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殴打、手錠、タバコの火、丸坊主…止まらぬ夫のDV それでも「別れたくない」 

産経新聞 11月10日(土)14時0分配信

殴打、手錠、タバコの火、丸坊主…止まらぬ夫のDV それでも「別れたくない」 
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激しいDV被害を受けた女性が相談に訪れた大阪府警西成署=大阪市西成区(写真:産経新聞)

 相談に訪れた女性を見た捜査員は、ハッと息をのんだ。一目で執拗(しつよう)に殴られたとわかる腫(は)れあがった顔、欠けた前歯。さらに、女性は胸までの長い髪を引っ張ってみせた…丸坊主だった。夫から暴力を振るわれた上、“女の命”ともいわれる髪を切り落とされ、カツラをかぶっていたのだ。家庭内の暴力「DV(ドメスティック・バイオレンス)」は、昨年の認知件数が史上最多の約3万4千件を記録するなど増加の一途をたどる。事件を担当する捜査員や悩みを受け付ける相談員は「暴力という『ゆがんだ愛』は愛ではない。命にかかわる被害はすぐに相談を」と呼びかける。

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 ■これほどひどいDVは…

 「職場の男と交際して金を使い込んでいるだろう」

 10月2日午後11時ごろ、奈良県御所市の自宅で、妻(23)は夫からこんな言いがかりをつけられた。そして、殴られ続けた。夫は妻が何を言っても聞く耳を持たず、手錠で両手の自由を奪い、たばこの火を背中や足に押しつけた。

 さらに、ぐったりとした妻の首にベルトを巻き付けて絞めあげ、ハサミを持ち出して腕などを切りつけたほか、髪にもハサミを入れ根元からばっさりと切り落とした。

 夫の暴力は翌日午前4時半ごろまで続いたが、妻は命からがら自宅を飛び出し、大阪市西成区の実家に逃げ込んだ。そして、同月4日、父親に連れられ大阪府警西成署に相談に訪れた。ベテラン捜査員は「長い経験の中でも、これほどひどいDV被害を受けたケースはあまり記憶がない」と驚いた。

 相談の翌日、捜査員が御所市の自宅に急行した。夫は不在だったため指名手配し、関係先をしらみつぶしにあたった。捜査の手が自分に伸びていることを知り観念したのか、9日に出頭してきた夫の露天商、山上隼樹(はやき)被告(28)=同罪で起訴=が傷害容疑で逮捕された。

 ■暴行のための因縁?

 容疑を認めた山上被告は「妻が男と遊びに行っていると思って我慢ができず、痛めつけてやろうと思った」と供述したという。

 また、逮捕後の調べで、事件前日にも「職場の同僚に異性を紹介しただろう」と一方的に逆上し、背中や腰を何度も蹴るなどしてあばら骨を骨折させていたことが判明。今月2日、傷害容疑で大阪地検に追送検された。

 同署によると、山上被告と妻は平成22年9月に出会った。ともに露天商をしていたこともあり、意気投合し8カ月後の23年5月に結婚。結婚当初から妻は妊娠していたが、結婚後わずか1カ月ほどで夫はささいなことで身重の妻を殴り、執拗に暴行を加えるようになった。

 24年2月に長男が誕生した。子供が生まれ、山上被告も落ち着いたようにみえたが、すぐまた暴力を振るう日々が始まったという。

 捜査関係者によると、「暴力を振るってもいい理由なんてないが、山上被告が暴行する理由は整合性がない因縁のようなもの。暴行したいがために無理矢理に言いがかりをつけているとしか思えない」という。

 ■8年連続で最多更新

 こうしたDVは年々増え続けている。警察庁の統計によると、平成23年の認知件数は約3万4千件と8年連続で史上最多件数を更新し、DV防止法が施行された翌年の14年(約1万4千件)から9年間で約2・4倍となっている。

 今年10月には、青森市内のアパートで、犬用の首輪で拘束された女性(31)が全裸遺体で発見された。女性は首輪とワイヤで台所の金具部分につながれ、半径2メートルほどしか動けない状態だったという。

 青森県警は、約1年前から女性と同居し「内縁関係にあった」というトラック運転手の男(38)ら男女4人を傷害致死容疑などで逮捕。これまでの調べで、女性は少なくとも9月中旬ごろから発見されるまでの半月間、4人から棒のようなもので全身を殴打されるなどの暴行を受け、多臓器不全で死亡したとされている。

 命にかかわるDV被害は枚挙にいとまがない。

 同居する女子大生に暴行を加え、殺害しようとしたとして、大阪府警茨木署が8月、茨木市五日市の飲食店アルバイトの男を逮捕したケースでは、男は半日に及ぶ約12時間も女子大生に暴行を加え続けた。自分はトイレや食事の“休憩タイム”をとり、数十回も殴りつけ、蹴り続けたという。

 女性は全身アザだらけで、あばら骨を折るなどの重傷。さらに暴行直後に男に連れ出され、買い物先の店内で外傷性のショックから気を失うなど危険な状態だった。男は「女性の交友関係に不満がある」などと激高し、日常的に暴力を振るっていたという。

 ■歪んだ愛でも「別れたくない」

 「『自分さえ耐えれば、きっとこの人は分かってくれる。暴行は愛情表現で、このくらい痛くない』と我慢してしまうんです」

 全国47都道府県に約220カ所の事務所を置く「配偶者暴力相談支援センター」の担当者は、DVを受ける女性の心理をこう分析する。

 DV被害の発覚は、体や心に消えることのない傷がついたり、最悪のケースでは命を落としたりと、取り返しのつかない事態に陥ってからが多い。裏を返せば、そうなるまで女性が我慢してしまうのだという。

 同センターが今年実施した調査によると、配偶者からDV被害を受けた女性のうち、20人に1人が命の危険を感じるほどの暴行を受けたという。にも関わらず、被害女性全体の4割がどこにも相談に行かず、8割以上が配偶者と「別れたいと思ったが別れなかった」、もしくは「別れたいと思わなかった」と回答しているのだ。

 一方で、事件を担当する捜査員らは、男性が女性に暴行を加える理由を「『自分がこんなに愛しているのに、なぜ理解してくれないんだ』という異常な束縛心やゆがんだ愛情の裏返しだったりする」と指摘するが、本音では「とても理解できない」と口をそろえ、こう続ける。

 「本来、恋人や配偶者というのは、愛し、慈しむもの。身勝手な理由で暴力を振るうのは言語道断だ。女性も暴力を振るわれたら、ただ我慢するのではなく、すぐに相談してほしい」

最終更新:11月11日(日)9時13分

産経新聞

 

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