-初号機ケイジ-

 シンジは圧倒されていた。目の前にいる紫の鬼のような巨人に。

 「これが先程説明した人造人間エヴァンゲリオン、その初号機だ」
 「こ、これに乗って戦うの?父さん」

 シンジはプラグスーツの腕のリングをさすりながら、落ち着こうとしていた。シンゴの言葉のおかげで戦わなければならないという事実を受け入れ一度は乗ると言ったが、実物にを見て圧倒され、乗るのが怖くなった。

 「…どうしてもいやなら、乗らなくてもいい。お前が苦しまなくても済むなら、人類が滅んでも構わない…」
 「そんな…いやだよ、家族3人で暮らすのを楽しみにしてたのに…それができなくなるなんて嫌だ!!! 父さん、僕、乗るよ! 戦ってみんなを守るよ!!!」
 「シンジ…」


助っ人 
第6話 「戦いへの第一歩」


 力強く“戦う”と宣言したシンジに反応するかのように初号機は右手を動かした。突然のことに、シンジは一歩後ずさる。

 「っ! 何? どうなってるの? 父さん!」
 「! …分からん…」

 そんな中、シンゴと冬月ら(第2話でサルベージの原理を知った3人)は冷静に事を分析していた。

 (狩威君が仕組んだサプライズね、さっきの指示はこのためだったということかしら)
 (なかなか面白い事するじゃない)
 (初号機に頼みごととは…大したものだ)

 初号機は右の手のひらをシンジの前、アンビリカルブリッジの高さに差し出した。

 「(大変な戦いになると思うけど、よろしくね。碇シンジくん)」
 「えっ…」

 シンジは一瞬とまどったが、すぐに微笑んで答えた。

 「こちらこそよろしく」

 そして、初号機の手のひらに飛び乗った。

 「どうした?シンジ」
 「声が聞こえたんだ…よろしくって」
 「そうか」

 ゲンドウはシンジにそう返すと、初号機を見上げ心の中で呟いた。

 「(私からもよろしく頼む。息子を守ってやってくれ)」
 「(分かりました。お任せください)」

 返ってくるはずの無い返事に少し驚いたゲンドウだったが、先程のシンジの言った事を思い出し、初号機に笑みを向けた。

 「じゃあまず、エヴァに慣れてもらいます。まずこれを頭に付けてくれるかしら」
 「はい…これでいいですか?」
 「ええ」

 リツコがそう言うと、初号機が右手を動かし、シンジを肩に降ろした。そして首が前に倒れ、その後ろの装甲が開いてエントリープラグが射出された。

 「…随分手間が省けたわね、シンジくん、今出てきた細長いカプセルのようなものがコックピットよ。乗れるかしら?」
 「はい。」

 シンジはそう答えると、装甲をつたってエントリープラグに入った。そして、インテリアに座り、インダクションレバーを握る。
 
 「エントリープラグ挿入」
 「プラグ固定完了」

 オペレーターが起動シークエンスを行う。
 
 「シンジくん、聞こえるかしら?」
 「はい」
 「エヴァは起動中、コックピットを呼吸ができるLCLという液体で満たしてパイロットを保護するとともに、神経接続をスムーズに行える環境を作ります。今からそのLCLを注入します。肺に入れないといけないんだけど、できるかしら?息を吸うようにLCLを吸い込んでくれればいいのだけど…」
 「やってみます」 
 「第一次接触開始」
 「LCL注入」
 
 LCLが注入され、シンジは少しせきこんだが、無事LCLを吸い込む事に成功した。

 「…まずい、血の味がする…」
 「ごめんなさい。でも慣れてもらうしかないわ。我慢してちょうだい」

 ミサトはシンジにそう言った。以前の彼女なら、怒鳴りつけていただろう。シンゴはこの言葉を聞きながら、皆が良い方向に変わってきていることを実感していた。

 「すごい…呼吸をしなくても苦しくならない…」
 「正確には、呼吸ができるというより、血液の酸素と二酸化炭素の交換を直接行う液体ね」
 「あれ…? 血の味、無くなりましたよ?」
 「なんですって!?」
 「(ごめんなさい、味を変えるのを忘れていたわ)」
 「あ、あの、リツコさん…でいいんでしょうか。初号機が味を変えてくれたみたいなんですけど…」
 「……(もうなんでもアリなのかしら…)私のことはそう呼んでもらえればいいわ。続けるわよ」
 「はい」
 「主電源接続」
 「全回路動力伝達」
 「第二次コンタクト開始」
 「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」
 「A10神経接続異常無し」
 「初期コンタクト全て異常無し」
 「双方回線開きます…シンクロ率、は83.24%!?」
 「すごいわね…シンジくん?」
 「はい」
 「右手を握るイメージをしてくれるかしら」
 「分かりました…右手を握る…」

 シンジが右手を握るイメージをすると、それに初号機の感覚が重なり、まるで自分の手を動かしているようだった。すぐにグー、チョキ、パーがスムーズにできるようになった。その日の訓練はそれで終了となり、シンジは初号機を降りた。

 「いい調子よ、明日は戦闘の訓練をするわ」
 「いよいよですか」
 「ええ、明日もよろしくね」
 「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 シンジはそう言うと、LCLを拭きながらシャワー室へと向かった。
 訓練に立ち会った人たちも、ケイジを出て行きつつあった。シンゴも次の目的のためにケイジを後にしようとしたが、ある人物に呼び止められた。

 「あなたが狩威シンゴくんね」

 To be continued...

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