-赤城リツコの研究室-  

 リツコ、ミサト、シンゴの三人は、話をするためにこの部屋に来ていた。

 「で、監視や盗聴の危険が無い部屋がここですか…」
 「そうよ。なにか文句あるかしら?」
 「いえ、ただ、インテリアが猫だらけだなぁと思って。猫、お好きなんですか?」
 「ええ、家で3匹飼っているわ」
 「そうですか…。では本題に移ります。まず、葛城一尉。あなたは復讐する相手を間違えています」
 「なんですって!?」            


助っ人 
第3話 「第2の布石」


 セカンドインパクトから今まで、使徒を倒して父親の仇をとるために生きてきたようなものであるミサトにとって、その一言はショックだった。

 「じゃあ…じゃあ私は誰に復讐すればいいのよ!教えなさいよ!」

 ミサトは、半泣きになりながらシンゴに叫んだ。

 「葛城一尉、落ち着いてくだ「落ち着けるわけ無いでしょ!」
 「ミサト!彼に当たってもどうにもならないわよ!」
 「……」
 「葛城一尉、あなたが復讐するなら相手は、”ゼーレ”という組織です」
 「…ゼーレ…?」
 「そうです。ここ、ネルフの上位組織です。ゼーレの目的は人類補完計画…一人では生きて行けない人間の魂をまとめて使徒のような単体生物に人工進化させることです」
 「そんな…人間って支えあって生きていくものでしょ! そんなのおかしいわよ! 狂ってるわ!」
 「僕もそう思います。ただ、多くの人の意見を無視しているとはいえ、いずれ訪れるであろう人類の滅亡を阻止できるのは事実ですから、僕はこれだけでは良い事か悪い事かは判断しかねます」
 「これだけ…ってことは…」
 「ええ、彼らにはもう一つの企みがあります。というより、こちらが本当の目的です。彼らは補完された人類から抜け出して神のような存在になろうとしています」
 「許せないわね…でも、そんなことができるの?」
 「できません。彼らが“自分たちは特別な存在だからできる”と思い込んでいるだけです。しかし、彼らは強引に行おうとするでしょう。そうなれば、人類補完計画も不完全に行われ、人類滅亡…という事になってしまいます」
 「…ひどい話ね…でも、それと私の復讐とどんな関係があるの?」
 「あなたのお父さん、葛城ヒデアキ教授はゼーレの裏の計画の一部を知っていたんです。ゼーレは彼が計画の邪魔になると思い、消したんです。彼が南極で行っていた第一使徒アダムをコントロールする実験が失敗して、セカンドインパクトが起こることを知りながら、それを推して」
 「私の父は裏の計画を潰すために実験をしていたの?」
 「それは分かりかねます。ただ、セカンドインパクトでアダムの覚醒が遅れたんです。そして、旧東京に現れN2爆雷で弱らせられた第二使徒リリスが回復し、アダムに似た波動で使徒を引き寄せるようになるのが15年後、丁度今年だと予測されました。その15年間でジオフロントにリリスを置いて要塞都市を構築し、使徒を迎撃する計画ができました。そのことから、アダムをコントロールして覚醒を阻止しようとしたんじゃないかと思います」
 「そう…結局、セカンドインパクトは私の父の手で起こされたのね…」
 「…そうなりますね」
 「なんだか、誰に復讐したらいいのか分からなくなってきたわ」

 そう言ってミサトはため息をついた。

 「だったら、復讐なんてやめましょう。ほら、よく言うじゃないですか。“復讐からは何も生まれない”って」
 「そうね、それがいいのかもしれないわ」
 「最後に決めるのは、葛城一尉、あなた自身です。じっくり考えて答えを出して下さい」

 ミサトは深く頷くと、部屋を出て行った。

 「お待たせしました、赤城博士。何を聞かれるかお分かりですか?」
 「司令とのことかしら?」
 「正解です。で、どうするおつもりですか?」

 突然、リツコはポケットに入っていた銃を抜きシンゴの眉間に突きつけた。だが、引き金を引こうとした時には銃は木端微塵に砕け散っていた。

 「…憎い、憎いわ。あなたも、碇司令も…」

 リツコは泣き崩れた。

 「あの人は私を利用する事しかしなかった。私は本当に愛していたのに…」
 「嘘ですね」
 「え?」
 「さっき自分で言ったじゃないですか。“憎い”って。愛と憎しみって本当に紙一重なんですね…」
 「!!…そう、私はあの人のことを憎んでいたのね…」
 「それに、母親を超えるために利用していたんじゃないですか? 女としての赤城ナオコ博士を超えるために」
 「…本当、ひどい女ね、私って」

 リツコは机の上の睡眠薬の蓋を開けて、すべて飲み干そうとビンに口をつけた。

 「死ぬ気ですか?」
 「ええ、もう私に価値なんてないわ」
 「いい加減にしろ!! そんな事、赤城ナオコを越えなければ価値がないなんて事、誰が決めたんだよ!! あんたを必要としている人はたくさんいるんだ、オペレーターや技術部員はあんたを信頼して今までついてきたんじゃないのか! 勝手に死ぬなんて言うな!」

 リツコは初めて感情的になったシンゴに対する驚きと、彼から発せられるプレッシャーでその場に崩れ落ちた。

 「すみません、取り乱しました。赤城博士、まだ遅くないです、やり直すチャンスはあると思いますよ」
 「…そうかしら…そうかもしれないわね」
 「ええ。あなたの場合は葛城一尉のように自分で答えを出されては困ります。生きてください、そしてあなたの命はあなただけのものじゃないという事を忘れないで下さい」
 「分かったわ。フフッ、まさかこんな事で18歳の子に説教されるとは思わなかったわ」
 「良かったです。生きる希望を見つけてもらえて。あなたの笑顔、初めてみましたよ。やっぱりまだ、遅くないです」
 「へ?」

 リツコは一瞬きょとんとしたが、意味が分かると顔を赤らめてうつむいた。

 「あなたにお似合いの人、探しておきますよ」

 そう言ってシンゴは、にやけ顔のまま扉の向こうに消えた。

 「お願いするわ」

 リツコは彼が出て行った扉に向かって呟いた。彼女の顔はこれまでになく晴々としていた。



 -ネルフ付属病院前-

 「二つ目の布石も敷いた。後は、綾波か…」

 シンゴはそう呟くと、病院へと入っていった。

 To be continued...

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