コンテンツ業界キャッチアップ
【第27回】 2012年3月19日 石島照代 [ジャーナリスト]

“集金マシン”としてのソーシャルゲームに明日は創れない!「ポケモン+ノブナガの野望」の制作トップが語るビジネスサステナビリティ

――石原恒和ポケモン社長×襟川陽一コーエーテクモゲームス社長 
スペシャル対談

ゲームコンテンツという商品について語られる時、必ずいわれるのが「生活必需品ではない」という性質だ。だがその一方で、「ポケモン」で知られる「ポケットモンスター」シリーズは、累計1億6000万本以上が世界中で売れている。

「ポケモン」シリーズ1作目は1996年に発売されたにもかかわらず、以降漫画やアニメ、映画など幅広いメディアで日本のみならず世界にも展開、十数年経過した今も常に新作が発売される大ヒットシリーズである。

その一方で、モバゲーやグリーなどのユーザー側の初期負担を必要としないいわゆるソーシャルゲームが快進撃を続けており、従来型のパッケージ型ゲームビジネスのサステナビリティ(維持可能性)が疑問視されている。加えて、ソーシャルゲームの高収益を生み出す「ガチャ」システムが、射幸心を煽るとして社会問題化していくなか、今後のゲームビジネスはどうなっていくのだろうか。
「ポケモン」と、コーエーテクモの人気ゲームシリーズ「信長の野望」がコラボレーションした、「ポケモン+(プラス)ノブナガの野望」(ニンテンドーDS用)の制作を陣頭指揮した、石原恒和ポケモン社長と、襟川陽一コーエーテクモゲームス社長のふたりに話を聞いた。

「ポケモン無双」ではなく、
「ポケモン+ノブナガの野望」だった理由

えりかわ・よういち
1950年栃木県生まれ。慶応大商学部卒。旧コーエー創始者のひとり。1983年に「信長の野望」を制作、シミュレーションゲームブームを巻き起こす。1999年に旧コーエー会長、2001年に最高顧問。2009年、コーエーとテクモが経営統合、コーエーテクモHDが誕生。2010年11月、現職。コーエーテクモHD社長なども兼務。

石島(筆者):コーエーテクモゲームスの「信長の野望」シリーズは、来年で生誕30周年を迎えます。ダイヤモンド・オンラインの読者の中にも熱心なファンが多数いるようですが、このように大人向けゲームと言うべき「信長」が、子どもファンが多い「ポケモン」と組むことに、驚いたゲームファンは多かったようですね。

襟川陽一氏(以下襟川):いい意味で「ありえない」と驚いていただけたようで、うれしかったです。シミュレーションゲームはコーエーブランドで最初に取り組んだこともあり、私も大変思い入れのあるジャンルなのですが、最近はRPGやアクションゲームに押され気味だなと感じていました。

 そんなとき、ポケモンさんと一緒にゲームを開発させていただける話になり、これはシミュレーションゲームの人気復興のチャンスだなと。とにかく、ひとりでも多くの方に、もう一度シミュレーションゲームという、本当に面白いゲームジャンルを楽しんでいただきたいという気持ちが強かった。そういう意味では、最高にうれしい体験でした。

いしはら・つねかず
1957年三重県生まれ。筑波大学大学院芸術学研究科修了。1995年、ポケモン開発関連会社である、株式会社クリーチャーズを設立、初代社長に就任。2000年ポケモン設立と同時に現職。

石島:その一方で、「ポケモン+ノブナガの野望」という名を初めて耳にした時に思ったのは、なぜ「ポケモン無双」ではないのかという疑問でした。

「信長の野望」で知られるコーエーテクモゲームスは、全シリーズ出荷本数2700万本以上を出荷した「無双」という人気コンテンツも持っています。過去に「ガンダム」、「北斗の拳」、「ワンピース」など、人気コンテンツとの豊富なコラボレーション実績もある。ビジネス効果を考えますと、「ポケモン無双」でもよかったのでは。

石原恒和氏(以下石原):今回の企画はコーエーテクモさんからの提案でスタートしましたので、その中にはやはり「ポケモン無双」の企画もありました。でも、どうせやるなら自分が好きな「信長の野望」とコラボレーションしたいと思いまして。

「無双」シリーズは剣を振り回して敵をなぎ払う、“一騎当千の爽快感”が売りのゲームですよね。でもポケモンは武器をもたないし、爽快感を得るゲームは「スーパーポケモンスクランブル」とかの分野で追求しているので、今回は新しい分野を開拓しようと。

 とくに、「信長の野望」を作られた襟川さん、つまりシブサワ・コウさんと仕事ができるなら、信長と組むしかないだろう、と最初から考えていました。もし、襟川さんが一歩引いて、現場は別の方が見るというなら、別の方向もあったと思うんですけど、今回は私自身も襟川さん自身も「一緒につくろう!」という環境ができそうでしたから。

石島:つまり、石原さんも襟川さんも、今回は現場どっぷりだったということですか。

石原:そうです。襟川さんは特に自ら開発ラインを止めたくらい、熱心でしたよ(笑)。開発もそろそろ終盤というころに、いきなりコーエーテクモさんサイドから「内容を作り直します」と言われまして。本当に締切ギリギリだったから、驚きました。

 理由をお尋ねすると「ウチの襟川がこれじゃまだダメだと言うんです」。コーエーテクモさんは締切をきっちり守ってお仕事をされる一方、納得がいかない時は立ち止まって、完成度を高める努力をされる。ギリギリまでこだわる物作りの姿勢は、ポケモンと通じるところがあると思いました。

襟川:我々にとっても、「信長の野望」は特別なコンテンツですし、世界中のお子さんに愛される「ポケモン」と組ませていただく以上、きっちりと納得いくまでやらせていただきたかったんです。お互いのファンの皆さんにトコトン楽しんでいただきたい、だから、ギリギリまで本当に努力をしました。

一発屋とは違う、プロの「好き」が、
コンテンツビジネスのサステナビリティを支える

(C)2012 Pokemon.(C)1995-2012 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. (C)2012 コーエーテクモゲームス ポケモンは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。 ニンテンドーDSのロゴ、ニンテンドーDSは任天堂の登録商標です。

石島:「ポケモン+ノブナガの野望」の元になったふたつのソフトは、共に「信長の野望」、「ポケモン」という人気ゲームブランドです。このようにブランドが存在するということは、コンテンツビジネスにサステナビリティ(維持可能性)があることを証明している。「ポケモン」だから、「信長の野望」だから、売れ続けるわけですが、このようなブランドになれるヒット作はどうしたら作れるのでしょう。

襟川:まず個人に内在したところで言うと、「ゲームが好きだ」という人が企業にいるのが原点です。好きでもっといいものを作りたいという気持ちが心の底にあると、どんなことでも一生懸命やりますからね。

石島:しかし、作るのが好きという気持ちだけで、一大ブランドに育つほどのヒット作を産み出せるものでしょうか。ゲームを作りたい人はたくさんいますが、その気持ちだけで一生食べていくのは難しいように感じています。

石原:襟川さんがおっしゃったように、本当に「作るのが好き」という気持ちを持った人がゲーム企業の原動力になっているのは事実です。ただ、その「好き」加減が、人並みでは全然足りない。

 よく、「一発屋」っていう言葉を聞きますよね。この事実から分かることは、どんな人でも一生のうちにひとついい曲をつくるとか、いい詞を書くという可能性があるということです。では、それを100つくれるかって言うと、普通はつくれない。そのレベルを維持して数こなせる人がプロですよ。

 継続して食べていけている人は、好きという気持ちも並大抵ではない。どんどん作らずにはいられないし、そんな情熱でものをつくっている。襟川さんもそうです。襟川さんの次々と新しいものを生み出していくパワーや量は並大抵ではない。開発者の場合は、この「並大抵ではない好き」という気持ちが重要ですし、そういう人を探し続けることが、コンテンツ企業にとっては非常に重要なことです。

襟川:「自分にもできる」とどんどんゲーム業界を目指してもらえるのは、有能な人材が集まりますからいいと思いますね。ゲームが好きだと、作りたいっていう気持ちに繋がっていくと思いますから、そういう気持ちに応えられるように我々業界も受け入れていかないと。

「“お金”が好きなひとが作る」と、
集金マシンとしてのソーシャルゲームができあがる

石島:確かに「好きという気持ち」が並大抵ではない、ヒット作を産む実力がある開発者の存在は、コンテンツ企業の存続に重要でしょうが、ソーシャルゲームを見ているとそれは必要十分条件にならないような気がします。

 たとえば、ソーシャルゲームが採用している「ガチャ」とよばれる仕組み(※)は、ユーザーに10万円以上お金を払わせる事も可能です。大変な人気ですが、あれはゲームと言うよりも企業側に都合のよい集金マシンであり、もはやゲームとは呼べない。それゆえに、社会問題化しつつあります。

襟川:「ガチャ」の市場ニーズがあるのは確かだと思いますが、ゲームのどのくらいの比率をガチャで占めさせるかというゲームデザインには、限度があると思います。確かに、ガチャばかりのものはゲームとは違う定義かもしれません。

石原:つまり、ゲームの設計が“お金”から入っているか、それとも“ゲーム”から入っているかということですよね。お金が好きな人はそういうゲームをつくるし、ゲームを好きな人はそういうゲームをつくる(笑)。

 それはさておき、確かにソーシャルゲームの勢いは脅威だと感じています。パッケージビジネスの場合、作ったら市場に出してビジネスが終わってしまうわけですが、ソーシャルゲームの場合はユーザーの反応を見ながら、運営側でいろんなサービスをしているわけですよね。「これは100円で買ってもらえなかったから安くしよう」とか、ビジネスチャンスが継続している。これは、従来のパッケージビジネスにないことですよね。

石島:パッケージビジネスはコンテンツ中心だけど、ソーシャルゲームはマネタイズ中心と言うことでしょうか。

(※)ガチャ…ゲーム中に使えるアイテムやアバターに着せる服などを購入できる、1回数百円のデジタルくじ。玩具店にある「ガチャガチャ」が語源であることからわかるように、自分が欲しいアイテムが直接買えるわけでないのが最大の特徴。ユーザーは非常に低確率で登場するレアアイテムの入手や、コレクション性のあるゲーム内アイテムを全部集める(コンプリートする)目的で、延々とくじを引きつづけ(ガチャを回しつづけ)、総額で10万円以上使う人も珍しくない。また、「ガチャ」の中でも、特に「コンプガチャ」と呼ばれる、コレクション性のあるゲーム内アイテムを完全に集めさせるゲームデザインのガチャは、巨額な請求額となることが多く社会問題化しつつある。(解説:小山友介・芝浦工大准教授)

石原:ゲームの設計が“お金”から入った場合、それはマネタイズと呼ぶのかもしれないけど、顧客サービスともいえる。彼らは上手に接客してくれるわけで、その接客の部分は我々に欠けていると思うんですね。そこに学ぶべきところはあるかなと。

襟川:コーエーテクモも、2003年からスタートした「信長の野望 Online」が来年10周年を迎えますが、これだけやっていると「オンラインゲームはサービス業だな」と心底感じますね。当時高校生だった方がビジネスマンになって、まだずっとプレイしてくださっている。そういうことは本当に制作者冥利に尽きます。次々と新作をつくって出していくパッケージゲームとはまた違う喜びがあります。

石島:今後のパッケージビジネスは、ソーシャルゲームのサービス業を融合したような形で進化を遂げるのでしょうか。

襟川:そうだと思います。ダウンロードコンテンツの盛り上がり具合を見ていますと、サービス業を重視したパッケージビジネスは次のメインビジネスになり得ると思います。

「いいもの」と「売れるもの」は両方、
コンテンツビジネスのサステナビリティに不可欠

石島:今後のコンテンツ企業のサステナビリティは、襟川さんのような並大抵ではない熱意をもたれた開発者と、ソーシャルゲームで見られるサービス性が支えていくと言うことになるのでしょうか。

石原:結局は人ですよ。次になにを出して、どういうことをしていこうかっていう、興味が持続している人の存在がすべて。

石島:その「人」も経営上の課題になりますよね。最近は、開発者の人件費と利益のバランスに悩む企業も多い。パッケージビジネスとソーシャルゲームがビジネス上の優劣で比較される際、必ずといっていいほどコストの問題に言及されます。開発期間も延びることが多いし、パッケージのコストは人件費が大半を占めるので、「パッケージビジネスはコスト管理がなってない」とか言われてしまいがちです

石原:課金を激しくやっていくゲームって、「お金を払ってもらうためにどんなゲーム性であるべきか」っていう追求の仕方をしますよね。それと、どうやったら面白くなるかっていうのはかなり軸が違う話ですよ。

 僕自身も手掛けるゲームはすごく開発に時間がかかってしまう。やっぱり会計年度ごとにモノがつくれれば一番いいですけど、そうはいかない。開発に時間がかかる理由は、プログラムや音楽やストーリー制作だけに時間がかかるからではなくて、そのゲームが長く何度も楽しみたくなるかどうかを検証するためです。その部分って別に「いいよこれで」って出せちゃうんだけど、「いや、もうちょっとよくなるはず」って何度も繰り返してね。

 どうしても単年度で一気にケリをつけようとしてしまうと、検証ができないまま出してしまう。すると、結局は収益に悪影響が出る。

石島:こういう話が軽視されてしまうのは、結局コンテンツビジネスもビジネスである以上、とにかく利益を確保しなければならないからでしょうか。ですが、一時的な利益確保は、コンテンツビジネスのサステナビリティを保証しないでしょうし、それは結局「ポケモン」や「信長の野望」のようなブランドを産みにくいのでは。

石原: 最近、映画の累計興業収益をちょっと調べたんですよ。そしたら、シリーズもののトップは「ハリーポッター」(8作)で7700ミリオン米ドルだった。ちなみに、「ポケモン」は14作で1150ミリオン米ドルくらい、世界の20位くらいでした。では、ハリーポッターシリーズは映画業界における最高峰の映画か? と問われると、多くの人は「いや、もっと素晴しい作品がたくさんある」と答えるのではないでしょうか。しかし、ビジネスとして数字だけを見ると最大の成功例になる。結局、こういう結果が一番株価とか価値を決めやすいんだろうし、それがビジネスのサステナビリティを推測する手がかりにもなるのかな、と。

 でも、こちらも毎回「これで客がくるんだろうか」って必死に考えて、映画をつくっている。頑張らなかったら、興業収益も半分に減っているでしょうね。それは肌身に感じます。ですから、お客さんに対して、「ここまで新しいことを届けられた」という、僕らの情熱に対する答えは結果として返ってきていると思いますね。だから常に新しいチャレンジをしようと。もちろん「ポケモン+ノブナガの野望」も、その一環です。

石原: だから、「いつまで僕たちポケモンやるんだろうね」って社員が疑問に思うようになったら、うちの会社はつぶれるでしょうね(笑)。でも、やることはまだいっぱいあるから。

コンテンツビジネスのサステナビリティの原動力は、
心理を逆手に取った集金マシンの働きではなく、いい驚き

石島:最後は、「ポケモン+ノブナガの野望」の話で。取材の前に10時間くらい遊んでみましたが、とてもおもしろかったです。「信長の野望」のファンのお父さんが、「ポケモン」ファンのお子さんと一緒に遊んだら楽しめそうだなあと思いました。誰でも遊べるように作ってあるんですけど、「信長の野望」で味わえるシミュレーションのおもしろさも再現されている。これはとてもよいゲームソフトだな、と思いました。

襟川:それはありがとうございます。今回の「ポケモン+ノブナガの野望」は小さいお子さんには初めてのシミュレーションゲームになると思います。「シミュレーション」という名前とは関係なしに、新鮮な面白さを感じていただけたら、本当に嬉しいですね。

石原:僕は最後まで遊びましたが、ポケモンソフトとしてしっかり数が狙えるクオリティまできたという手ごたえはあります。ただ、遊びの種類がどこまで今のポケモンファン層に届くのかっていうのは、まだ半信半疑。でも、僕は「ポケモン+ノブナガの野望」が「信長の野望」シリーズの中でもっとも売れるソフトになってほしいし、そうなりたい。

襟川:この作品は、シミュレーションゲームファンだけでなく、幅広い方に遊んでいただくために、丁寧に、しっかりと作り込みました。日本だけでなく、世界中の子どもたちがこの作品を通してシミュレーションゲームの楽しさを知ってくれると同時に、「ノブナガ」や「ケンシン」「シンゲン」などの名前を覚えてくれたら嬉しいですね。

石島:繰り返しになりますが、「ポケモン+ノブナガの野望」のすばらしい点は、「ポケモン」という子どもにむけたキラータイトルと、「信長」という、老舗&ゲームファン以外にも届くシリーズの、全く想像外の組み合わせであることだと思います。この「ありえない」組み合わせが実現するのも、おふたりのように柔軟な思考ができるゲーム業界トップが多いからなのでしょう。

 さらに、いわゆる従来型のゲーム業界は、「面白ければ何でもやろう」という原動力を上から下まで共有できる風土こそが強みだと思います。心理を逆手に取った集金マシンの働きではなく、「ポケモン+ノブナガの野望」のように、いい意味での「ありえない」驚きこそが業界の明日を創り、サステナビリティを保証するはずです。

 あたらしい驚きをなんとかして産もうと日々苦心している業界人の皆さんの働きに、今後も期待しています。