【三菱重工業】
ガスタービン技術で世界3強
サービス事業が収益性向上の鍵
原子力発電所の停止やシェールガス革命で、注目が集まる火力発電。その主要機関、大型ガスタービンは世界で4社しか造れない。そこに名を連ねる日本唯一のメーカー、三菱重工業の課題に迫る。
「J形の情報を集めろ」
米ゼネラル・エレクトリック(GE)と並ぶガスタービンメーカー世界トップ3の一社、独シーメンスでは、このような指令が飛んでいるという。
「J形ガスタービン」というのは、三菱重工業の最新鋭機種だ。2009年に世界最大、最高効率をうたって商用化に着手し、現時点で20台弱の受注があるという。
ガスタービンの中でも、出力10万キロワットを超える大型は製造が特に難しい。市場の参入障壁は高く、プレイヤーは世界でもわずか4社。その中でもトップ3が9割を占める寡占市場なのだ。そして、その一角に三菱重工が食い込んでいる。
三菱重工の執行役員、安藤健司・高砂製作所長は、「常にシーメンスとGEが先を走っていて、小さな背中しか見えない関係だった」と、歴史を振り返る。しかし「ついに技術力では肩を並べた」と誇らしげな表情を見せるように、三菱重工の最新製品は顧客だけでなく、競合メーカーにとっても注目の的となっている。
ただ、「販売力や生産能力などはまだ追いかける立場で、サービス事業を含めた世界戦略も学ぶ必要がある」と分析している。
まだ埋められていないこれらの力の差は、3社の利益率の差として表れている(図1)。ガスタービン事業が含まれる発電関連事業の営業利益率を見ると、直近でシーメンスとGEは15%以上をたたき出している。それと比べると、三菱重工は改善が続いているとはいえ、10%弱と差は大きい。
この利益率の差をさらに要因分解するために、発電関連でどのような事業が儲かるのか、各事業における営業利益率の推定値を出した(図2)。
中でも注目すべきが「サービス事業」だ。例えば、ガスタービンは高速回転する上、部品は1500℃、200トンという超高温高圧にさらされる。これは石炭火力発電や原発で使用するボイラー(蒸気発生装置)、蒸気タービンよりも過酷な環境だ。そこで、定期的な保守や修理をするサービス事業が必須になるのだ。
野村證券の田崎僚アナリストによれば、「ガスタービンは製品本体の販売金額と、稼働期間中におけるサービス事業の累計売上高が、ほぼ同じ」とみられている。さらに、利益率ではサービス事業のほうが高い。シーメンスやGEなどでは、営業利益率20%を超える高収益事業なのだ。
あるガスタービンメーカー幹部は、プリンタ事業がインクで儲けることを引き合いに出し、「そこまで極端ではないが、ガスタービンも製品本体よりサービスで儲ける」ビジネスモデルだと明かす。
そこで発電関連事業の売上高構成を3社で比較すると、三菱重工は2社と比べて、高収益を稼ぎ出す火力発電サービス事業の構成比が低いことがわかる(図3)。
「これには日本特有の事情も作用している」と、外資系重電メーカーの中堅幹部は見ている。
というのも、日本の電力会社はメンテナンス部隊を自社や関連会社で取りそろえている。何事もメーカーへの丸投げをよしとしないお国柄なのだ。また、日本には「製品を買えばサービスはタダで付いてくる」という意識が強い。外資系メーカーの参入障壁になっている面はあるが、長く日本を主戦場にしてきた三菱重工にとって、こうした事情が世界へ羽ばたく上で足かせになっていると、外資系メーカーの目には映っている。
さらに、「ガスタービン事業を手がけてきた歴史の長さの違いも大きい」と、三菱重工元幹部は語る。「GEなどは50年くらい前からガスタービンを売っているため、販売してきた累積台数が三菱重工と1桁違う」(図4)。
11年の世界シェア(出力ベース)こそ肩を並べるが、累積受注台数を見ると、三菱重工の約500台に対し、GEは約7000台。そのほとんどが現役で、サービス事業の元種が世界中で回っていることになる。いわば“金のなる木”がどれだけ世界中に植えられているかという点で、大きく水をあけられているのだ。
トップダウンで意識改革
技術者をサービス部隊へ
当然、こうした分析は三菱重工でも行われており、以前からサービス事業へ注力している。具体的には、ガスタービン製造の本拠地、高砂製作所をはじめ、技術本部に所属する技術者たちを、サービス事業に送り込んだのだ。
「ガスタービンの設計をやっている人間が偉くて、サービス担当は下という意識があるうちは、いくら上がサービス事業の重要性を説いても無駄」。意識改革のために前例のない手段を取ったのだと、当時を知る関係者は明かす。
さらに、「Diamond Service Network」と呼ぶ、サービス拠点網の整備も進めている。
「サービス拠点が近くにあることは、ガスタービンを買ってもらうための必要条件」(ガスタービンメーカー幹部)でもある。製品本体の販売を世界中で促進する意味でも、このネットワークが重要になってくるのだ。
新しい技術開発にかかる多額の研究費と、投資回収の難しさから、GEの名物経営者ジャック・ウェルチに“ギャンブル”と言わしめたというガスタービン事業。
世界トップクラスに育った技術力を高め続けながら、その技術をカネに換える経営をどれだけ進められるか。世界トップクラスであり続ける鍵はそこにある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)