• The Wall Street Journal

電撃退社したマイクロソフト「ウィンドウズ」責任者、幹部・取引先とのあつれきが原因か

  • 印刷
  • 文字サイズ

 米ソフトウエア大手マイクロソフトのウィンドウズ部門責任者、スティーブン・シノフスキー氏(47)が退職する。パソコン向け基本ソフト(OS)の最新版「ウィンドウズ8」の発売からわずか数週間後の出来事だ。

 シノフスキー氏は、マイクロソフトの主力製品2バージョン、「ウィンドウズ7」と先月発売された「ウィンドウズ8」の開発の陣頭指揮を執った。ウィンドウズ8は、従来のキーボードとマウスに加え、指でのタッチ操作にも対応した同社初のOS。

 同氏の突然の退社によって、ウィンドウズ8の成功やスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)との協力関係に疑問符が付きそうだ。シノフスキー氏はバルマー氏の後継者の最有力候補と一部でみられていたが、マイクロソフトに近い筋によると、シノフスキー氏は他の上級幹部とうまく連携が取れておらず、そのことが原因でCEO候補から外れることになったという。

 バルマー氏は文書で「スティーブンの会社への長年の貢献に感謝する」と述べるとともに、「マイクロソフト全社で組織の見直しをする」必要があるとした。

 シノフスキー氏は、業務用ソフト「オフィス」やウィンドウズ部門で複雑なソフトウエア開発プロジェクトを指揮し、スケジュール通りに発売にこぎ着けるその手腕が社内で高い評価を受けていた。だが、一部従業員や幹部に対する傍若無人な態度や取り巻きのごく一部の幹部とだけ親しくしていたこと、パソコンメーカーなどマイクロソフトにとって重要なパートナーとの関係構築に無関心だったことなどを批判する向きもある。

 市場調査会社IDCのアナリスト、アル・ヒルワ氏は「シノフスキー氏は社内で物議を醸す決断をすることで知られていた」とし、「中には必要な決断もあっただろうが、恐らくそうでないものもあった」と話す。

 マイクロソフトの広報担当者は、発表された内容以上のコメントは差し控えるとし、バルマー氏がインタビューに応じることもできないとした。シノフスキー氏はあらじめ用意された文書で、「マイクロソフトで過ごした年月において受けた恩恵は数え切れない」と述べた。それ以上については、シノフスキー氏からすぐにコメントを得ることはできなかった。

 シノフスキー氏の役割は、同氏の2人の部下が分担して引き継ぐ。1人は、シノフスキー氏と2部門で働いた経験のあるエンジニアリング部門幹部のジュリー・ラーソン=グリーン氏で、もう1人はウィンドウズ部門のマーケティング・財務最高責任者、タミ・レラー氏。

 マイクロソフトによると、グリーン氏はウィンドウズのソフトウエアとハードウエア両製品のエンジニアリング部門を統括する。一方、レラー氏はウィンドウズ部門のビジネス面を担当し、ウィンドウズOSのほか、タブレット端末「サーフェス」やウェブ閲覧ソフト「インターネットエクスプローラー」、総合ポータルサイト「MSN.com」をはじめとするオンラインサービスのビジネス面を統括する。

 大手テクノロジー企業の幹部が会社を去るのはここ数週間で2人目。先月は、アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「アイフォーン」担当責任者を務めていたスコット・フォーストール氏が経営人事の刷新で退職に追い込まれている。

 シノフスキー氏がウィンドウズ部門担当時、エンジニアの自由を奪ったと不満を漏らす従業員もいる。シノフスキー氏はブログで、ウィンドウズ部門に移った当初、平均で従業員1人とシノフスキー氏の間に7人もの中間管理職がいたと語っている。その1年後、シノフスキー氏はそれを3、4人にまで削ったと話していた。

 また、パソコンやチップメーカーもシノフスキー氏率いるウィンドウズチームの下でいら立ちを募らせていた上、6月にマイクロソフトが自社開発のタブレット端末「サーフェス」を発売することを、公式発表のわずか数日前に知らされ、不満を持っていた。またインテルも、ライバル会社のチップに対応したウィンドウズ8のバージョンの開発に踏み切ったことに腹を立てていた。

 シノフスキー氏はそれらハードウエアメーカー役員からの不満に耳を傾けようとしなかったため、バルマー氏が彼らをなだめることになった、とその話し合いに詳しい筋が明かした。

 シノフスキー氏は米マサチューセッツ大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得し、1989年にソフトウエアエンジニアとしてマイクロソフトに入社する。マイクロソフトの共同創設者で当時CEOを務めていたビル・ゲイツ氏の目にとまり、有望技術調査のための「テクニカルアシスタント」に任命される。もう1つの母校、コーネル大在籍時に当時登場したばかりのウェブが校内で普及していくのを目の当たりにしていたことから、社内でウェブに関する議論をけん引し、マイクロソフトがいち早くウェブ技術を採用するようゲイツ氏が推進していくきっかけを作った。

 シノフスキー氏は製品開発部門で出世を果たした後、オフィス・スイートの4バージョンの発売に関わった。「ウィンドウズ・ビスタ」の不振でマイクロソフトが揺らいでいた06年、ウィンドウズのエンジニアリング部門責任者に任命され、その後、ウィンドウズ7の発売を指揮。ウィンドウズ7は成功を収め、それによりマイクロソフトは顧客からの信頼回復を果たした。

Copyright @ 2009 Wall Street Journal Japan KK. All Rights Reserved

本サービスが提供する記事及びその他保護可能な知的財産(以下、「本コンテンツ」とする)は、弊社もしくはニュース提供会社の財産であり、著作権及びその他の知的財産法で保護されています。 個人利用の目的で、本サービスから入手した記事、もしくは記事の一部を電子媒体以外方法でコピーして数名に無料で配布することは構いませんが、本サービスと同じ形式で著作権及びその他の知的財産権に関する表示を記載すること、出典・典拠及び「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が使用することを許諾します」もしくは「バロンズ・オンラインが使用することを許諾します」という表現を適宜含めなければなりません。

 

  • 印刷
  • 原文(英語)
  •  
  •  

類似記事(自動抽出)

こんな記事もおすすめです

日経平均 8,661.05 -15.39 -0.18
ダウ工業株30種平均 12,815.08 -0.31 -0.00
TOPIX 722.56 -0.02 -0.00
為替:ドル―円 79.45 79.45
原油 84.94 -0.63 0.00
*終値