法律も市民社会の論理も学校ではシャットアウトされる
この30年ほど、数年おきに、いじめ自殺事件をきっかけとしたいじめ報道ブームが起きている。
人々は未曾有の事態が起こったかのように煽られ、騒ぎが収まるとすぐに忘れ、次の報道ブームで同じ興奮が繰り返される。今年も、相変わらずのいじめの内容、同じような学校や教育委員会による隠蔽、識者や芸能人による同じような精神論のコメントがメディアで流され続けている。
メディアは、学校制度の構造的な問題から人々の目をそらし、「心がけ」の問題に意識を誘導し続け、結果的にひどい状況がいつまでも続く片棒を担ぐ。たとえば朝日新聞社の『いじめられている君へ いじめている君へ いじめを見ている君へ』(朝日新聞出版・2012年)では、社会的成功者たちが体験談を交えて「心がけ」を説く。
いま、私たちが信じて疑わない学校の「あたりまえ」を考え直す必要がある。学校は、同年齢の生徒たちを一纏(まと)めにして、朝から夕方まで狭いクラスに軟禁する(学級制度)。そのうえで、授業から給食、班活動、クラス対抗の学校行事、掃除、部活動など、ありとあらゆる強制的な仕掛けを使って、生活を頭のてっぺんからつま先まで集団化しようとする。
学校は、人と人が自由に距離をとることを許さない。生徒たちが「教育的なしかた」で関わり合い、共に響き合って生きるよう、強制的にベタベタさせる。
さらに学校は「教育の聖域」とされ、原則的に法が入らない、治外法権の場所になっている。学校は、生徒たちの市民的自由を剥奪し、狭い世界での過密な集団生活を強いる。そして、大人であればあたりまえの市民社会の論理は、学校ではシャットアウトされる。
このような生活空間で、外部と異なる生徒たち独自の小社会が生まれ、その小社会に固有の秩序と現実感覚が生じ、優勢となる。それは「仲間うちの勢いが絶対」「ノリは神聖にして侵すべからず」というタイプの秩序であり、「いま・ここ」の群れの付和雷同が何よりも重要になる。このような秩序状態のなかで、いじめが蔓延し、エスカレートし、歯止めが効かなくなる。
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