夏美危機一髪!(体験版) 絵と文 / 綾瀬彩乃
<1>
「ちょっとボケガエル! どういうつもり!?」
それは突然の出来事だった。
学校から帰宅した夏美は、玄関を開けた途端、
ナゾのひも状生物に縛り上げられてしまったのだ。
「おっと、動くなであります!」
それを見届けたケロロとタママが立ちはだかる。
「この怪力ペコポン人(メス)は、並の拘束具では歯が立たないからな〜」
いやらしい笑みを浮かべるケロロ。
その様子がよほどカンに障ったのか、夏美は身体をゆすって抵抗している。
「わかってんなら、さっさとこれを…」
いつものように凄んでみせる夏美に一瞬怯みそうになったが、
今日という今日は勝算がある。ケロロはぐっと堪えて戯けてみせた。
「お〜、コワイコワイ。…タママ二等、この脳みそとおっぱいの小さいムスメに、例のアレを見せてやりたまえ」
「クッ、クラスの女子じゃ大きい方よ!」
「は〜い、軍曹さん!」
タママが映写機のスイッチを入れる。
スクリーンに映し出されたのは巨大宇宙兵器の三面図だった。
「なにこれ…人工衛星?」
「ただの衛生ではないであります!」
「く〜っくっく…」ケロロに代わってクルルが教鞭を振るう。
「こいつは今朝、我が部隊に実戦配備されたビーム砲だぜェ…!」
「宇宙世紀の到来であります!」
「…イミがよく解らないんだけど」
夏美は状況が理解できないらしく、首を傾げている。
クルルはうれしそうに、頭上を指さした。
「でっかい大砲が頭の上を飛んでるってことさ…く〜っくっくっ」
「このボタンを押すと発射されちゃいますぅ」
タママが手に持ったiPodを見せる。
「で、街はコナゴナってわけ」
「な…っ、なんですって…!」
みるみる顔が青ざめてゆく夏美。
それを見たケロロが、一層威圧的に迫る。
「夏美殿、おとなしく言うことを聞くであります…!」
「…わかったわよ」
ケロロ達の言うことを鵜呑みにしたわけではないにせよ、
夏美はひとまず様子を見ることにしたらしく、
その場は抵抗せずに、おとなしくケロロに従ってみせた。
「…で? あたしをどうするつもり?」
ケロロ小隊の部屋に連行された夏美が、不服そうにたずねる。
夏美の自由を奪い増長しきったケロロは、
「エロいことするに決まってんじゃん」
しれっと事も無げにそう言ってのけた。
「軍曹さんワルですぅ」タママも拍手喝采する。
「くっ…!」予想だにしない要求だったのだろう。夏美がうろたえる。
「さぁて手始めに…」いやらしい手つきで夏美に迫るケロロ。
ごくり、夏美が固唾を呑む。
「パンツ! パンツ見せるであります!」
「軍曹さん、地味ですぅ…」
拍子抜けする夏美とタママ。
「…勝手に見ればいいでしょ」
「か〜! ロマンの解らないムスメだねえ〜! めくらせるからイイんじゃないのお!」
「…いいけど、べつに。でも吊られたまんまじゃ、めくれないわよ」
「む、むう」夏美のもっともな要求にケロロが唸る。
「…タママくん、拘束を解いてやりたまえ」
「えッ! でもでも軍曹さん…」
機嫌の悪い夏美の怖さはタママも知っている。
しかし、今日のケロロは肝が据わっていた。
「なあに。切り札はコチラにあるのであります」
「そっか」そんなケロロに、タママも勇気づけられる。
縛(いまし)めを解かれ、自由にされる夏美。
「……」夏美は意外なほど抵抗しない。出方を見ているようだった。
「さあ、スカートをめくるであります夏美殿。自分の手で」
「…アンタ達、ただじゃおかないからね」
舌打ちをひとつすると、要求された通り夏美はスカートをめくってみせた。
清潔な淡いブルーの下着が姿を見せる。
あのじゃじゃ馬が我が輩の言いなりに!
ケロロは興奮に身を震わせた。
「おいおい、このコ、ホントにパンツ見せてるよお〜!」
「…わたしのパンツ見て、楽しい?」
「すっげ楽しい」
「楽しいですぅ」
「さ、もういいでしょ? こんなこと、ヤメなさいよ」
「げろげろげろ、甘いぜお嬢ちゃん? 祭りはこれから…」
ケロロがそう言いかけたとき、
「ただいま軍曹〜」「げっ、冬樹殿!?」
事もあろうに帰宅した冬樹が、現場に出くわしてしまった。
「姉ちゃん!? 軍曹も、な、なにしてんの?」
ただ事ではないシチュエーションに、思わずたじろぐ冬樹。
「冬樹逃げて…ッ!」夏美はとっさに叫んだが、
「やっべ、捕獲!」
冬樹までが捕まってしまった。
「こうなった以上、冬樹殿にも協力してもらうであります…!」
「ちょっとぉ! 冬樹をどうするつもり!?」
「軍曹! この紐をほどいてよ!」
ひも状生物に縛られた冬樹も必至に訴える。
「冬樹殿には普段お世話になってるからなあ〜」
そんな訴えには耳を貸さず、ケロロは夏美をドンッと蹴倒した。
「きゃっ! 痛ったぁ…なにすんのよっ!」
「しゃぶってさしあゲロ」
「え…?」
「だーかーら! 冬樹殿のアレをしゃぶってやれっつってんの!」
「……ッ!」一瞬、意味が判らない様子の夏美だったが、
やがて理解したらしく、カァ〜ッと赤面する。
「姉ちゃん…?」まだ状況を把握できていない冬樹。
「ボ、ボケガエル、アンタいいかげんに…!」
夏美はいよいよ堪忍袋の緒が切れたらしく、
鬼の形相でケロロに詰め寄った。
「な、夏美殿、ちょっとタンマ…!」
うろたえるケロロの胸ぐらを掴む夏美。
いよいよ振り上げられた拳が振り下ろされようとしたその時。
ズウゥゥゥンンン……
鈍い地響きと共に、激しい揺れが日向家を襲う。
「ッ!」「…あ」窓の外を見ると、街の彼方に白煙が上がっていた。
「お、押しちゃったですぅ」
タママが震える手でiPodを握る。
やっべ、もう後にはひけねえ…!
「み、見たかペコポン人ども! 抵抗すれば容赦なく撃つであります!」
「ケロロ…、アンタ…」
夏美は、危機的状況がいつになく深刻であることを思い知ったらしく、
握った拳をふるわせながら、ケロロをキッと睨む。
「…あとでゼッタイ殺すからね」
そしておもむろに、冬樹のズボンのファスナーを下ろした。
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