【東京】ソニーの株価が15日、前日比約9%下落して32年ぶりの安値を付けたことは、平井一夫・新最高経営責任者(CEO)が直面する試練を浮き彫りにした。
株価急落に加えて、ソニーの格付けも投機的等級に転落する恐れがあり、平井CEOは再建策が効果を発揮している証拠を示すとともに、以前のように次々とヒットを飛ばせる新製品を揃えることが早急に必要となっている。
低迷する日本のエレクトロニクス業界では、多くの企業がソニーと同様の問題を抱えている。長引く赤字で脆弱化したソニーは、効率経営を実現する競合他社に立ち向かい、円高の影響を回避するために財務基盤を強化しなければならない。同時に、主力のコンシューマー・エレクトロニクス事業が急速に落ち込む中で、成長を推し進める必要性に迫られている。
ソニーは14日、総額1500億円の転換社債型新株予約券付社債(CB)を発行すると発表した。先週には、米格付会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスがソニーの格付けを投機的等級の一段階手前である投資適格等級の最下位まで引き下げた。ソニーにとっては1カ月間で2度目の格下げで、ムーディーズは格付け見通しも「ネガティブ(弱含み)」を維持している。
ムーディーズは9日付の声明で、「ネガティブの格付見通しは、今後12−18カ月間に強力な構造改革を実施しない限り、ソニーの非金融事業の営業利益は、ブレークイーブンの水準に留まるか、赤字となる可能性もあるとのムーディーズの見方を反映している」と述べた。
ソニーに近い関係者の話によると、CB発行は、一部の競合他社と違って引き続き市場で負債による資金調達を実施できるとの同社の自信を表しているという。また、ソニーは株価が過小評価されていると考えているため、株式への転換が進みやすいと見ていると話す。
株価が回復しなければ、同社は2017年に多額の返済を迫られることになる。希薄化懸念を反映して、15日の東京株式市場でソニー株は8.9%安の793円で引けた。同社株は今年これまでに40%以上下落しており、1980年4月以来初めて800円を下回る水準で取引されている。
平井CEOがソニーの立て直しを図るうえで、CB発行は二重の賭けだ。調達した資金の大半は、同氏が4月にCEOに就任して以来行っている一連の投資に充てられる。
平井氏は、オリンパスへの出資や米オンラインゲーム会社「ガイカイ」買収など様々な案件を手掛けるとともに、黒字事業であるデジタルカメラやスマートフォン向け画像センサーの増産に乗り出すなどして、ソニーの歴史にその名を刻み込んでいる。一方、同氏は化学事業を売却し、シャープとの液晶パネルの合弁事業を解消した。
こうした動きからは、ソニーが8期連続で赤字を計上しているテレビ事業を縮小し、スマートフォンやテレビゲーム、画像機器、医療用装置など、より将来性の高い分野に焦点を移す事業再編を進めていることが示唆される。
同社は今期を体質改善と合理化の年と位置付けている。2月にスウェーデンの通信機器大手エリクソンとの携帯電話合弁を解消した後、ソニーは同事業の従業員数を15%削減し、本社機能を東京に移転する計画を打ち出した。
今月初旬には、2013年3月期の液晶テレビ販売計画を100万台引き下げて1450万台とし、これが利益を犠牲にして市場シェアを追求する戦略からの決別を意味すると説明した。同社は来年度のテレビ事業黒字化を目指している。
みずほインベスターズ証券のアナリスト、倉橋延巨氏は、平井CEOは今年度、必要な「片付け」を行っており、来年度がカギになると指摘した。
来年度は、平井氏率いる経営陣が、昔のソニーのように「絶対手に入れたい製品」を市場に投入できるかが試されることになる。
その1つとして、来年度は年間を通して携帯電話事業を自社で手掛けることになり、2013年に発売予定のスマートフォンにはこれまで以上にソニーの技術が組み込まれることが期待されている。
バークレイズ・キャピタル証券のアナリスト、藤森裕司氏は15日付のレポートで、投資家はソニーが来年度、携帯電話事業を黒字化できるかに注目すべきとの見解を示した。
また、プレイステーション3(PS3)の後継機の発売も重要になると見られている。PS2がゲーム業界のトップを走っていた時は、ゲーム事業がソニーの収益を下支えしていた。しかし、PS3は発売当初から販売不振となり、ソニーは4期連続で赤字に陥った。その後、当時ゲーム事業を統括していた平井氏は、同事業の黒字化に成功した。
しかし、平井氏にとってこれまでと1つ違うのは、より迅速な再建を求められていることだ。
みずほインベスターズの倉橋氏は、ソニーはこれまでも繰り返し次の年が重要になると言ってきたが、毎年様々な理由でそれを先延ばしにしてきたため、市場は同社の見通しに楽観的になる前にまず結果を待っている状態だと語った。