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 さて、影の薄い樊稠さんですが、実は治安維持から兵士の調練、董旻さんやら李儒さんの護衛まで、八面六臂といえる大活躍をしております。
 当初、華雄さんの2Pカラーとして、脳筋バトルマニアを心配してたんですが、曰く「私は華雄ほど、突き抜けた武を持っていないのでな。 才無き故に拘りがないのか、拘りを持てんが故に才を持たんのかは判らんが、アレ程に誇りがどうのと、仕事の選り好みはせんよ」だそうで、便利使いと迄は行かないにしろ、結構な無理を聞いて貰っている。
 まあ、その代わりに時たま、訓練代わりと、ふっ飛ばされたりしていますが。

「しかし、何やら世間も、きな臭い。
 私だけでも、今はなんとかなっているが、もう少し手が欲しいもんだな」

 そんな樊稠さんの言葉に、うちの連中は何をしているのやらと、ここ最近、頻繁に頭に浮かぶ問いを繰り返す。

 こないだの賈駆先生の来襲以降、董旻さんを近隣数県の太守職に、という動きが加速している。
 元より一つの県になど収まるべくもない、人材スペックの発揮で、ごく短い間に近隣地区にも影響力を持ち始めている、我が上司の李儒さんが、董家をスッ飛ばして中央に働きかけていた事なのだが、賈駆先生との協議の結果、董家としても、その方向で事を進める事を認めたのだ。
 これは、先だってからの状況の変化に依るものと、此方の予想外の伸長のせいだろう。

 まず、うちが涼州という董家の地盤において、対立性勢力として湧いて出るデメリットが、董家内部に軸が二本在る事のデメリットを、超えたんだろうというのが一つ。
 ついで、賈駆先生が行った、董家内部の綱紀粛正と取り込みで、董旻さんが董家に復帰したとしても、リスクを押さえ込めると判断出来るほどに、賈駆先生が影響力を増したということだろう。

 本当に、ただの一県から、半年で危険物になり得る程の、影響力を握る李儒さんも、有象無象の蔓延る一つの勢力を、短期で叩きなおして見せる賈駆先生も、パナイねえ。
 まるでゲームかアニメみたいだ……まあ、ゲームだけども。

 そんなことで、近いうちに人手が必要になる訳なのだが。

「ん? あれは?」

 調練を行なっている集団の中で、個人の手合わせだろうか? ワイワイと盛り上がっている集団がある。
 見ると、人が吹っ飛んでいるのが目に入り、なまなかな武力では、ああはならんので、興味を惹かれた。

「樊稠殿、あれは?」

 呼びかけると、範疇さんも、そちらへと目をやり。

「ああ、少々足しになりそうなのがな」
「ほう」

 二人で、足を向けて見ることに。
 兵士達が、近寄るこちらを見とがめ、囲みを開いて場を開けてくれた。
 開けた視界では、巨漢が棍棒を振るいながら、木剣を持って囲む三人相手に奮戦していた。

「元は、十対十ですがね。
 あのデカイのが、一人で頑張って七人を、ふっ飛ばしたんでさ」
「ほう、それは大したものだな」

 古参の什長さんが、俺と樊稠さんへ、声を掛けてくる。
 俺も時折、警備で彼らを率いたり、樊稠さんに調練の際に、彼らと仲良くフッ飛ばされたりしてるので、外野を見るような目では見られないのだが、俺は手合わせしてる連中を見ていて、返答ができなかった。
 その四人というのが、ヤス、キン、チョイとチャンだったからで……。
 思わず近辺の連中が持っている、訓練用の棍を奪い取り、手合わせの中へと割り込み。

「お前ら、何をやっとるかな!!」

 ツッコミを入れつつ、運を100叩き込んだ武力で、四人まとめて薙払った。
 唖然とする一同に、色々と言われそうだとは思ったが、俺は冷静だ。
 一応、武力80相当の一撃だからして、手加減している訳だし。

「ひ、ひでぇぜ、旦那!!」
「相変わらず、突っ込みキツイぜ」
「ヒヒー、イてぇ」
「ブ、ブフゥ、旦那、強い」

 なにげにチャンが、セリフを喋ったのに驚き、そういや知力とか上がったんだっけか? と、取り留めもないことを考えてしまいそうになるが、四人に他の連中が、今どうしているかをたずねて見ることにした。

「お前ら、こんな所で何をしとるのだ? 散々探しておったんだがな。
 他の連中も、どうしておるんだ?」

 問い掛けてみると、ヤスが代表して、答えを返してきた。

「旦那、申し訳ないんですが、この四人以外のことは存じ上げません。
 俺らは、たまたまこの近辺に鉢合わせたんで。
 後は、旦那の名前を聞き込みまして、ここに紛れ込んだって次第で」

 時期的には、ごく最近の登場だったらしい。
 これはどういうこったろうか? ランダム設定にしても、登場時期すらランダムだってのかね?
 まあ、猫の手とも言わんが、いくらか人手が増えて、助かったといえば助かったな。

「満腹、どういうことだ? 知り合いなのか?」

 樊稠さんに、どう答えたもんか?

「ええ、こいつらは、私が馬鹿やってた頃の弟分というか、まあそんな所ですな。
 ヤスとキンは、それなりに目端の利く、気の回る連中です、十人程度の面倒は見れるでしょう。
 チョイは頭は回るんですが、目先に引っかかるので、誰かに付けておくのが良いでしょうな。
 チャンは見ての通りの武力持ちですが、人を引き連れるには、未だ至らぬところがありますので、こちらも誰かに付けてやると、力を発揮するでしょう」
「ほう、なるほどな」
「そうそうには、使い減りせぬ連中ですので、樊稠殿の良いように」

 なにやら、範疇さんが、難しい顔を。

「ところでな、満腹」
「なんですかな? 樊稠殿」
「そこだ」
「はて?」

 なんだ?

「お前は何時まで、私を樊稠殿などと、堅苦しく呼んでおるのだ?」

 いや、字を知らんので、そうとしか呼べないんですが。
 呼び捨てる迄の仲でもないかと思ってたし。
 まさか、華雄さんと同じく、真名とか無いんです的な、ネタの被りまで有るとは思わなかったが。

「私としてはな、真名こそ無い為に預けられんが、もし在れば預けても構わん位には、お前を買っているのだぞ!!
 大体にだな、お前は結様や永とも、真名を交わしておるらしいではないか!!
 一番最初に声を交わしたのは私だというのにだ!!」

 正確には、俺も真名無いんだけどね。
 えーと、これはアレか?

「なるほど、そこまで見込んで頂いておったとは……私も真名は持ちあわせておりませんが、これを」

 と、指輪を渡して、受け取って貰った。


 それから、調練の続きをということで、樊稠さんとは、その場で別れたのだが、考える事ができてしまった。
 今頃あの四人が登場って、幾ら何でも遅いだろうと。
 しかも、俺の回りとはいえ、まわりくどい出方を。
 見落とした仕様なのかね? それともバ「呼ばれて飛び出る、股間がヒ~卜ォ」
by katuragi_k | 2012-11-13 15:10
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