【押井守:ロボットに対する演出、その要諦】
1.ロボットなるものは、あくまで「システム」として描かれなければならない
2.とりわけ、軍事警察任務等の特殊用途の用いられるロボットは、その設計思想を明確に設定し、開発、試作、量産、運用、保守、改良もすべての段階に渡る技術的問題を考慮しつつ、その集約的表現として描かれる必要がある
3.したがって、量産効果や保守、整備等に関わる運用思想等を無視するが如きロボットアニメ的個艦優位主義は、断固排除されなければならない
4.具体的には、製造者であるメーカーと運用者である現地部隊との軋轢、操縦者と整備部隊の心理的葛藤、ハードウェアとしてのロボットとそれを制御するソフトウェア等、システムのあらゆる局面に渡り、技術的問題を主軸としてドラマを用意する
5.現に慎むべきは、天才科学者によって開発された機体を操る思考停止的操縦者の活躍を英雄的に描くが如き、没技術論的演出であり、その具体的指針として整備部隊の主体性を尊重し、これをフレームアップする
6.さらに、ロボットを実現可能とする近未来の技術予測に一定のハンディを認めつつも、これを日本的現実及び警察組織の前近代的体質を対置させ、設定のリアリティを確保する
7.以上の要素に抵触しない限りにおいてはロボットそれ自体のデザインは可能な限りカッコいいものとする
8.警察任務-警備活動に使用される状況を想定すると、むやみに巨大な機体はその運用思想に反するので、最大高8メートル程度を目安とする
9.機動は二本足歩行を原則とするが、舗装道路上での使用と緊急時の加速を考慮して装輪走行も可能な所謂クリスティ方式とする。また警備現場への移動時には、その移動速度と自走による消耗を考慮して専用のキャリアに搭載する
10.出力機関としては、制御の容易な電動機を機体内に複数搭載し、コンピューターを介して制御する。電源は基本的に随伴する電源車からこれを供給するが、緊急時に備えて一定容量のバッテリーパックを内蔵する。なお、市街地での機動を基本とするので、原子力機関使用等の想定はこれを絶対に避ける
11.装甲に関しては、その運用が戦場での対銃砲を想定していないこと、及びその出力限界から対弾性を考慮した重装甲は必要としないが、拳銃弾や爆発物による破片や、レイバーとの格闘時における破損等から期待を保護するため、一部装甲車両に使用実績のある軽量なアルミ装甲を採用する
12.同様の視点から、その武装は最大20ミリ程度の口径を有する半自動銃を、射界の比較的広い上腕部にオプションで装備する。一部のアニメ作品によって常用されている、複雑な機構を有し、従って脆弱なマニピュレーターで直接銃器を操作するが如き無意味かつ無謀な設定は断固として排除する。ミサイル、メーザー兵器等の装備は、明らかに過剰装備であり、これを想定しない
13.固定翼や、回転翼は勿論のこと、パワーブースター使用による跳躍やホバー機動など、あらゆる空中機動は、市街地における警備活動の範疇を大きく逸脱するのみならず、周辺地区への被害を考慮して、これを厳禁する
14.雨天や河川等浅水面での使用を想定し、その耐水性は考慮されねばならない。但し、水中機動は一部の土木用レイバーに限定する
15.視界の悪い(であろう)ロボットの特性を考慮し、寮機と共に行動して互いの死角をカバーするため、最低二機で行動し、単機ごとに指揮車wp随伴させる。予備機体を含めて三機、これに二両の指揮車、及び機体輸送車、隊長車で1小隊とする
16.三百六十五日二十四時間待機のコンビニ状態は隊員の疲労、及び機体の整備保守の視点からも運用に支障をきたすので、二個小隊で一個中隊とし、これに膨大なマンアワーを要するであろう整備保守のために整備中隊を合わせて一個運用単位とする
17.現実的には一個中隊、最大六機程度の戦力で都内全域を活動範囲とするには足りず、本格的運用には大隊規模が必要とされるが、予算処置の限界、装甲車両の装備に伴う自衛隊との戦力バランス等の政治的問題も予想されるので、同中隊を暫定的にレイバー運用に関する試行のための実験部隊と想定し、その所轄を警備部内に現実に存在する特殊車輌課-輸送車や放水車を扱う-に隣接する特殊車輌二課、通称特車二課に置く
18.中隊の駐屯地は、湾岸高速道路によって都内各所へ迅速なアクセスが可能であり、そしてレイバー機動訓練のための広大な敷地を比較的容易に確保しうる湾岸埋立地に置く
19.予想される住居環境の劣悪さ-食料の調達や通勤事情等-は隊員たちの個人的、組織的努力によって補完する。またそれに伴う様々な軋轢や破綻を物語の劇的要素として扱う
20.かくの如く、膨大な経費を伴う部隊であるにも拘わらず、その作業環境は苛酷を極める一方、多くを期待されず、どちらかと言えば新たな技術体系に唾を付けておこうという警察官僚特有の過剰な縄張り意識と妥協の産物であるから、その隊員はもちろん、指揮者たちも変人、訳あり、落ちこぼれ、性格破綻者ばかりである