円安:安倍氏発言で進行 講演で「無制限緩和も」
毎日新聞 2012年11月15日 21時15分(最終更新 11月15日 21時31分)
15日の外国為替市場は、円を売ってドルを買う動きが強まり、6カ月半ぶりの円安水準を付けた。来月予定される衆院選後、強力な金融緩和を主張する安倍晋三総裁の自民党を中心とする新政権が誕生するとの見方が広がったことが要因だ。安倍氏はこの日の講演で無制限の金融緩和や年2〜3%の物価目標の設定などに言及。市場は大きく反応すると同時に、中央銀行の独立性を危ぶむ声も上がった。
「来年は日銀総裁が代わる時期だが、それを待っている暇はない」。安倍氏は15日の東京都内の講演でこう述べた。白川方明(まさあき)総裁の任期は来年4月8日。現行法では、政府が総裁を解任することは不可能だが、市場では「来年1〜2月に白川総裁が交代するという観測が海外勢を中心に浮上。円売りの材料になった」(為替ストラテジスト)。
15日の円相場は、強力な緩和圧力を織り込む形で円売りが加速。ロンドン外為市場では4月27日以来の1ドル=81円台をつけた。円売りの動きは野田佳彦首相が党首討論で解散に言及した14日午後3時過ぎから始まり、党首討論前に1ドル=79円台半ばで取引されていた円相場はわずか1日で1円以上も円安が進んだ。円安に伴い、日経平均株価も輸出関連株が買われて上昇した。
安倍氏は15日の講演で、「市場が織り込み済みの緩和ではなく、2〜3%のインフレ目標を設定し無制限の緩和をしていく」と具体的な政策手段にも言及。発言をエスカレートさせた。
日銀の金融政策決定会合に出席し、金融緩和を後押ししたこともある民主党の前原誠司経済財政担当相は「日銀の独立性を度外視したような発言を大変危惧している」と批判。市場からも「日銀の独立性そのものがこれまで以上に懐疑的に見られるようになってしまう」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)と懸念の声も上がっている。
また、市場の関心は、10年間で200兆円規模を投入する「国土強靱(きょうじん)化」を掲げる自民党の経済対策にも注がれる。バークレイズ銀行の山本雅文チーフFXストラテジストは「追加緩和圧力と積極的な円高対策が意識されただけでなく、安倍氏の消費税に対する慎重姿勢や大型の財政出動による日本国債の格下げリスクも円安材料になった」と指摘する。【三沢耕平】
【キーワード】日銀の独立性