民団新聞 MINDAN
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本国内での法的地位と待遇
「在外国民」と「韓国系同胞」の法整備を

海外同胞フォーラム・黄総長の講演内容



 一月二十九日、ソウルで開かれた「99海外同胞政策フォーラム」で民団中央本部の黄迎満事務総長が在日同胞の立場から「在外同胞法」について講演を行った。この講演は民団の基本的な見解を明らかにし、本国関係者の理解を求めたもので、ここにその講演の要旨を掲載し、在外国民基本法の制定を強く望ものである。


在外国民登録法の補完が必要
在韓定住外国人の地方参政権も

 さる十二月十七日、国務会議で議決した「在外同胞の出入国と法的地位に関する法律」(以下「在外同胞法」と称す)案に対して、基本的には韓国内での法的地位という制限がありますが、在外国民の本国での地位向上のための法律としてこれを高く評価するところです。

 さらに、本団が十余年にわたり陳情してきた、憲法にある「在外国民保護規定」に関連した法制定と韓国内での住民登録を代用する制度を設置することで、これまでの数々の問題が解決されるだろうとの期待には大きいものがあります。

 しかし、在外国民と外国籍である元韓国籍保有者を一緒に適用対象として一つの法律で括って待遇しようとすること自体に無理があると考えます。

 在外国民は憲法に「全ての国民に権利と義務がある」と規定していますが、実際には住民登録がない関係で除外されているのが実情であります。従って、この法で居住証明に関する事項だけを規定すれば、他の事項に関しては関連法及び関連施行令で対処できるのではないでしょうか。

 こういう点に鑑み、在外国民と韓国系外国人の本国内での法的地位及び待遇は法体系上、別途の法律として制定することが合理的だと思います。

 以上のような基本的見解を明らかにしながら次のようないくつかの問題点とその対処方案に対して述べます。


■在外国民基本法制定の必要性

 在日同胞社会は自らの意思による海外移住で形成された移民社会とは違う歴史的な背景があります。

 現在の在日同胞社会は、日帝の植民地政策と日本の戦争遂行によって強制徴用・強制連行され、人間的な待遇を受けてこなかった同胞、すなわち解放されても帰国できなかった一世らと、その子孫らで構成されています。そして現在は、韓国国籍を所持している在日韓国人が約五十八万人に達しています。

 在日同胞は日本の同化政策に屈せず、ひたすら韓国国籍を保持し、韓民族の一員という矜持を持って大韓民国の在外国民として生きています。韓国籍を所持しているにもかかわらず、これまで在外国民としての恩恵を受けられなかった現実を勘案するならば、在外国民に対する保護政策が優先的に確立されなければなりません。特に北韓政権に盲従する朝鮮総連組織がある日本では、在外国民に対する国家の施策は非常に重要だと思います。

 憲法第一章第二条第二項に依拠した在外国民保護のための「在外国民基本法」を制定し、韓国系外国人はその規定に準ずる特例規定を制定することが望ましいと思います。

 また、在日韓国人の歴史性と現実的の特殊性に照らして「特例措置」が講究されなければならないとも考えます。


■居所申告および在外国民登録に関して

 これまで在日韓国人が在外国民として韓国内に長期居住する場合、国内での公的な居住証明がない関係から法的、制度的、行政的な面で不利益と不便を体験してきました。

 今回の法案では居所申告をした在外国民に対しては「居所申告証」の発給を受けられ、この「居所申告証」が住民登録証の代用として使用できるとなっています。そうすれば、日常生活上の多くの不便は解消されることが予測され、一歩前進だと思います。

 しかし、申告場所が居所を管轄する出入国管理事務所となっているため、在外国民である在日韓国人の立場からは、日本でも日本政府の出入国管理体制に依る外国人管理を受けており、そしてまた本国でも自国民であるにもかかわらず出入国管理体制下に置かれることに対しては抵抗感を覚えます。

 従って自国民である在外国民が居所申告する場所を住民登録と同じように居所を管轄する行政官署が望ましく、「居所申告証」も行政官署で発給できるように検討されることを望むものです。


■選挙権に関して

 在外国民は基本的に自国民であるが故に憲法上の権利と義務を共に負っています。ですから、選挙権と被選挙権は元来から所持しているはずで、あえて今回の法案で新たに附与するかのように明記をする必要がないと思います。ただ、住民登録の関係から一部施行措置が未整備であることによって国内で長期滞留をしても選挙人名簿に載らないために権利を行使できなかっただけです。

 このように在外国民の選挙権は本国内での居住証明制度が法的に確立されれば、公職選挙法および同法施行令で対処できると思います。


■在外国民登録法に関して

 在外国民登録法が制定された当時の在外国民といえば、在日韓国人を意味していました。しかし、韓国の国際的地位の向上と交通および情報の国際化で国家間の人的交流が容易になり、現在では世界各地に同胞社会が形成されています。

 しかし、同じ海外同胞であってもその地位は多様です。まず、外国国籍の同胞、次に出生地主義国家に居住する同胞、そして、日本と同じように徹底した血統主義国家に居住する同胞らが存在します。

 在日韓国人社会は時代的な流れによって三・四世時代を迎えていて、彼らは排他的な日本社会でも韓国国籍を保持し韓民族の一員という強い意識を持って生活しています。

 韓国国民の象徴として在外国民登録証と韓国旅券を所持しています。本団はこのような認識のもとで日本での「在外国民登録」業務を担当してきました。

 しかし、この在外国民登録は韓国内で実質的に法的な効力がなく、ほとんど死文化されているといっても過言ではありません。特に、北韓政権に盲従する朝鮮総連組織がある限り、さらに仮に「朝日国交正常化」がなされれば、日本では「国籍」による対立が深刻になることが予想されます。従って在外国民登録法に対する対策は非常に重要だと思います。


■実効性がない問題点

 この法の制定根拠は在外国民保護の実効性を目的としていますが、現在では旅券発行時の証憑資料以外の意味を持っていません。特に国民として国内に長期居住する場合、在外国民登録の効力を発揮できないために日常生活では外国人よりも不便な点が多いことも事実です。

 本来は居住国より本国で在外国民に対する法的根拠の証明として重要な役割を担うべきですが、実際にはそのようになっていません。その要因として次のようなことが指摘できます。

 (1)この法が制定されて約五十年が経過するが、その間、一度も改正されず、具体的な施行規則さえも制定していない。

 (2)在外国民登録法自体が住民登録法と海外移住法とは全く関連がなく、その法体系からも除外されている。

 (3)在外国民登録自体が身分関係と居住証明の役割を担わなければならないが、本国の立場では単純な海外での居住証明でしかない。


■補完整備に関して

 現在の「在外国民」に対する概念は「海外移住法」によって、政府が奨励して海外に移住した者だけを念頭に置いているといえます。解放以前に移住した在日韓国人に対する現行の「海外移住法」による処理は、在日韓国人の身分関係と居住証明を依拠する在外国民登録法自体の未整備などから多少無理があると思います。今回の法律案が制定されるのを契機に在外国民の保護条項と共に住民登録と連動できる措置を明確にすることはもちろん、登録体系の補完・改正が必要だと考えます。


■長期滞留外国人への地方参政権附与問題

 在日韓国人は昨年、在日同胞等の宿願である地方参政権運動を朝鮮総連の反対にもかかわらず、ねばり強く展開して全日本地域の自治体の四二%に達する千三百八十三自治体の支持を獲得し、また日本の野党からは日本国会に永住外国人の地方参政権に関する法律案が提出されるまでになりました。

 昨年十月の金大中大統領の歴史的な訪日成果を土台に、今年こそは日本国会での地方参政権立法化を争取せねばならないと強い決意をしています。今回の法律案で韓国系外国人らに画期的な法的地位を附与するならば、本国内の長期滞留外国人に対してもこれに相応する措置がなければならないと思います。

 このためには、まず韓国政府が在韓長期滞留外国人(約二万八千人程度、その大部分が台湾系華僑で、日本人が約一千人と知られています)に韓国の地方自治体への投票権だけでも付与する大胆な措置を取って頂ければと願うところです。

 この措置を仮りに我が政府が行えば、アジアで最も国際化と民主化の先鋒になるだけでなく、政治的にも道義的な側面でも模範になるはずです。

 この点を勘案し、在日韓国人の地方参政権獲得への支援に画期的な転換をもたらすことができるので政府に対して配慮してくださるよう願います。

 以上「在外同胞法」案に対する在日同胞の現実に照らしてみた素朴な疑問と問題点を述べました。

 できるならば、今回の「在外同胞法」制定時に検討され、在日同胞の要望が反映されることを切実に願うところです。

(1999.02.03 民団新聞)



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