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「とうふ」再起の幟旗

2012年11月13日

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店の前に幟旗が立った。木綿豆腐、厚揚げ、豆乳などがそろう=喜多方市高郷町大田賀

 ●喜多方の小原さん営業再開

 喜多方市高郷町の山里で、1軒の豆腐屋が営業を再開した。食の安全を掲げ、「日本一おいしい豆腐」をめざして10年。原発事故の影響でいったんは廃業しながらも、「ふるさと」会津で、再起を図る。

 「豆腐屋おはら」。原発事故から1年8カ月、店の前に10日、「とうふ」の幟旗(のぼりばた)がはためいた。開店前から並んだ会津若松市の平野純子さん(40)は「素朴な甘みが魅力。何もつけずに食べるのがおいしい」。

 店主の小原直樹さん(53)は1999年に東京の広告会社を退職。各地を歩いてまわり、喜多方市の慶徳峠から見た風景に一目ぼれ。旧高郷村の集落の一角に小さな豆腐屋を開いた。

 大豆を生搾りし、天然にがりを使った豆腐は評判を呼び、配達先は100軒を超えた。地元の有機農家の協力で、長年の夢だった「福島県産大豆100%」の豆腐作りを実現する矢先の原発事故だった。

 豆腐と原発。食の安全とは対極にある放射能汚染に直面した。当時は検査態勢も不十分で、豆腐の安全性に確信が持てなかった。事故から3カ月、小原さんは店を閉じた。同市は原発から遠く、浜通りなどから避難してきた人もいる。しかし、「会津は大丈夫。風評被害だ」と、食の安全の問題を簡単に片付けてしまうことに反発もあった。

 何より、自分が毎日作った豆腐を食べ、育ってきた子どもたちがいた。小原さんの豆腐は子を持つ親の「安全の指標」でもあった。率先して避難することで、伝えられることがあるのではないか……。昨年6月、避難を決意した。

 佐賀市や三重県を転々としたが、「ふるさと」と決めた地への思いは断ちがたく、今年6月、会津に戻って来た。水を精密な検査に出したところ、1キロあたり0.39ベクレルの下限値でも放射性物質は検出されなかった。試しに北海道産大豆で作った厚揚げも不検出。「新たな創業」を決めた。

 実は、環境NGO「グリーンピース・ジャパン」の事務局長だった。国の基準「1キロあたり100ベクレル」は高すぎると考えている。自主基準をどう設定するか、地元農家とも話し合いながら、データを集めていきたいという。

 小原さんはお客さんとの再会が楽しみだ。「豆腐屋は私にとって天職。一つずつ安全を確認しながら、納得できる仕事をしたい」。そして、原発事故について、こう話した。「福島に住みながら、原発問題と正面から向き合ってこなかった。自分にも責任がある。福島や地域のために出来ることを、豆腐を作りながら考えたい」。(石毛良明)

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