古代北陸道「三嶋駅」を支えた 　　　　　　　駅村（うまやむら）	−柏崎市　箕輪（みのわ）遺跡−
奈良・平安時代の交通制度 　奈良・平安時代は天皇を中心とした大和王権が「律（りつ）」（刑法）・「令（りょう）」（行政法）という法律に基づいて人民を支配する制度がつくられており、現在の新潟県に相当する「佐渡国」・「越後国」も律令体制の中に組み込まれていました。 　政府は律令体制を全国に徹底させるため、地方の行政制度を整備すると共に、政令の伝達や政府への報告を速やかに行うため、交通制度の整備にも力を入れました。 　交通網の整備は、政府の置かれた大和を起点として、京と諸国を結ぶ7つの幹線道路（北陸道・東山道・東海道・山陰道・山陽道・南海道・西海道）を中心に進められました。 　幹線道路には、京と地方を往来する駅使（公の使者）らに馬や食糧を提供する「駅（うまや）」を30里（約16km）ごとに設け、道路の重要度に応じた数の駅馬を各駅に配置しました。駅馬の飼育や駅使に提供する食糧の確保など、駅の運営にかかる経費は、各駅に与えられた駅田の耕作によって賄われ、労働力は駅周辺の駅家村（駅の仕事に従事する集団）から集められた駅子がこれにあたりました。これらの人員をまとめ、駅を運営していく責任者はその地の有力者が任命され、駅長と呼ばれました。	越後国・佐渡国の駅推定図
箕輪遺跡出土「木簡」	木簡とは？ 　紙が貴重品であった奈良・平安時代、役所では薄い木の板に墨で文字を書いた「木簡（もっかん）」を文書や荷札として使用していました。 　木簡は書き損じた場合、小刀で間違った部分を削り取って再利用します。また役目を終えた木簡は、現在のトイレットペーパーにあたる糞ベラなどに再利用され、最終的にごみ捨て場に捨てられます。 　わたしたちは、捨てられた木簡や、木簡の削りクズに残る文字を解読することにより、奈良・平安時代の社会を知ることができるのです。 三嶋駅の駅家村発見！ 　左側の写真の木簡は、三宅史御所（みやけのふひとおんところ）にあてた物品請求の文書です。ある人物または役所（不明）が「三宅史御所」（人名＋御所は組織・機関を示す）に対し、物品（不明）を「駅家村」へ運ぶように命令しています。 　三宅史御所では物品を木簡とともに駅家村へ運ぶ者に持たせ、駅家村で物品の受け渡しが行なわれた後、役目を終えた木簡が廃棄されたと考えられます。 　つまり木簡が出土した箕輪遺跡は「駅家村」と考えられ、この近くに越後国10駅の一つである「三嶋駅」が存在したと推測されます。
箕輪遺跡出土「黒漆塗鐙（あぶみ）」 馬に乗った人が足をのせる部分	箕輪遺跡出土「黒漆塗丸鞆（まるとも）」 役人が身に付けた腰帯の装飾金具

紫雲寺潟周辺の内水面交通の「港」	−胎内市（旧北蒲原郡中条町）　蔵ノ坪（くらのつぼ）遺跡−
国司の存在を示す木簡 　都から派遣された国司（こくし）には4つの職名があり、階級の上から「守（かみ）」・「介（すけ）」・「掾（じょう）」・「目（さかん）」となり、「目」には「大目（だいさかん）」と「少目（しょうさかん）」がありました。右側の写真の木簡は国司の1人である「少目」の館にあてた荷物「米五斗」に付けられた荷札です。米五斗は少目の給与にあてられた米でしょうか。 紫雲寺潟周辺の内水面交通の港「津」 　蔵ノ坪遺跡では旧河道の両岸に掘立柱建物が約15棟確認され、港を示す「津」と書かれた墨書土器が出土したことから、少目あての荷物が川の港で陸揚げされ、倉庫に納められた後、荷札が廃棄されたものと考えられます。蔵ノ坪遺跡が紫雲寺潟周辺の内水面の港「津」であったことが明らかとなりました。	国司「少目」の存在を示す荷札木簡
港を示す「津（つ）」と書かれた墨書土器 須恵器の底部に港や船着場を意味する「津」の墨書があります	国司は越後国を分割統治していた！ 　少目の荷物が蔵ノ坪遺跡で陸揚げされていたことは、少目の館がこの周辺に存在したことを示しています。古代の古志郡にあたる三島郡和島村の下ノ西遺跡では「掾」の木簡が出土し、古志郡に国司の一人である「掾」が居たことがわかっています。このことから、複数の国司が越後の国を分割統治していた可能性が高くなりました。

upload:2003/02/04

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