そうすると、籍を得た後の人々の行動は、「籍を失わないように」「堤防の外にはじき出されないように」という目的が第一となる。クビにならないように、退学にならないように、離婚だけはしないように……と。
そういった価値観の下、社会制度もまた、堤防型の整備をする。終身雇用制、年功序列制、入社後の手厚い社会保障や福利厚生、大学や高校の入試、盛大な結婚式なども、全て「堤防の内側で安心」、裏を返せば「堤防の外側に行けば人生終わり」という状況をつくり出すのを、助長するものだった。
「投げ出されない」ことが重要
堤防型社会の価値観と社会制度
この価値観と社会制度のマッチングは、戦後の日本ではうまく機能してきたと言ってよいだろう。熾烈な受験競争に勝ち残った若者は、一流大学という「堤防」の内側に入り、その後さらなる「堤防」の内側でより強固な安心を得るための「一流企業入社」を目指す。
また、結婚して家を持つという行動が社会的な信用につながるため、結婚式には親戚、仕事関連の人を招き、相当なコストをかける。このことは、婚姻関係という「堤防」の堰を高くし、離婚する際の心理的、経済的なコストを高くすることになる。
結果として、離婚することのハードルが上がり、「家庭内離婚」状態でも正式な離婚はしないという、「堤防から出ない」選択が増える。
堤防の中で安心に浸ることのできる人々の行動規範は、「堤防の外に投げ出されないこと」に尽きる。
会社をクビにならないように、大学は成績最低でも卒業はできるように、家庭内離婚でも表向きは結婚を続けていられるように、「ミスをしない」ことが最も重要となり、リスクを承知でチャレンジするような行動が否定されがちになる。