「はじめまして…と言うべきでしょうかね。お話するのは初めてですし」
 「そうね。では改めて、碇ユイと申します。私とシンジ、そしてゲンドウさんを救ってくれてありがとう。感謝してもしきれないわ」
 「狩威シンゴです。シンジくんを含め、あなた方が幸せになってくれれば、僕にとっては最高の恩返しですよ」
 「そのようね。ゲンドウさんから話は聞いてるわ。私としては、“使徒の転生による解放”が気になったわね。その辺の話、今度詳しく聞かせてくださいな」
 「それは奇遇ですね。これからその“転生”をしに行こうと思ってたんですが、この後空いてるようなら手伝っていただけませんか?」
 「えっ!? ぜひ手伝わせてもらうわ!でも使徒はまだ…」
 「居るじゃないですか。セントラルドグマに眠っている第二使徒“リリス”が」


助っ人 
第7話「リリス、転生」


 -ネルフ本部内 通路-

 二人はケイジを後にし、話をしながらセントラルドグマへ向かっていた。
 ユイはリリスの存在を無意識に選択肢から除外していた。リリスはアダムと対をなす存在。アダムを求める本能は持っていないはずである、という理由からだ。シンゴの口からこの名前が出た時には、驚きと「何からリリスを解放するのか」という疑問が生まれた。彼女はこれを自分なりに解釈し、シンゴにたずねた。
 「リリスにもアダムを求める本能があるというの?」
 「いいえ、そうではありません。ではユイ博士、リリスと人間の相違点ってなんだと思います?」
 「なるほど、人間に転生するんだからそれを考えれば答えが出るわけね。やはり、肉体…かしら?」
 「流石ですね、正解です。一部を除くの使徒は本能と肉体からの解放ですが、アダム、リリスは肉体からの解放だけです」
 「そう、大体分かったわ。でも、人間の姿をした使徒はいないの? その使徒は逆に本能からの解放だけが必要になると思うのだけど」
 「良い質問ですね。実は僕達人間も、リリスから生まれた18番目の使徒「リリン」なんですよ。他とは違って集団で生きる事を選びましたがね」
 「!!! …あなたの口からは驚く事ばかり出てくるわね…」
 「もう一体、いえ、もう一人と言うべきでしょうか、人間の姿をした使徒がいますが、彼の話はまた今度にしましょう。エレベーターに着きましたよ」

 二人はエレベーターに乗ると、目的の場所であるセントラルドグマへと降りていった。



 -総司令執務室-

 ゲンドウと冬月は、書類の整理をしていた。

 (ユイ君が戻ってきたことでここまで変わるとはな…)

 ユイが戻って以来、自分に大半の仕事を押し付けていたゲンドウが多くの仕事をこなすようになったり、自分のことを呼び捨てにしなくなったを見て冬月はそう思った。

 「そういえば冬月先生、以前狩威君の目的について話したと思いますが、リリスの転生を今日、行うそうですよ」
 「なに!? 本当かね!!」
 「ええ」
 「リリスがあの場を離れたら使徒を引き寄せる力はどうなるのだ?」
 「詳しくは聞いていませんが、彼がやると言ったからには何か考えがあるのでしょう」
 「随分と彼を信用しているんだな…ところで、開始時刻は何時かね?」
 「詳しくは聞いていませんが…見に行かれるんですか」
 「ああ! どのようなものか気になるからな」

 そう言うと足早に執務室を後にした。
 一人残ったゲンドウは、冬月の“随分と彼を信用しているんだな”という言葉を思い出していた。最近、彼の中でこれに関する疑問が解決していた。
 なぜシンゴが自分の前に現れた時、彼を信用できたのか、その答えは彼の顔にあった。息子のシンジと瓜二つだったのだ。シンジがこちらに来てから幾度か二人が一緒にいるのを見たが、まるで兄弟のようだった。

 (いつまでも味方…いや、仲間でいてくれるといいのだが…な)



 -セントラルドグマ ヘヴンズドアの前-

 タッタッタッ…
 シンゴの持つ最高レベルのカードを使いヘヴンズドアを開こうとしていたシンゴとユイの耳に、後ろから近づいてくる小走りのような足音が飛び込んだ。
 「間に合ったか…」
 「副司令でしたか」

 二人は警戒し振り返ったが、足音の正体が副司令だと分かると警戒を解いた。

 「碇に転生の話を聞いてな、気になって見にきたのだが、いいかね?」
 「構いませんよ」

 カードをスリットに通すと、ドアはゴォーという音を立てて開いた。中には紅い十字架に磔にされたリリスがいた。三人はリリスの前まで進み出る。シンゴはユイのサルベージのときと同じように、リリスに手をかざすように伸ばす。するとリリスはLCLに還り、音を立てて流れ落ちた。跡には紅い球体が残った。

 「「!!!」」

 ユイと冬月は驚きに目を見開いた。まさか肉体がLCLに還るとは思わなかったのだろう。残った球体は小さくなりながら形と色を変えた。そして、紅い瞳と腰の少し上まで伸びた白金色の髪を持ち、長い純白のポンチョのようなものを着た若い女性の姿になった。彼女はゆっくりと3人の前に降りてくる。

 「はじめまして、狩威シンゴです。新しい肉体はどうです?」
 「こちらこそ。いい感じです、ありがとう」

 シンゴの挨拶に、女性は頭を下げてそう返した。

 「君がリリス…でいいのかね?」
 「ええ、正確にはリリス“だった者”です。あなたは?」
 「私は冬月コウゾウだ。ネルフの副指令をやっている。よろしく」
 「よろしくお願いします。そちらの女性の方は?」
 「碇ユイと申します。ユイでいいわ。よろしく」
 「よろしくお願いします。二人とも私の記憶に薄っすらと残っているんですが…どこかでお会いしました?」
 「ええ、こう言うと気を悪くするかもしれないけど、色々研究させてもらったわ。ごめんなさい」
 「いえ、その時はまだ眠っていたと思います。記憶が曖昧なのもそのせいでしょう。ですから、あまりお気になさらないで下さい」
 「そう、ありがとう」

 リリスだった者は2人との会話を終えると、シンゴに訊ねた。

 「ところで、私はなんと名乗ればいいのでしょうか?」
 「では、「毬里《まりり》スミレ」さんでどうですか?」
 「毬里スミレ…いい名前ですね、ありがとうございます。では改めて、毬里スミレです。よろしくお願いします」
 「「「こちらこそ」」」

 To be continued...

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