空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第二十八話 2010年 クリスマス記念LAS小説短編 投げ捨てられたプレゼント


惣流アスカと碇シンジは幼稚園の頃からの幼なじみ。
第三新東京市のコンフォート17に住んでいたシンジの家族の隣に、ドイツからアスカの家族が越して来たのだ。
最初アスカはドイツ語しか話せなかったので、周囲から孤立していた。
そんなアスカに初めての友達になってあげたのがシンジだった。
ゲンドウは学生時代ドイツに留学していた経験があったので、ドイツ語は上手かった。
しかし、ゲンドウは自分がアスカの理解者になるより、息子にその役目をさせる事を考えたのだ。
ユイも隣家の少女が孤立してしまっている事に心を痛めてシンジがアスカと仲良くなるように後押しをした。
アスカはシンジと友達になれた事で、シンジの妹のレイ、友達であるトウジ、ケンスケ、ヒカリとも仲良くなれた。
そして、日本語も上手に話せるようになってクラスメイト達ともコミュニケーションがとれるようになっても、アスカの親友はシンジである事に変わりは無かった。

「アスカ、女の子にクリスマスプレゼントを贈りたいんだけど相談に乗ってくれないかな?」

小年生になって初めてのクリスマス、シンジから話を持ちかけられた時はアスカは嬉しさで心の中で飛び上がりそうな気持ちになった。
それを必死に押し隠して、シンジに答える。

「ま、まあシンジじゃ変なものを選んでしまいそうだしね。アタシが見てあげるわよ」
「よかった、アスカが選んでくれるなら安心だよ!」

シンジは笑顔になってアスカに感謝の言葉を述べた。

「そりゃあ、アタシが貰うものだし当然よ」
「アスカ、何か言った?」
「ううん、何にも!」

アスカのつぶやきはシンジの耳に届かなかったようで、シンジに尋ねられたアスカは首を横に振った。
シンジとアスカはその日の放課後、商店街の洋品店へと足を運んだ。

「ねえ、手袋なんて良いんじゃない?」

アスカは赤い小さな手袋を指差して、シンジに勧めた。

「プレゼントしたら、喜んでくれるかな?」
「これから寒い季節だし、ピッタリよ!」
「うん、お母さんからお金をもらって今度買いに来るよ、ありがとうアスカ」

自信たっぷりのアスカの言い分に納得したのか、シンジは赤い手袋を買う事を即座に決断した。
そして、クリスマスイブの日。
シンジとアスカはシンジの部屋でお互いのプレゼントを交換する事になった。

「はい、いつもみんなに配っているプレゼントだからシンジにもあげるわ」

アスカはそう言ってクッキーの入った袋を渡した。

「うわあ、アスカのお母さんが焼いてくれるクッキーっておいしいんだよね」

アスカの家族はドイツに住んでいたので、そのクッキーはレープクーヘンと呼ばれる特別なものだった。
レープクーヘンとはクリスマスの飾り付けに使われる、はちみつがたっぷり、スパイスの香りがたっぷりと効いた焼き菓子だった。

「こ、今年のレープクーヘンは特別製だからいつもと違った味がするかもね」
「そうなの?」

アスカは少し顔を赤らめながらシンジにそう言った。
急にシンジにプレゼントをもらう事になったアスカだったが、どんなプレゼントを用意すればいいか思いつかず、自分の手でレープクーヘンを焼く事で気持ちを込める事にしたのだ。

「ねえ、食べてみてよ」
「今すぐ?」

早くシンジに気が付いて欲しいアスカは、レープクーヘンを食べるように急かした。
シンジはレープクーヘンを口の中に入れてじっくりと味わう。

「うーん、いつもと変わらないおいしいレープクーヘンだと思うけど?」
「そ、そう?」

シンジの味覚が鈍いのか、アスカの料理の腕がキョウコに肉薄しているのか。
感想を聞いてアスカはガックリと肩を落とした。

「僕もプレゼントをもらってばかりで悪いから、今年はお返しをしようと思って」

シンジの言葉を聞いたアスカは気分を直して顔をあげた。
アスカがシンジからプレゼントの箱を受け取って開けると、その中にはアスカが選んだ赤い手袋が入っている。

「ありがとうシンジ」

アスカは笑顔になってシンジにお礼を言って、赤い手袋を胸に抱え、シンジの部屋を出てリビングに向かった。
レイやユイにシンジからもらったプレゼントを見せるためだ。
しかし、碇家のリビングに着いたアスカはレイが真っ赤な手袋をしているのに気が付き青い顔になった。

「レイ、その手袋は?」
「お兄ちゃんからのクリスマスプレゼント、アスカお姉ちゃんも、もらったの?」

無邪気な笑顔で答えるレイ。
アスカは後ろから追いかけて来たシンジの方を振り向くと、顔を真っ赤にして怒り出す。

「ぬか喜びさせないでよ、このバカシンジ!」

アスカはシンジに赤い手袋を投げつけると、泣きながらシンジの家を出て行ってしまった。

「ど、どうしたの?」

突然キレたアスカにシンジは訳が分からず戸惑うばかり。

「シンジ、今すぐこれを持ってアスカちゃんを追いかけなさい!」
「どうして?」
「女の子を泣かせたのよ、早く!」
「う、うん……!」

ユイに言われたシンジは、手のひらでユイからのプレゼントを受け取ると急いで家を出て隣のアスカの家へと向かった。

「ユイ、レイ、シンジ、帰ったぞ」
「お帰りなさいませお父様」

その日の晩、家に帰ったゲンドウは玄関で正座して出迎えたアスカを見て目を丸くした。

「ど、どういう事だ?」
「だって、アタシとシンジは婚約したんですもの」

アスカの言葉を聞いたゲンドウは吹き出して膝を折って倒れ込んだ。
嬉しそうな笑顔を浮かべるアスカの左手の薬指には指輪がつけられていた。
しかし、サイズは少し大きめだったようだ。

「……これはユイが付けていた指輪か?」
「そうよ、もちろん左手の薬指の指輪はあげてはいませんけどね。右手の方をアスカちゃんに」

ゲンドウの言葉に、遅れて玄関に顔を出したユイが笑顔で答えた。

「だってアスカちゃんって可愛いんだもの、是非レイのお姉さんにしてあげたいわ」

ユイは後ろから引っ張って来たレイの頭とアスカの頭を抱きしめた。
そして3学期の始業式の日、アスカは朝のホームルームで教壇に立った担任のミサトを押し退けて、シンジとの婚約発表をするのだった。
クラスメイトのおめでとうの言葉に囲まれたシンジは、アスカと共に照れ臭い顔でありがとうと答えるのだった。

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