Close-Up Enterprise
【第93回】 2012年11月14日 週刊ダイヤモンド編集部

シャープ事業継続ついに赤信号!
家電3社、累計3兆円喪失の衝撃

日本を代表する家電メーカー3社は昨年度に引き続き、目を覆わんばかりの赤字に沈む見通しだ。2012年度までの3年間の損失はなんと累計3兆円にも及ぶ。元凶である液晶テレビを筆頭に、これまで国内で培ってきた事業をそのまま維持することは、もはや限界に達している。

歯止めのかからない経営の悪化について、説明するシャープの奥田社長
Photo by Naoyoshi Goto

 ついにシャープが崖っぷちに立たされた。

 10月上旬、液晶テレビの不振をきっかけにした経営危機に揺らぐシャープ本社で、なんとも奇妙なことが起きていた。数週間後に迫った中間決算発表の会見に、肝心のトップである奥田隆司社長が欠席すると囁かれていたのだ。

 理由は「再建案や他メーカーからの出資などポジティブな材料がなく、矢面に立つのは無理なのではないか」(複数のシャープ幹部)というもの。社内では、この春に急遽トップに就任した奥田社長が、いまだに不慣れな会見に出ることを不安視する声が高まっていた。

 同社は昨年度に3760億円の赤字を計上した上、液晶テレビや太陽電池事業の不振に歯止めがかからず、今年度さらに4500億円という過去最悪の赤字に業績予想を下方修正。自己資本比率が9.9%と1桁台に落ち込み、まさに瀬戸際の状況にある。

「もはやトップが説明しないで済むような状況ではない」(シャープ社員)のだが、確かに決算会見の案内には当初、奥田社長の名前はなかった。

 さらに、同社が自力で危機対応できない姿が浮き彫りになる。

 決算会見は、業績などの数字のみならず、企業側の考えやメッセージを伝えるための大切な機会であることは言うまでもない。

 しかし、である。シャープが決算会見で見せるプレゼンテーション資料の大部分は、実は、主力銀行が紹介したスタッフらが作成したもの。そのため「シャープ側の意図はほとんど入っていない」(同社社員)まま、その“銀行製”の資料が本番に使われることになる。

決算短信に記載された、今後の継続企業の前提に関する疑義

 そして迎えた決算会見当日の今月1日。

「早く業績と信頼の回復に努めたい」──。

 直前に出席をアナウンスした奥田社長は力を込めたが、吹けば飛ぶような138億円の下期営業黒字予想は、銀行が描いた短期的な止血シナリオそのものだった。

 それより注目を集めたのは、決算短信に、今後の継続企業の前提に重要な疑義があるというリスクが記されていたこと。

 創業100年目にして、シャープの存続自体が危うくなっている。

期待の収益源までも
相次ぎ赤字要因に

 パナソニックが10月31日、ソニー、シャープが11月1日、日本を代表する家電メーカー3社の中間決算が出揃った。各社は2012年度の通期業績予想を下方修正しており、この3年間で累計3兆円の損失を計上するという、かつてない厳しい局面に立たされている。

 最も厳しいのが、シャープで、4500億円の最終赤字だ。

家電大手3社の直近3年間の最終損益
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 主力の液晶テレビ「AQUOS」の出荷台数は前年度比3割以上減の800万台、売上高も3700億円(前年比63.6%)と激減して赤字に。液晶事業(中小型ディスプレイを含む)も1320億円の営業赤字を見込む。

 虎の子の高精細・省エネルギーの液晶パネル「IGZO」も黒字化しておらず、生産拠点の亀山第2工場の稼働率は上半期でわずか30%ほどにとどまっている。

 プラズマクラスターなど美容健康商品を含む白物家電(営業利益330億円)と、オフィス用複写機などを手がける情報機器(同180億円)のわずか2事業が利益を生んでいるという状態だ。

 また、一足先に薄型テレビ事業の拡大に見切りをつけていたパナソニック(売上高7兆3000億円、7650億円の最終赤字)も、予想外の赤字に沈む。

 特別損失の要因は、成長領域として買収した旧三洋電機のエナジー事業の失速だ。

 買収時の価格に含まれていた「のれん代」と呼ばれる資産と、知的財産など無形固定資産などを太陽電池で1480億円、リチウムイオン電池で956億円をそれぞれ減損処理。さらに不振の携帯電話事業(旧松下通信工業)の956億円も加え、3事業合計で3392億円に上る特損を計上した。

 業績の不透明感が増したことから、将来の税金負担の軽減を見込んでいた繰延税金資産も4125億円を取り崩し、合計8000億円と途方もない減益になる。

 家電3社の中で唯一、最終黒字を発表したソニー(売上高6兆6000億円、200億円の最終黒字)だが、しかしこれを回復とみなすことは到底できない。

 実際は薄型テレビなどの規模縮小によって、本業のエレクトロニクス事業の赤字幅が縮小しているというのが正しい見方だ。

ソニーは6四半期連続
繰り返す下方修正

 いつまで巨額の下方修正は続くのか。週刊ダイヤモンドは過去2年間の通期業績予想の推移を一覧表にした(下表参照)。読み取れるのは、敗色濃厚なデジタル家電分野でのシェア拡大をあきらめ切れず、傷を深める姿だ。

 例えばソニーは今期、7兆4000億円の売上高を見込んでいた。ところがわずか半年間で8000億円も下方修正した。業績の下方修正は6四半期連続だ。内実は家電商品の販売不振で、液晶テレビ1450万台(300万台減)、コンパクトデジタルカメラ1600万台(500万台減)、携帯ゲーム機1200万台(400万台減)、パソコン850万台(150万台減)になる。

 テレビが細る一方、小型カメラやゲーム機がスマートフォンに猛スピードで呑まれ、縮小している。

 ところがソニーは今年4月の経営方針説明会で、3年後には売上高を8兆円まで拡大させると宣言したばかり。スマートフォンやカメラ、ゲーム機が牽引役としているが、このままでは“画餅”になるのは間違いない。

 シャープも4四半期連続の下方修正の元凶は、拡大路線一本だった液晶テレビ用のパネルの大量生産だ。抱え込んだ在庫の評価損が吐き出し切れず、四半期ごとに業績の悪化要因になっている。

 「売り上げを上げれば、収益をつくれるのだと考えてきた。そういう過去の価値観を大きく変えなくてはいけない」

 パナソニックの津賀一宏社長は記者会見で、これまでのマーケットシェア至上主義ともいえるデジタル家電の基本戦略を、根本的に転換させると明言した。

 過去の規模拡大モデルを再建策として掲げる限り、日本家電メーカーの復活を望むのはもはや難しそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)

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