メタ女解説 |
メタ女というゲームの触感を未プレー者に正確に伝えるのは、とても難しい。1996年、既にDOS/V機に取って変わられつつあったPC−9801用にひっそりと発売されたシミュレーションRPG。荒唐無稽な世界観。エキセントリックな登場人物たち。独創的なシステムの数々と、荒削りなゲームバランス。媒体がFDのDOSゲームであるにも関わらず、バリバリ喋りまくる(ただし演技は素人まるだし)ボイス演出。こうして特徴を並べあげていけば、通り一遍の紹介・説明は出来る。しかし筆者と、そして恐らくほとんどのメタ女プレイヤーが感じているメタ女の核心(=触感)は、先に挙げたいずれにも重ならない。 では、筆者の触感とはいったいどのようなものなのか。それを語る前に、ともかくいちどプロローグに目を通していただきたい。 ……読み終わっただろうか? 途中で読むのをやめてしまったか、もしくは最後まで読み終わっても呆れるだけだった貴方は、残念ながら『メタ女』とはシンクロ不可能である。プレーしたとしても得られるものは少ないだろう。一方、もし貴方がこのプロローグに何かしらの魅力を感じるならば、メタ女は貴方にとって万難を排してでもプレーする価値を持つゲームである、と断言できる。今からでも遅くない。すぐにディスクイメージをダウンロードしよう。独特であるがゆえに、人を選ぶ。しかし制作者が打った音に響いた人間には、強烈な印象を残す。メタ女とはまず、そういう種類のゲームである。 多少話がそれてしまったが、いよいよメタ女の核心である男臭さについて語る準備が整ったようだ。タイトル自体が略称になっているが、メタ女の舞台は府立メタトポロジー大学付属女子高校という女子高である。一部の例外を除いて、登場人物はほぼ女ばかりだ。しかし、そのような一見『狙った』設定にも関わらず、メタ女にはいわゆるギャルゲー的な要素がものの見事に欠落している。ひとつにはプレイヤーの分身たる主人公もまた女子高生であることも影響しているだろう。だが、筆者はそもそもギャルゲー的要素の導入は最初から不可能だったと考える。何故か。彼女等はトポロジー的には男以外のなにものでもないからだ。 メタ女のキーとなる単語、トポロジー。もともとは幾何学の一分野で、図形の見た目にとらわれることなく共通の性質を探求する学問を指す。浮き輪とコーヒーカップの形は同じ、というあれだ。ゲーム中では、頭に『メタ』がついたメタトポロジーという謎の超テクノロジーが使用されるが、メタ女そのものを読み解く際にも、この言葉は欠かせない。 プロローグで語られている、メタ女の戦いの歴史。それはゲーム本編でもまさに千年一日の如く繰り返される。メタ女の覇権を巡って各部部長を中心に繰り広げられるパワーゲームは、まさに抗争・報復・謀略・裏切りの見本市である。日常的に放課後の戦闘で死人が出る狂った学校には、本来女の居場所はない筈だった。しかしこのゲームは『バカゲーノリの世界観』『コミカルな見た目(グラフィック)』の導入によって、血なまぐさい男の仕事を女子高生に肩代わりさせるという荒業を、鮮やかな手際で成功させている。むろん、トポロジー的なかたちは保ったままで、である。 さて、これ以上核心に触れるのは無粋というものだろう。もう一度繰り返す。貴方がプロローグに何かを感じたのなら、メタ女をプレーしないのはあまりに勿体ないことだ。こんなにもサービス精神に溢れ、なおかつ作者の主張が見事に表現されているゲームを、筆者は他に知らない。メタ女は決して、貴方を落胆させない筈だ。 さあ、『メタ女』の世界へ。 (記:酒井シズエ) |