退職時は気をつけておきたい傷病手当金(特に精神疾患)

傷病手当金とは

 傷病手当金は、仕事以外の時間にケガをしたり、病気になったりしたこと(私傷病)で、業務に就くことが出来ず(欠勤)、賃金が支給されない場合、休業中の生活保障として賃金(※標準報酬日額)の3分の2が支給される制度です。もちろん、申請しなければ受給することはできません。また、同一の傷病事由についての支給期間は最長1年半です。退職により被保険者の資格を喪失した場合でも、その前日(退職の当日)まで1年以上継続して被保険者の資格を有し、傷病手当金の給付要件を満たしていれば、引き続き傷病手当金の給付を受けることは可能です(資格喪失後の継続給付)。 ただし、退職日当日に出勤の事実がある場合は、退職後の傷病手当金給付は受けられません。

※標準報酬日額・・・標準報酬日額は標準報酬月額÷30日です。標準報酬月額は、賃金を元に決められた健康保険・厚生年金保険に使用する標準報酬等級に対応したものなので、必ずしも「賃金=標準報酬月額」とはならないので注意が必要です。
たとえば、賃金が25万以上27万未満の方は、全員、標準報酬月額は26万です。
したがって、賃金26万円の人の標準報酬日額は、賃金26万÷30日≒8,666.66円 →8,670円となります。傷病手当金の額はその3分の2ですから、8,670円×2/3=5,780円となります。

 

傷病手当金の4つの受給要件

@療養のため、労務に服することができないこと

※療養のためとは・・・保険給付として受ける療養の給付(通院・入院)に限らず、自宅療養の場合も該当。

労務に服することができないとは・・・たとえば、足を骨折して、一応の治療が完了し、ギプスで固定した状態の場合に、一般的な考え方の場合、事務職の方なら労務可能と判断されるますが、配送業務に従事する方は本来の業務に従事することは困難と考えられますので労務不能であると判断されることになります。
また、うつ病などの精神性疾患も対象となります。

入院が条件になっていると思われている方も多いと思われますが、入院してなくても大丈夫です。

しかし、あくまで医師が労務不能であると認めないことには傷病手当金の支給は得られないということになります。傷病手当金支給申請書の裏面に医師の証明が必要になります。

A労務不能の日が継続して3日間あること(いわゆる待期期間)

ケース@ 例えば一週間のうち、火曜日、水曜日、木曜日を継続(連続)して病気や怪我で休んだケース

この場合は3日間連続して労務不能が続いているので、待期期間が成立しています。

ケースA待期期間に有休を使うケース

有給休暇で3日間取ったとしても待期が成立します。

ケースB連続しないため待期期間が完成しないケース

欠勤が3日連続してから、傷病手当金の支給申請対象となります。

ケースC待期期間に公休日を含めるケース

傷病手当金の待期期間には土日祝を含みますので、出来るだけこういった休みを利用して待期期間を完成させることで有給休暇を使用せずに待期期間を作ることが出来ます。

 一般的に、急性の病気を就業中に発症してしまい、そのまま入院が必要などの場合、多くはその日から待期期間がスタートしたと考えてよいでしょう。 

ただ、自宅に帰ってから発症して病院に行くとなると、就業時間外になるので、待期期間の開始は翌日からとなります。

B連続する労務不能の3日間の後、同一の傷病による労務不能により報酬の支払がない日があること
 しかし、報酬が支払われた場合で、支払われた報酬の1日当たりの額が傷病手当金の1日当たりの支給額より少なければ、その差額が支給されます。

C健康保険(協会けんぽ又は健康保険組合)の被保険者であること

傷病手当金を受給できない人

1.健康保険の被扶養者

2.国民健康保険の被保険者、任意継続被保険者(資格喪失後の継続給付受給中の方は除く)

 

傷病手当金の受給期間

 傷病手当金を受給できる期間には限度があります。
傷病手当金の支給は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関して、支給を始めた日から起算して1年6ヶ月が限度です。なお、労務不能となった最初の3日間は支給されません。
 ただし、ここでいう1年6ヶ月とは傷病手当金支給の実日数ということではなく、暦の上での1年6ヶ月ということですから支給開始日より1年6ヶ月を過ぎれば、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病では傷病手当金は支給されません。同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病が悪化して再び仕事ができなくなったときは、1年6ヶ月までの間なら何度でも傷病手当金を受給出来ます。待期期間(労務不能の日が継続して3日間あること)は不要です。

 

【訳アリ退職者には最大限の注意が必要

 ○勤怠状況が悪く、その原因が、病気だったとしたら? それも治っていないとしたら?・・・

 ○待期期間が完成していたら?・・・

 ○会社と揉めて揉めてやっと辞めた社員だったとしたら?・・・ 

 ○退職届ももらわず、合意退職ではなく、退職勧奨だったとしたら?・・・

 ○他に転職が難しい状況だったとしたら?・・・

 退職するとき、社員がこの「傷病手当金」制度に気づいていなかった場合、そして、退職が限りなく会社からの一方的解約であった場合、社員はどんなアクションを起こすでしょうか?

 

 仮に、その社員が、会社から賃金として、毎月30万円を貰っていたとします。
すると傷病手当金はその30万円の3分の2の計算になるので、毎月20万円になります。

 最長で1年と6カ月(18ヶ月)の支給になるので最大受給額は・・・ 

   20万×18ヶ月=3,600,000円という計算になります。

 これだけの大きい金額を前にして、退職理由に納得がいかない!、本来もらえるはずの傷病手当金がもらえない!と怒り心頭になってしまうかもしれません。

 納得がいかず、アクションを起こしてくる場合の請求理由はおそらく、

@「雇用契約上の権利を有する地位の確認請求」

A「傷病手当金の請求」

  この2つです。しかし、@は、限りなく、ダミーに近いものと思われ、本命はAかもしれません。

 請求期間が在職中のものであれば、手続きが退職後であっても請求できます。ただ、退職日までの事業主の証明が必要です。

傷病手当金を受給したいがために、退職問題まで絡めて労務トラブルが起きないとは言えません。

 したがって、待期期間完成後、退職する場合は注意が必要です。社会保険の被保険者資格が1年以上ある場合は、他の要件を満たす限り、資格喪失後の継続給付が可能なため、無用なトラブルを起こさないためにも、退職時には、この制度を説明し、然るべく手続をとっておく必要があります。

 また、傷病手当金の待期期間・・・その3日間をクリアしても、傷病手当金を受給できる権利を有するためには最低でも欠勤は待期期間を含めて4日間は必要になりますので注意が必要です。

 

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