-ネルフ付属病院-
「ここか…」
シンゴは目当ての病室を見つけると、中へ入っていった。扉のプレートには、“綾波レイ”と書かれていた。ベットの上には蒼銀の髪と紅い眼を持つ少女が居た。彼女は扉の開く音に反応して興味無さそうに扉の方を向いたが、シンゴを見ると目を見開いた。
「こんにちは、綾波さん」
「…あなた、誰?」
助っ人
第4話 「第3の布石」
「失礼、僕は狩威シンゴという者だ。所属は司令部だよ。まあ、碇司令直属の部下とでも思ってもらえばいいよ。今日は君に伝えることがあって来たんだ」
「……」
「いいかな? まず、碇司令は彼の補完計画を中止した」
「っ!!」
「でも大丈夫、彼は彼の妻と一緒に君の親になるから、君が必要とされなくなることはないよ。彼の息子とは兄弟になるね」
レイはシンゴの言ったことに衝撃を受けていた。おそらく、碇司令の妻で自分のオリジナルである碇ユイさんが初号機からサルベージされ、彼の計画が不要になったのだろう、と彼女は思った。それ以上に、司令が自分の親になる、ということに今までに無い高揚感をおぼえた。しかし、自分の表情が明るくなった事には気付いていなかった。
「……」
「やっぱり嬉しい?」
「…嬉しい?」
「今君の気持ちは高ぶってるでしょ? それは多分“嬉しい”っていう気持ちだよ。君は今まで計画のために必要なこと意外は教わってこなかったでしょ? だから感情がどんなものか知らなかっただけで、君にも感情が、心があるんだよ」
「…これが“嬉しい”という気持ち…どうして分かったの?」
「君が笑っていたからだよ」
「…そう、私笑ったのね」
「うん。君は人の心を持っているんだ。だから、自分は人じゃないとか、そういうことは気にしなくても良いと思う。君のことを知っているネルフの人はもちろん、クラスメイトなんかも君を受け入れてくれるはずだよ。だから、もっと他の人との絆を創って友達をつくってみるといいんじゃない?」
レイはこの言葉に驚いた。自分には今まで、ゲンドウとの絆しか無かった。絆というものはそんなに簡単に作れるものなのだろうか?もしそうだとすればその方法を聞き出したいと思った。それと同時に、シンゴと話すことによって自分の中に心地よい不思議な暖かさが生まれたことを思い出し、シンゴにたずねた。
「…絆はどうすれば創れるの?」
「そうだねぇ…じゃあ、学校で君に話しかけてきた子は居なかったかい?」
「…居たわ」
「その人達は、君に絆を求めて話しかけてきたんだよ。だから、今度は君から話しかけてみるといいよ。最初は、そうだなぁ…挨拶なんかから始めてみればいいと思うよ。“おはよう”とか“こんにちは”とかね。あと、僕は今君と話しているよね。僕と君の間にも絆ができていると思うんだけど、君もそう思わない?」
レイは気付いた。シンゴと話したときに感じる不思議な暖かさの正体が彼との絆だったということに。それは今まで自分が持っていた絆よりも遥かに暖かかった。彼女は自分の感じたことを素直に口にした。
「ええ、なんだか暖かい感じがする…」
「うん、絆を感じてもらえて良かった。何か困ったこととか分からないことがあったら僕を頼ってくれてかまわない、いつでも相談に乗るよ。じゃあ、用事があるからそろそろ行くね」
「ええ……ありがとう…」
「どういたしまして。また近いうちに顔出すよ」
シンゴはそう言ってレイの病室を後にした。
-総司令執務室-
シンゴはゲンドウに呼ばれていたため、レイの病室からここに来ていた。
「すまない、待たせたな」
ゲンドウがそう言って入ってきた。
「いえ。それで、ご用件は?」
「…君に頼みがある。明日午前11時に駅までシンジを迎えに行って欲しい」
「!? …構いませんが…いいんですか? ご自分で行かれなくても」
「…ああ。ここに手紙を出したのはいいんだが、まだどう接すれば良いか分かりかねてな…」
「そうですか、まあ、じっくり考えて決めてください」
「ああ。では頼んだぞ」
「分かりました。失礼します」
-第三新東京市郊外 シンゴの自宅-
シンゴは久しぶりに自宅に帰っていた。今はガレージで作業中である。
(そういえば、2週間近く乗ってなかったな…)
ガラガラガラッ…バタン
シャッターを開けて車に乗り込む。
(明日使うし、慣らしがてらドライブでもしようかな)
キュルルッ ドルルゥンン
キーをひねると、低いエンジン音がガレージに響く。
(さて、行きますか)
ブロロロ…
シンゴはアクセルを踏み込み、夜のドライブを楽しむべく、峠へと繰り出して行った。
To be continued...
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