Updated: Tokyo  2012/11/14 02:46  |  New York  2012/11/13 12:46  |  London  2012/11/13 17:46
 

【コラム】「強い日本」の主張復活、右傾化を象徴-ペセック

Share Google チェック

  11月13日(ブルームバーグ):日本 のリーダーは、どうしても19世紀の明治維新の頃を忘れることができないようだ。

今は2012年で人口が約1億2600万人のこの島国を取り囲む世界の情勢は猛烈な勢いで変化している。明治維新は「富国強兵」というスローガンを掲げた。この過激なナショナリズムはその後、第2次世界大戦と手痛い敗戦へとつながる。

現在有力な次期首相候補である自由民主党の安倍晋三総裁の「強い日本、豊かな日本をつくっていく」という言葉は富国強兵とそっくりだ。私は安倍氏や自民党の真意を分かっているとは言わないが、このような見解は日本の政治の右傾化の象徴だとみている。アジアや2期目を迎えるオバマ米政権に対する意味合いは極めて大きい。

安倍氏は日本で最も重要な3人の政治家の1人。野田佳彦首相は3人に入らず、残る2人は石原慎太郎前東京都知事(80)と日本維新の会代表の橋下徹大阪市長(43)だ。石原、橋下両氏は世代の隔たりが大きいにもかかわらず、国の重要政策でほぼ一致している。ただ、安倍氏と同様、この二人もダイナミックでチャンスに満ち満ちている世界情勢の下で日本を外ではなく内に向かせようとしているという点で誤っている。

安倍氏(58)は石原氏と橋下氏のちょうど中間の世代に当たる。3人とも、ナショナリズムという観点から日本と他のアジア諸国との間に譲れない一線を示そうと躍起になっている。日本が直面する全ての問題で一致しているわけではなく、共通するのは中国が日本の影を薄くしつつある中で日本は対決姿勢を強める必要があるという立場だ。

太平洋の世紀

こうした右傾化を支持する日本人は多い。中国は「太平洋の世紀」とも言われる今世紀に、主役としての地位をまだ確立していない。領海問題ではフィリピンや韓国、ベトナムと対立している。

日本は20年余り続く景気停滞で失った影響力を取り戻そうと必死だ。オバマ大統領やキャメロン英首相、ブラジルのルセフ大統領がアジア訪問の際、東京に立ち寄らないことで日本はいら立つ。さらに、「ジャパニゼーション(日本化現象)」という言葉が、物価下落や政治的手詰まり状態の悪弊を説くエコノミストのキャッチフレーズとなった。

日本がやるべきことを正しく行っているのがあまり注目されないのも事実だ。識字率は極めて高く、世界有数の長寿国だ。さらに途上国を十分に支援し、世界平和を誓っている。

安倍氏と構造改革

日本がやるべきことは、世界平和への誓いの放棄ではない。また軍事力増強でも、一段と強硬で一方的な外交政策でもない。そして安倍氏の首相返り咲きでもない。2001-06年に首相を務めた小泉純一郎氏が推し進めた構造改革がなぜ頓挫したかご存知だろうか。小泉氏は日本の経済と政治の活性化を図る構造改革の具体案を策定したが、06年9月に次の首相の安倍氏に託した後、挫折した。

安倍氏は構造改革案をお蔵入りさせ、「美しい国、日本」をつくる路線を選んだ。そして行われたのが、愛国心を育む教育制度改革や防衛庁から防衛省への昇格だった。さらに安倍氏の多くの発言や行動が、日本に侵攻された過去を持つ中国や韓国をいら立たせた。安倍氏は結局、その仕事をこなす器でないことが分かった。潰瘍性大腸炎などもあり、安倍氏は在職期間約1年で辞任した。安倍氏の総裁は本当に自民党にとって最善の選択だろうか。

石原氏が首相候補として支持されているのも同様の理由による。尖閣諸島の買い取りを主張し、アジア諸国の怒りを買った同氏はその後、東京都知事を辞任。同氏の決断により、クリントン国務長官やパネッタ国防長官らオバマ政権の閣僚も軍事的な対立を懸念することとなった。

石原氏は安倍氏よりも無分別かもしれない。失言が多い石原氏は、橋下氏と連携する可能性がある。橋下氏は教職員の国歌斉唱時の起立義務化などを唱える。

日本は長期の景気停滞やデフレ、東日本大震災からの復興など多くの難題に直面している。

次期首相が誰になろうが、これらの課題に緊急に取り組む必要がある。残念ながら、有力な政治家3人はいずれも筋肉をつけるよりも動かす方に興味があるようだ。19世紀の観念の復活では、日本を今世紀中に繁栄に向かわせることはできないことを理解すべきだ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック 氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Right Wing Rising in a Replay of the 19th Century: WilliamPesek(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:東証 Willie Pesek wpesek@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Greiff jgreiff@bloomberg.net

更新日時: 2012/11/13 15:04 JST
Share Google チェック

 
 
 
最新のマーケット情報を携帯でご覧いただけます。ぜひご利用ください。