群衆
「島を返せ!」
女
「日本製品をボイコットせよ!」
今年9月、中国全土に広がった反日デモ。
このデモに、農村出身の出稼ぎ労働者、『農民工』が多数加わっていたことが指摘されています。
彼らが日頃抱えている強い不満を各地のデモで爆発させたことがあれほど大規模な騒乱につながった一因だというのです。
実際、西安でのデモの際、日本車の持ち主の中国人を襲い重傷を負わせたとして逮捕されたのは、21才の農民工でした。
農民工は、中国でどのような立場に置かれているのでしょうか。
北京市郊外の「皮村(ひそん)」という地区を訪ねました。
中国では家賃が高い大都市の中心部を避け、こうした郊外に農民工が集まります。
鎌倉
「この皮村には仕事を求めて集まって来る農民工の人たちも多いんですね。
今ここに、“高い給料で雇います”と言っていますけれども、これ家具屋さんですね。
家具を作る工場、木工、大工さんを募集しています。」
鎌倉
「どちらの出身ですか。」
住民
「内モンゴル自治区です。
家計のためにがんばっています。」
増築された建物や「部屋貸し」の貼り紙もたくさんありました。
この地区は、ここ10年で2000人だった人口が、2万人に膨れあがったといいます。
この地区にある、農民工の子どもを専門に受け入れている、数少ない学校のひとつを訪ねました。
この学校は、農民工を支援しているNGO「工友之家(こうゆうのいえ)」が国の内外からの寄付をもとに運営しています。
学費は月100元、日本円でおよそ1200円あまりで、一般的な公立学校の4分の1以下。
月収が日本円で数万円程度の農民工でも払える額です。
北京市の場合、公立学校は、北京市に戸籍のある子どもなら無料ですが、農村の戸籍を持つ農民工の子どもが通う場合は、寄付金として年間5000元、およそ6万円が必要です。
農民工が、出稼ぎ先の大都市で子供を公立の学校に通わせるのは事実上不可能に近いのが現状です。
「農民工」は、こうした様々な差別的な待遇を受けているのです。
この学校は、寄付などの資金にも恵まれていて、プロの教師を雇い、公立学校と同じカリキュラムで教えています。
生徒
「学校の先生になりたい!」
「社会に貢献できる人になりたい。」
2人の子どもをこの学校に通わせている、山東省出身の師明亮(しめいりょう)さんです。
師さんは、毎日8時間から9時間、建設作業員として働いていますが、物価も上がり、毎月の給料は生活費と家賃で消えていきます。
今は、子どもが学校に通っていることが明日への希望だといいます。
師さん
「農民工の学校があり助かりますが、もっといい学校に通わせたいです。
北京の子どもと同じように高校や大学を受けさせたいです。」
北京市当局は、学校に対し、設備が不十分などの理由で、たびたび閉鎖を迫っていますが、学校側は「我々は必要な存在だ」として、要請を拒んでいます。
教師
「現状では、農民工の学校は必要です。
将来こうした学校がなくなり子どもたちがもっといい学校に行ける日が来るといいです。」
NGO、「工友之家(こうゆうのいえ)」は博物館も運営しています。
代表の孫恒(そん・こう)さんです。
歌手を目指して14年前に北京に出てきた孫さん。
結局、生計を立てるために肉体労働を続けざるを得ませんでした。
夢を抱いて生きる農民工の思いを伝える場所がほしいと、支援金を集めて作ったのです。
農民工の歴史を知ってもらい、地位の向上につなげようと、生活の記録や仕事の道具などおよそ3000点を展示。
農民工が暮らす一般的な部屋まで再現しました。
農民工は住むところを転々とするため、目まぐるしく転校をくり返す子どもも珍しくありません。
孫さん
「これは、農民工の学校の生徒の体操服です。
一人でこれだけ使っていました。
3年間で27回も転校したためです。」
孫さんは、農民工こそが、中国の経済発展を支えてきたのに、差別的な待遇は全く改善されないと憤りを感じています。
NGO「工友之家」代表 孫恒さん
「多くの農民工が法的保護を受けられず、残業代もなく労災にも遭っています。
改革開放で経済は成長したものの、高層ビルの裏の物語には関心がないのです。」
傍田
「とても興味深いリポートだったと思いますけれども、鎌倉さんが取材した実感としては、農民工の人たちの不満、どこまで高まってきているっていう感じですか。」
鎌倉
「農民工自体もですね、世代が変わってきていて、今や10代や20代の若い農民工もどんどん増えてきているんです。
彼らは『新世代農民工』と呼ばれています。
都市出身の若者と同じような服を着て、携帯も持っていますし、インターネットも同様に駆使しています。
ネットの世界では都市の人たちと差がないのにも関わらず、実世界では壁がある。
なぜ、同じ待遇が受けられないのかと、親の世代以上に不満を高めているわけなんです。
それではここからは、中国総局で主に経済問題を担当している神子田記者と共にお伝えします。
この高まる農民工の不満に対して、中国共産党としてはどう対応しようとしているんですか。」