人を虫けらのように扱う「加害者」はなぜ生まれるのか
これは、学校の生徒に限らない人類普遍の現象だ。たとえば旧陸軍内務班の狭苦しいベタベタした小社会では、必然的にリンチが蔓延した。将校が毎日の朝礼で私的制裁を禁ずる訓示をしても、止めることはできない。
心理学者のジンバルドーは、大学の地下室に模擬監獄をつくり、上品な育ちの、心身共に健康な学生たちを被験者に選び、囚人役と看守役に分けて集団生活をさせた。すると、最初の数日で看守役は歪んだサディストのようになり、囚人役はノイローゼ状態になった。
私たちが「あたりまえ」としてきた学校制度に、旧陸軍内務班やジンバルドーの監獄実験と同じ、いじめを蔓延させ、エスカレートさせ、歯止めが効かないようにする普遍的なメカニズムが埋め込まれている。普通の家庭で普通の育ち方をした生徒たちが、学校で集団生活を送ることで、人を虫けらのように扱ういじめ加害者になってしまう。
このメカニズムについては、拙著『いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか』(講談社現代新書・2009年)で詳しく論じた。本山理咲の『いじめ 心の中がのぞけたら』(朝日学生新聞社・2012年)は、これを漫画の形でみごとに描いている。
治外法権の閉鎖空間に閉じこめて強制的にベタベタさせる現行の学校制度を変え、生活環境を通常の市民状態に戻せば、いじめを激減させることができる。だが、「教育」や「学校」は、子どもたちを破壊してでも護持しなければならない独善的なイデオロギーとなっている。
山脇由紀子の『震える学校』(ぽぷら社・2012年)は、いじめが蔓延する学校の非道な構造を抉(えぐ)りながら、学校に帰依すべしと説くような奇妙さが印象的だ。同じ非道に直面した母親の体験談、内藤みかの『たたかえ! てんぱりママ モンスターティーチャーとのあれれな日々』(亜紀書房・2012年)と併読されたい。学校関連の組織人で「ない」ことが、どれほど大切かわかるだろう。
学校に教育を独占させず、人々が多様な学習支援団体を自由に選択できるようにする中長期的な制度改革が必要だ。それまでの移行期には学校に法を入れ、学級制度を廃止する短期的改革が必要だ。
メディアによって、問題の本質が見えなくなった
私は2001年に学術書『いじめの社会理論』(柏書房)で、少なくとも学校のいじめについて原理的に考えるべきことはすべて書き尽くした。研究者ではない層には読みにくいという求めに応じて、2009年に前述の『いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか』を世に出した。いじめに関しては、世界的にもこの二つのロングセラーを超えるものは出ないだろうと自負している(英訳すれば大きな反響があるはずである)。
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