米国市場が想定以上の下げになったのは、オバマでは目の前に迫った「財政の崖」を避けられない。こんな見方が圧倒的に多いから。「財政の崖」とは、まずブッシュ大統領時代に実施されたいわゆる「ブッシュ減税」が起点になります。それは2001年、2003年の2度にわたって実施した大型減税策。オバマ大統領は元々2010年末に期限を迎えるブッシュ減税を2年間延長する法案を柱とする経済対策法案に署名し、その期限が年内に来ることになっているのです。
減税案の中身は、個人所得税率の低減を中心とし、特に累進課税の最高税率は39.6パーセントから35パーセントに引き下げられ、富裕層を中心とする投資所得に対しては、従来は通常所得と同率の最高39.6パーセントだった配当課税を15パーセントまで引き下げたのです。さらに55パーセントだった遺産税は毎年税率を低減させると同時に免税枠を毎年増やしていき、2010年末には完全撤廃するという日本では信じられないような大胆な税制改革でした。このような措置により2000億ドル(約16兆円)ほどの減税がなされたとされています。
しかしそれがもう間もなく終わることになるのです。となると年明けから増税ということになります。これがまず懸念材料になっているところに、年明け以降、もう一つ大きなマイナス材料が控えているのです。オバマ大統領は2011年夏に米国が債券発行の上限枠を毎年外して赤字国債を新たにどんどん発行し続ける悪弊に歯止めをかけるべく、上限枠を外す条件として2013年から強制的に国防費を中心に10年間で最大1兆2000億ドルを歳出削減すると決めたのです。
整理しますと、(1)年内にブッシュ減税が終わる、(2)年明けとともに国防費を中心に歳出削減しなければならない。こうなり、金額にすると5600億ドル(約45兆円)に達する見込みであり、そのまま実施されると米国経済は急失速、まさに崖から転げ落ちてしまう。成長率は前半だけで3%も低下する・・・と。
確かにこのまま実施されると大変なことになるでしょう。オバマ大統領も回復中の経済を再度失速させるような愚かなことをするはずがない。こういうことになるのですが、市場は、議会のねじれを理由に「乗り切り困難」と見ているのが実際です。
しかし、です。政治家とは「妥協」の名人たちです。日米ともにこの点に変わりはなく、今後大統領、民主、共和の指導者たちは幾度も協議を重ねることで妥協し合い、一点を見い出し、完璧な形ではないにしても危機を乗り切っていきます。それは妥協の産物ではないかということになるでしょうが、「妥協」で構わないのです。大事なのは米国経済の回復が止まってしまわないようにすることであり、ここから来年にかけてその努力がなされ、「崖」の角度は90度でなくなって、最悪でもゆるやかな坂ぐらいになる。こういえますので、市場のセンセーショナルを悲観論に巻き込まれないようにしたいものです。
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▓ 北浜 流一郎
株式評論家。週刊誌記者、作家業を経て株式アドバイザーへ転身。20年以上にわたって儲かる個人投資家を育て続ける。
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