特定のEDなし?瑞穂が男とばれた後日談?

 渡されなかった卒業証書 

  ある年ある日の午後の生徒会室。
「会長・・・平成17年度の書類はどこにあるのですか?」
見ていた書類から、顔を上げて
「17年度ですか・・・」
表情を曇らせた会長を見て
「なにか・・・・あったのですか?」
好奇心半分で問いかけた役員に
「い・・いいえ・・・なんでもありませんわ。17年度の書類なら、奥の書棚ですよ」
役員の1人が指示された書棚から書類のバインダーを取り出した時、奥から1冊の封印されたファイルが
出てきた。
(あら・・・なにかしら?)
取り出すのに邪魔なバインダーをすべて取り出すと、そのファイルを取り出した。
(会長なら、何かご存じかもしれませんわね)
必要なバインダーとそのファイルを手にすると席に戻ったが
(やはり、気になります)
ファイルを手に会長の前に立つと
「会長・・・このファイルなのですが・・・なぜ?」
二人のやりとりに、他の役員も聞き耳を立てているようなので、ため息を1つ吐くと
「17年度生徒会会長だった。厳島貴子さまが、封じられたと聞き及んでいます。詳しい事情は、私も存じませ
んが、中身は卒業証書だそうです」
「ええーーー」
「なんで」
騒ぎを封じるように


「貴子さま以降・・・代々の生徒会長には、この証書の方が再び姿を見せられるまで、生徒会で責任を持って
お預するようにと、申し送りされてます」
ここで、言葉を句切ると
「私の知っていることは、これですべてです。人様の過去を暴き立てるのは、恵泉の生徒としてどうかと思い
ますわよ・・とはいえ気になっているのは確かですが」
両手で執務机を叩くと
「貴子さまにご連絡して、詳細をお聞きするべきしょうね。話していただけるかどうかは分かりませんが」
卒業生名簿を取り寄せると、貴子に連絡を取るために部屋から出て行った。

 数日後。午後の生徒会室
生徒会長は、丁寧な一礼をすると
「ご無理なことお願いして申し訳ありません。」
ファイルを一瞥して
「あの方は、恵泉には生涯近づかないおつもりなのでしょうか?」
後悔、懺悔、深い悲しみ、それらの入り交じったような表情を浮かべると、当時変わらない窓の外に目を
向けて
「私・・・いいえ、私たちの愚かさが、あの方に取り返しのつかない心の傷を負わせてしまったのです」
重苦しい沈黙の後
「17年度エルダーシスター”宮小路瑞穂さま”・・・その卒業証書を受け取る権利のある方の名前ですわ」
そうつぶやいた。
生徒会役員たちは、驚きを隠せないでいた。恵泉の生徒にとって、その名前は尊敬に値するからだから
「お・・・おねえさまが・・・・なぜ」
貴子は
「聞いてどうなさるおつもり?」
言外に興味半分ならお断りという意味を込めた問いかけをした。
会長は、自分に気合いを入れると
「生徒会業務に必要だと判断いたしますので、理由は貴子さまの後悔を繰り返したくないからです」
「聞いても、気分のいい話ではなくてよ?」
「それでもです。耳の痛い話は聞きたくないのですが、それでも、聞かなければ判断を間違える要因になる可
能性があります。会長職を務めるものとして誤った判断を下す要素はできるだけ減らしたいのです。」
 貴子は苦い笑みを浮かべると
「そこまで言われるのなら、私の・・・いいえ私たちのミスをお話しますわ。少し、時間をいただけるかしら
出来るだけ詳しく思い出したいので」
貴子が空いている席に座ると、役員の1人が飲み物を買いに部屋から出て行った。

 全員の前に飲み物が置かれると、貴子は1枚の写真を取り出して、テーブルに置いた。
「この方が、宮小路瑞穂さん。・・・・・・得票率82%を得たおねえさま。得票の譲り合いではなくね」
息をのむ音が、いくつも聞こえてきた。写真には、柔らかな笑みを浮かべる瑞穂の姿が写されていた。
「容姿端麗、文武両道、礼儀作法はもとより、護身術までたしなまれた方ですわ」
現役役員が見終わった後
「この方が、男性と言ってたら、信じていただけるかしら?」
全員が驚きの表情を浮かべたまま、首を横に振った。
「ですわね・・私も信じられませんでしたから・・・瑞穂さんは、お祖父様のご遺言で本学に開成から、転
入されました。当時、この事実を知っていたのは、学園長、教頭先生、担任の先生、後は、御門まりやさん、
十条紫苑さん・・・ぐらいでしたかしら?」
 一度言葉を区切ると
「私が、生徒会のお手伝いをお願いしなければ・・・あのようなことにならなかったのかも知れませんね。
あの日・・・私が代わりに買い物に出かけていれば、あのようなことにならなかったのかもしれません」
貴子の口からは、後悔の言葉が留まるこなく出てきた。誰も口を挟むことが出来ずに貴子の言葉を黙って
聞いていた。
「あの日。いつものように瑞穂さんがお手伝いにきてくださったのだけど、その日は、手伝っていただくよう
な事なく・・・会計監査役の君枝さんのお手伝いと言うことで、買い物をお願いしたのですわ。それが、あの
忌まわしい事の発端になろうとは・・・想像すらしていませんでした。」
苦々しげに言い切る貴子をみて、現役の役員たちは、顔を見合わせていた。
「あの・・・そんなに忌まわしい事が?」
「ええ、この恵泉の生徒にあるまじき暴挙です。学内の備品を汚損するなど・・・集団心理の醜さ、恐ろしさ
を、まざまざと見せていただきました。」
 気を静めるため、用意された飲み物に口を付けると
「事の起こりは以前に君枝さんが、たちのよくない男に付きまとわれた事ですわ。瑞穂さんが追い払ってくだ
さったそうなのですが、それを根に持ったのか・・・買い物中の二人を見つけて」
「探していたのでしょうか?それとも偶然に?」
突然の問いかけに貴子は
「探していたのかも知れませんね。君枝さんの話では、仲間らしい男が後から現れた言ってましたから・・・
その男たちが立ち去った時、秘密がばれたのです。立ち回りのせいで、ブラジャーの中の詰め物が外れたので
す。君枝さん1人なら、まだ手の打ちようが有ったかと思いますが、事情を知らない生徒も多数目撃していた
というのです。いうまでもないことですが恵泉は女子校です。しかも、瑞穂さんは”エルダー”でした。エル
ダーが女装の男だった」
「最悪」
「しかも、正体が分かる前の瑞穂さんは、絶大な人気を誇っていました。細やかな気遣い、気さくな態度、い
ろいろな相談にも親身になって対応していました。まさに、エルダーに相応しい人でした。押しつけられたに
も拘わらず・・・それなのに、私は・・・・私は・・・瑞穂さんの窮地にただ立ちすくんでいるしかなかった
のです。なに1つ有効な対策も立てられず、私のミスをミスと分からないようにフォローして頂いたにもで
す。」
テーブルに両手を叩きつけて絶句する貴子。激情を隠そうともしない貴子の姿に現役の生徒会役員は呆然とす
るしかなかった。
「その人気の高さが仇となりました。空気の乾燥した強風の日に火事が起きたようなものです。話は一気に広
がり翌朝には、ほぼ全クラスに知れ渡っていたようです。気丈にも、登校された瑞穂さんを待っていたのは、
冷ややかというより、拒絶の視線と感情というものを削り落とした言葉、誹謗する落書き・・・・自分たちと
異質なものを排除しようとする有形無形の圧力でした。」


顔面蒼白になりながらも、気力を奮い起こして、もつれる舌を操り
「た・・・貴子さま・・・。瑞穂さまにお味方は?」
問いかけた役員の顔を見て
「紫苑さんとまりやさん。このお二人は、おそらく・・でも、あの方は、ご自分が悪者になることで、他の方
への誹謗を防いだのです。ご自分がいたのでは、授業にならないだろう判断されたのか、終日屋上で過ごされ
たそうです。おそらく・・・その時に”自主退学”を選択肢にいれられたのではないかと」
「そういう状況では、生徒会への抗議が殺到したのでは?」
役員の1人からの問いかけに
「ええ、判で押したような抗議文が時間を逐うに従って積み上げられていきました。確かに生徒会には絶大な
権限が与えられてますが、それも限度というものがあります。その限度以上の要求をされましても応えること
は出来ません。かといって生徒の要求を無視するわけにいきませんし、放課後には、投石で寮のガラスが破損
する事態にまで発展しました。そこまで、事態が進展したのにもかかわらず生徒会として有効な方策を打ち出
すことすら出来ずに、ただ時間だけが無情にもすぎていきました。」
 現役役員たちは、顔を見合わせると
(そ・・・そんな事態どうやって対策たてればいいんですか?)
「寮に投石ということは。瑞穂さまは、寮にお住みでしたのでしょうか?」
「ええ、当時寮に住んでいたは、瑞穂さん、まりやさん、由佳里さん、奏さんの4人でした。これも後から
まりやさんに伺ったのですが、自分のせいで他の人にけがをさせてはいけないとその日のうちに、寮を出て
ホテルに宿泊されたと・・・おそらくは、その夜自主退学を決意されたのでしょう。学内を騒がせた責任を
とるために・・・だれが、そんな責任の取り方をしてくださいっていいましたか。学内を騒がせた責任なら、
有効な方策を打ち出せなかった生徒会にもあります。一夜が過ぎ冷静さを取り戻した人たちもいましたが
全体の雰囲気は、瑞穂さんの排斥でした。」
あまりに重苦しい話題を変えようとして
「あの・・・瑞穂さまはどうなさったのですか?」

のどを潤すと貴子は
「翌日・・・つまり騒ぎが起きて2日目の朝。学園長に”自主退学届”を提出して、この恵泉を去っていかれ
たそうです。その時点では、私たち生徒会はもちろん、親しいまりやさん、紫苑さん、可愛がっていた奏さん
誰も、その事実を知りませんでした。」
打ちのめされた雰囲気に耐えきれなくなった役員の1人は
「わ・・・私・・・飲み物を買って参ります。貴子さまのカップも空のようですので、貴子さまの分も一緒に」
呪縛から解かれたように他の役員は、次々と部屋から出て行き貴子一人が残された。
(おねえさま・・・私を憎まれてかまいません。せめてお元気でお過ごしかどうかだけでも、知らせていただけ
ないものでしょうか?)

 澱んだ空気も入れ換え、新しい飲み物に入れ替えたところで
「まだ、続きをお望み?」
貴子の問いかけに会長が代表して
「はい。ここまでお聞きした以上最後までお願いします。貴子さまの古傷を抉るような不作法は、幾重にもお
詫びさせていただきます」
貴子は、軽く目を閉じると気力を蓄えるかのようにしばらく沈黙した後、
「私たちにも、遅ればせながら”自主退学”するかも知れないとの噂が流れてきました。その噂は広まるに
従い”するかも知れない”から”する”に変わってきました。一気に熱が冷めていくと同時に、本人の事情も
聞かずに退学に追い込んでしまっていいのかという疑問が口々に語られ始めました。誰にでも隠しておきたい
事があるはずなのに・・・と、まるでオセロの駒を裏返すように、排斥から退学阻止へ動きが変わり始めまし
た。すでに時を逸してるのにも気がつかずに・・・教室で、廊下で、食堂で、瑞穂さんの人柄を偲ばせる事柄
が、語られ始めました。ですが、私たちに突きつけられたのは、自主退学届を提出されたという事実。その事
実が公表された時、全身の力が抜けていくのを感じました。それでも、私は会長としての責務があります。学
園長さまに書類を見せて頂いたところ”まだ”決済印が押されていませんでした。提出はされたが、受理はさ
れてない以上撤回して頂ける可能性が見えてきたのです。集められた600名を越える退学を思いとどまって
頂く嘆願書。書類箱一杯の謝罪文それらを携えて、私とまりやさん、紫苑さん、奏さん、由佳里さんは、ご自
宅に急ぎました。でも、すべて遅かったのです。そう、遅すぎたのです。私たちが無為な時間を過ごしていた
ために・・・退学だけは思いとどまって頂けるよう御願いするべきでした」
貴子は、肩を上下させて息を整えると、口を湿らせて
「ご自宅に着くと、瑞穂さんへの面会を御願いしました。ですが、返ってきた答えは、すでにこの土地を離れ
たと・・・退学届を出された後、ご自宅をも離れられたのです。恵泉の関係者には連絡先を教えないように
と言われたそうです。打ちのめされました。せめて嘆願書と謝罪文だけでも届けて頂けないかと御願いしまし
たが、丁重に断られてしまいました。考えてみれば、虫のいい話です。あれだけの事をしたのですから」
目の周りを朱く染め小刻みに肩をふるわせながら
「でも、私は生徒会長です。責務を投げ出して泣くことは許されなかったのです。幸い恵泉には、恵まれた
家庭の子女が多く通学しております。瑞穂さんの消息を求めて、恥も外聞もなく御願いして回りました。
卒業式の前になって、瑞穂さんの消息らしいものが伝わってきました。海外のとある全寮制の学校に編入され
たらしいと・・・真偽を確かめるすべはありませんでした。それが、宮小路瑞穂という方の最後の消息でした。
女々しいとは思いますが、今でも季節ごとのお便りをご自宅に差し上げております。幸い返送されておりませ
んので、もしかしたら読んで頂いてるのではないかと、淡い希望を抱いております。」
手を一つ叩くと
「これで、私の話は終わりました。この事を生かすも殺すもあなた方だということ、強く認識してください。
取るに足りない噂の1つが、人の人生を変える可能性が有ると言うことをくれぐれも忘れないでください」
そう話を締めくくった。


そのころ、貴子の住んでいる部屋の郵便受けに1通の手紙が配達されていた。
                                                     END



というわけで、新作です。

瑞穂の正体がばれた・・・いわばBADENDものでしょうか?
特定のENDとかありませんし、ほとんど貴子の一人語りになってしまいました。

さて、SSといえるのかどうか分かりませんが、受け入れて頂けるのでしたら幸いです。

はあ、精神的につかれてしまいました。





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