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世界に影響与える経済政策が課題
米国の次期大統領が今月6日の投票で確定します。候補が正式に決まってから2カ月、政党内の候補選びを含めると2年近い、長い選挙戦でした。新しい大統領は、どんな課題と向き合うのでしょう? そのかじ取りの世界への影響は?
Q だれが次の大統領になるの?
A 民主党の候補で今の大統領のオバマさん、共和党候補のロムニーさん、どちらが勝つか予測がつかない。そのぐらい2人の支持率が近いんだ。
初の黒人大統領として期待を集めたオバマさんだが、経済がうまくいかず失業率が高いことが足かせになっている。元実業家のロムニーさんは「大企業寄り」という批判が強かったが、テレビ討論で支持率を上げた。
Q テレビ討論って、そんなに影響力が強いの?
A 1960年に初めて行われたんだが、そのときは若くて見栄えがよいケネディ候補(民主)が、相手に差をつけた、と言われている。今回の3回の討論では、読売新聞の柳沢亨之ニューヨーク支局長がコラムで「反則すれすれの技が飛び交う格闘技の試合のよう」と評する回もあり、それがオバマ候補のマイナスになったのかもしれない。
Q じゃあ、そんな討論会、やめれば?
A あの広い米国では、テレビを通じて候補者が直接、政策を示すのは大切なことじゃないかな。酒場やレストランでは有権者が支持グループごとに集まって、テレビを見ながらわいわい評価する。「恋人と一緒に自宅で見る」なんていう若者もいた。日本では、まず見られない光景だ。これが米国の民主主義の「根っこ」という気がする。
Q 「経済」が新大統領の最初の課題になるの?
A そうだね。当選者は来年1月20日に大統領に就任するんだが、その1月には「財政の崖」という大問題が待ち構えている。
Q 「財政の崖」?
A いま行っている減税の期限が切れて増税になるうえ、政府の支出も強制的に削減を求められるダブルパンチのこと。米国の経済がますます落ち込み、世界中に不況をばらまきかねない。たぶん、現政権と議会が一時的な対応を取るんだろうが、正式にどうするかは新大統領の仕事になる。
オバマ候補とロムニー候補では、政府が経済にどう関わるかで考え方が全く違うから、影響は大きい。
Q じゃあ、国内問題ではないわけだ。
A そうだね。いまは世界中の経済がつながっているから、当然、日本にも影響してくる。さらに、日米ともに重要な経済のパートナーである中国に対しても、2人はいま異なる姿勢を示している。これも経済に影響が出かねない問題だ。核兵器の開発疑惑がもたれるイランへの対応も、世界に直接影響するね。
Q 新大統領が何をするか、厳しく監視しなきゃ。
A 米国では新しい大統領が就任すると、「最初の100日間」は議会も世論も報道機関もあまり批判しない伝統がある。ロムニー候補なら、この伝統が適用されるわけだ。一方で優れた大統領はこの最初の100日で明確な方針を示すことが多い。ロムニー候補ならここが正念場になる。
Q どちらが当選しても就任式は厳しい雰囲気だね。
A いや、そこはやはりアメリカ人。派手な儀式が数日続き、夜には華やかな舞踏会が何十も開かれる。この「のんきさ」が米国の活力源なのかもしれないね。
財政の崖 米国政府の支出が来年1月から10年間で1兆2千億ドル(約96兆円)減らされる一方で、個人所得税の減税の期限が切れて、一般的な家庭で年2200ドル(約17万円)負担が増えるなどする。米国の国内総生産(GDP)を5%近く押し下げるといわれる。
為替操作国 意図的に為替相場を操作していると米国が判断した国を一方的に認定する。認定された国は通貨切り上げを求められることになる。米国内では中国の人民元が米ドルに対して不当に安く操作されているとされる問題があり、ロムニー氏は中国を為替操作国に認定する考え。
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前朝日新聞編集委員 大妻女子大教授 五十嵐浩司
1952年生まれ。朝日新聞大阪社会部、 外報部を経てナイロビ支局長、ワシント ン特派員、ニューヨーク支局長を歴任。 大学や大学院でジャーナリズム論や国際 政治を教える。
2012年11月4日 |