ブログ:メインバンク制度は息を吹き返すか

2012年 11月 16日 11:45 JST
 
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布施 太郎

直接市場からの資金調達に依存していたシャープ(6753.T: 株価, ニュース, レポート)が、経営危機の果てに最後に泣き付いたのが、主力取引銀行のみずほコーポレート銀行と三菱東京UFJ銀行だった。他方、ソフトバンク(9984.T: 株価, ニュース, レポート)による米携帯電話3位のスプリント・ネクステル(S.N: 株価, 企業情報, レポート)の買収資金を賄ったのも、主力行のみずほコーポレート銀行をアレンジャーとしたメガバンクからの1兆6500億円の協調融資だ。

直接金融市場の発展で、メインバンク制度の終えんが語られて久しいが、最近の動きをみているとメインバンク制度が息を吹き返しつつあるように見える。

「直接金融市場のマネーがなかなかリスクを取れなくなっている。我々の出番だ」――。あるメガバンクの役員は、こう胸を張る。シャープとソフトバンクのケースは、それぞれ色合いが異なるものの、大手企業を含めて銀行との関係強化を探る動きが相次いでいるという。実際、パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)も10月、主力取引銀行の三井住友銀行を中心とした4行と6000億円の融資枠(コミットメントライン)設定の契約を結んだ。

2008年のリーマンショックで、海外展開に積極的だった日本企業はドル調達難にあえぎ、ドル資金の融通をメガバンクに頼み込んだ経緯がある。メガバンク自身もドル調達難に直面し、一部の銀行は顧客企業の選別に走った。この時も「やはり銀行取引は大事」との機運が盛り上がった。

その後、直接金融市場は正常状態に戻っているように見えるが、今度は日本企業自身の不振が銀行依存への回帰に向かっている。その典型的なケースがシャープだ。

みずほと三菱が9月に実行したシャープ向けの新規融資は総額3600億円。この資金がなければ、シャープの経営が立ち行かなくなるのは明らかだ。実際、アジアのある証券会社の資金運用担当者は「シャープの生殺与奪を握るのは取引銀行。そのスタンス次第で、割安になっているシャープの社債を買えるかどうかだ」として、社債への投資を検討していると明かす。

大勝負に打って出たソフトバンクへの融資を決めたみずほなどの大手銀行。みずほのある幹部は「ここで金を出さなければ主力銀行とは言えない」と大見得を切った。国内市場の縮小に直面する日本企業が成長するためには、海外市場の開拓は不可避。企業の成長に貢献する資金を出せない銀行は必要ないともいえる。「孫(正義)社長は破天荒に見えるが、銀行との関係を大事にしていた」(みずほ関係者)という。

シャープに対する融資は再建のためとは言え、「後ろ向き資金」と言えなくもない。それに比べれば、ソフトバンクへの融資は「前向き資金」だ。どちらにしても、企業の存亡や成長戦略に取引銀行が大きな役割を果たしたのは間違いない。メインバンク制度は先祖返りではないにせよ、新たなかたちで生き返るのだろうか。

(東京 16日 ロイター)

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