抱っこするシーンは、梅子への恋心を抱いたまま抱っこするのは良くないと思ったので、まあ、恋心は多少残っていたかもしれませんが、それを表に出さないようにしました。
もう1つこの週で、「やはり松岡は完璧ではないな」と思ったのが、建造先生にお土産を渡すシーンですね。なぜに雷おこし(笑)?アメリカで何か買ってくるのを忘れたにせよ、もう少し選択肢はあったような・・・。やはり、松岡は研究以外のことは、本当にダメですね。
3年間、アメリカに留学して、どんな松岡になって帰ってくるのだろう?と思っていましたが、松岡は、松岡でした。

夏休み特別企画『ぼくと、松岡と。』番外編高橋光臣トークショー 7/24、東京・日本橋でおこなわれた『高橋光臣トークショー』動画を公開!

松岡はアメリカへ。ぼくはトークショーへ。

当日は、会場の定員を越えるほど多くの方に(400名以上)お集まりいただき、本当にありがとうございました。
残念ながら定員オーバーで入場できなかった方は、外に設置されたモニターでトークショーの様子を見ていただいたと聞きました。わざわざおいでいただいたのに、誠に恐縮です!
それにしても、こういうトークショーは、はじめての経験だったのでとても新鮮でした。そして、すごく楽しい時間を過ごさせていただきました。ぼくのブログへのコメントや周辺の人たちから『梅ちゃん先生』や松岡の人気は聞いてはいましたが、実際にファンの方に直接お会いして(しかもすごくたくさんの方に)、反響を聞けたのはとても大きな収穫であり、喜びでした。
また、ドラマのシーンをファンの方々といっしょに見て、みなさんの反応をダイレクトに感じられたのも良かったですね。
松岡は今、アメリカに行っていますが、いつか帰って来たときには、下村先生に「よくやったな」と言われるように、一生懸命に勉強してきてほしいと思っています。そして、誰よりもぼくが、松岡の帰国を心待ちにしています(笑)。

しばしの、お別れ。

建造先生は、松岡にとって理想の医師であり、理想の父親なのだと思います。
アメリカ留学が決まって、梅ちゃんと別れて、それを建造先生のところへ報告しに行くシーン(第96回・7/21放送)は、演じていてとても切なかった。
あのシーンは、リハーサルなしで、いきなり本番でした。ぼくは、(高橋)克実さんはどんなふうに叩いてくれるんだろ?と思いながら本番に臨みました。克実さんの、建造先生の、あの手のあたたかみは、きっとドラマを見てくださった方にも伝わったと思っています。
ただ、ぼくは絶対に泣きたくなかった。松岡は、あそこで涙は見せないと思い、そこはグッとこらえました。
そして松岡は、アメリカ留学へと旅立ちました。いつ帰って来るかはぼくには分かりませんが、必ず帰ってくると信じています。
当時のアメリカの医療技術は日本と比べると雲泥の差があったそうなので、相当レベルアップして松岡は帰ってくるはず。そのとき、彼はさらに面倒くさい男になっているのか?逆にアメリカの自由な精神に感化されて、すごく軽い男になって帰ってくるのか?
ぼくも今から、松岡が再登場するであろうときの脚本を想像して楽しんでいます。みなさんも、ぜひ松岡の帰国を楽しみにしていてください。
では、しばしのお別れです。

寝る前の、ヨーグルト。

この撮影に入って、生活のサイクルは変わりませんが、寝られないことが多くなりました。次の日の撮影のことを考えると、楽しくなったり、テンションが上がったりして、寝られなくなるんです(笑)。
あと、松岡のことを考えていると寝られなくなるんです。
松岡の思考回路について考えていると、どうしても理解不能だったり、「ばかだなあ」と思ったり、逆に「すごいな」と感心したり、そして最後には、何だかおもしろくなって寝られなくなる(笑)。
で、「寝られないのはまずい」と思って、いろいろ調べてみたら、寝る前にヨーグルトを食べると寝られるというので、今はヨーグルトを食べています。
特に寝られそうにないときは、走ってカラダを疲れさせてから、ヨーグルトです。

「あっ、松岡だ!」

ぼくは、自分と松岡が似ているとかは感じてないんですけど、この作品に入るときに、プロデューサーや監督から「あなたはそのままでいいですから」って言われました。
ぼく的には「はあ?」って感じでした。脚本に描かれている松岡というキャラクターと自分のどこが似ているんだろう?分からない!
でも、「そのままでいい!」と言われる。
解(げ)せない!
ぼくより松岡に似ているのは、実はこの作品の監督の1人であるKさん(女性)じゃないかと思っています(笑)。
ある日、K監督が何かを考えながら、ちょっと前のめりでずんずん歩いている姿を見たとき、「あっ、松岡だ!」と思いました。
さらに話し方も松岡っぽい。ほかの人とは話すテンポが違うんです。それで、この間考えてみました。「何がほかの人と違うんだろう?」って。
わかりました!
何かを質問したりすると普通の人は、答える前に思考するために「えーと」とか「うん」とか一呼吸置いてから答えますが、K監督の場合、考える時間が省略されているんです。間髪入れずに答えが返ってくる。きっと頭の中がグルングルン猛スピードで回転しているんでしょうね。それって、松岡っぽいですよね。
Kさんの歩き方、そして間髪入れない返答の仕方。松岡のキャラクターづくりに参考にしたいと思っています。

行くぞ!戦隊ヒーロー!

梅子と松岡、信郎と咲江の4人でダブルデートした場面(第13週・6/28)がありました。
信郎役の松坂桃李くんとぼくはかつて、違う時期ですが“戦隊もの”のヒーローをやっていました。当時ぼくのなかでは、子どもたちのヒーローものでは、“戦隊もの”と“ライダー系”があって、“ライダー系”のヒーローは番組を卒業するとどんどん活躍していく、というイメージがあったんです。それが、納得できなかった。
ぼくが“戦隊もの”をやっていたときの“ライダー系”は、水嶋ヒロくんがやっていました。すぐに、彼は活躍していきました。
悔しかった。やっぱり活躍できるのは“ライダー系”なのか?
でもそのあと、“戦隊もの”出身の松坂くんの人気がグングン出てすごい勢いで活躍していった。「そら見ろ、“戦隊もの”でも活躍するヤツはいるぞ!」と「よっしゃ、おれも追走するぞ!」と。
ですから、この作品に入ったときから松坂くんのお芝居には注目していました。彼が役者をはじめたころに一度会っているので、その後彼はどんな景色を見ながら成長してきたんだろう?と。
同じ“戦隊もの”出身として、お互いに切磋琢磨しながら、もっともっと上を目指したいです。

松岡、スイッチ・オン。

梅ちゃんに出会う前に、松岡は恋愛をしたことがあったのか?
そこは、重要ですよね。
脚本を読む限りは、深い恋愛関係のもつれとか、経験してないように思えます。経験していたら多少免疫があると思うし、女心に気づく部分もあると思うけど、ほとんど気づかないので、きっとないだろうな、と。
松岡が青森から帰って来たとき、梅ちゃんに抱きつかれ、そのあとに下村家に行ったときには、「梅子さんとお付き合いしています」といきなり建造先生に宣言します(第72回・6/23放送)。ぼくの中で、あれは衝撃でした。
脚本を読みながら、「そうか、梅子に抱きつかれたときに松岡の場合、スイッチが入っちゃったんだ」って(笑)。きっと彼のなかでは、“抱きつかれた”=“付き合う”なんでしょう。
そんな男ですから、恋愛経験なんてないですよね。
それにしても変わった男です。「デートの定義は何だ」とデートについては深く分析するくせに、付き合うときはさらっと付き合ってしまう。
不思議な男です。

変なヤツが来た!

撮影現場は楽しくてしようがないです。
堀北真希ちゃんとの共演は3作目なんですが、その前の2作品はほとんど絡むことがなく、遠くから「かっこいいな」と見ていただけだったのに、今回はいきなり隣にいる。もう、それだけも「ヤーホ、ヤーホ」って感じです(笑)。
それだけでもうれしいのに、周りには高橋克実さん、倍賞美津子さん、鶴見辰吾さん、世良公則さんなど、勉強させていただける方がたくさんいらっしゃる。そしてみなさんからいろいろな話を聞くのがすごく楽しくて。
倍賞さんからもいろいろな話を聞かせていただきました。しかもここでは言えないような話ばかり(笑)。「倍賞さん、マジか!そんなことがあったのか」と1人で興奮しています。
あと、コイちゃん(小出恵介)とは昔からの友だちで、ぼくがこの現場に入る前から、コイちゃんがほかのみなさんに、松岡というキャラクターは変な男だけど、それをやる高橋光臣という男も同じくらい変なヤツだと言いふらしていたんです。
だからぼくが現場に入ったときは、「すごく変なヤツが来た!」みたいな空気になっていて・・・。でも、そのおかげで、すぐに現場にとけ込めたので、それはそれでありがたかったです。
ぼくから言わせると、コイちゃんのほうが相当変なヤツなんですけどね(笑)。

カントと、2時間。

(心中未遂した)弓子に松岡がしゃべったカントの言葉は難しかったですね。
脚本を読んでも、読んでも、わけが分からなかったです(笑)。
で、松岡が引用したカントの『純粋理性批判』を、ぼくもちゃんと読もうとしたのですが、やはりものの見事にわけ分からない(笑)。ざっくり言おうとしている外枠は理解できても、中身はどうも分からない。
ほかのカントの本にも目を通しましたが、やはり分からない。
悩みましたね、カントの本を、買うべきか?買わざるべきか?
・・・買っても、自分はこれを理解できるか?
結局2時間、本屋さんで悩み、買うのをやめました。
賢明な判断だった思います。
カントとぼくは、どうも相性がよくないようです。

松岡が、好きだ。

天才と紙一重というか、何か1つのことにものすごい集中力を発揮できる人をぼくは尊敬するので、松岡の医学に対する姿勢は憧れますね。そして、恋愛に対してはとても不器用なところも好きです。
たとえば、梅子といっしょに見た恋愛映画をきっかけに、わざわざ遠くの映画館まで『カサブランカ』を見に行ったり、恋愛に関する小説や資料を集めてみたりする。脚本を読みながらぼくは「こんなヤツはいないだろう、ばかだなあ」と思うんですけど、でも同じ男として好きだなと思ってしまう。
とてもかたよっていてヘンなとこがいっぱいあるけど愛すべき点もたくさんあるので、ぼくはすごく好きな人間ですね。女性が見てどう思うかは分からないですけど(笑)。
松岡はとても面倒くさい男ですが、ぼくはそんな彼と作品のなかでいっしょに生きていきたいと思っています。

真剣だから、おもしろい。

ぼくの持論ですけど、ドラマの中でクスっとおもしろいシーンは、演じる方は真剣にやらないと、と思っています。何かの本で、「喜劇は悲劇、悲劇は喜劇」と書いてありましたが、楽しい作品であればあるほど笑わせようとしないで真剣にやるほうがおもしろい、悲しい作品であればあるほど笑顔で演じるほうが悲しい、ということだと思います。
松岡のようなキャラクターだからこそ、真剣に演じれば演じるほど、(脚本家の)尾崎さんの世界に入っていけるのではないかと思っています。
ぼくはそこを崩したくない。脚本を読んでいて、「ここっておもしろいシーンだな」ってわかるんですけど、そこを「おもしろいでしょう」と思ってやると絶対失敗する。撮影の合間も松岡に入っていますね。
「あそこでおもしろい話をしてるな」「話に加わりたいな」と思いながらも、セリフをひたすら繰り返したりしながら集中しています。