2012年10月 7日放送
老いも若きも!"思いを残す"エンディングノート
もしもの時のために、葬式やお墓など人生のエンディングのことを書いておくノート「エンディングノート」。そのフェアがあると聞き、神奈川県茅ヶ崎市の本屋さんを訪ねてみると、平台の上には、エンディングノートがズラーリ。各社が入り乱れる、この市場。中には発売から2年で25万部も売れたノートもあります。このエンディングノートを作った文房具メーカーを訪ねてみました。購入者から届いたアンケートハガキを分析したところ、購入者の半数は、なんと50代以下でした。子どもが生まれたり、去年の震災がきっかけとなってノートを手にする人が増えているそうですが、一体どんな人が書いているんでしょうか。
不動産コンサルタント業を営んでいる、久保克裕さん(43)。久保さんが熱心に書き始めたのは、「友人・知人のリスト」です。実は今年はじめ、久保さんにはこのリストが大切だと痛感する出来事がありました。 久保さんは、3月に父の峰雄さんを亡くしました。もう助からないとわかったとき、父親が「会いたい」という人を聞き出して、リストを作ったのです。一件一件連絡をとっては、父のもとに来てもらうことにしました。「『これで会える人は全部会えたよ』みたいなことは言ってくれたんで、それは私自身もその言葉をもらって救われたかなという気はしますよね。」
エンディングノートを書き始めて2時間、久保さんの手が止まりました。任意後見人、遺言執行者...今のところ独身の久保さんには、まだ実感が湧きません。またもう一つ、悩ましい項目がありました。遺影に使う写真です。探すと、20年前の写真しかありませんでした。専門家によると、遺影写真がなくて、亡くなったときに遺族が困ることがよくあるそうです。この日、久保さんが費やした時間は、およそ6時間。「書くことによって、改めて自分の生きていく目的、生きがい、自分の人間関係というのが見えてくるように思いますね。」自分の半生とじっくり向き合うことになったエンディングノートでした。
ところ変わって、こちらの出版社では、新しいタイプのエンディングノートを作っている真っ最中。ターゲットは、20代から40代の若い女性です。この会社では、若い女性が書きたくなるようなエンディングノートがないと感じていました。そこで、インターネットを使って、一般の女性たちから、意見を集めることにしたのです。返ってきた答えは、アクセサリーにまつわる思い出や日常の小さな幸せなど、これまでのエンディングノートにはない項目でした。医療や葬儀のページは38ページ、それ以外の趣味や思い出のページは、3倍近くにも膨れあがりました。お気に入りのレシピや、大切な宝物、はたまた、世界地図に思い出の旅行先を書き込むページもあります。
9月、協力してくれた女性達を集め、完成間近のサンプルを見てもらうと・・・。「歴代わんちゃんのコーナー。」「私これ、やりたい」「暗い気持ちになりがちだったものが、楽しく書けるというのが、やっぱり一番うれしい。」などのご意見が。さぁ、このエンディングノート、女性たちはどう使うんでしょうか?参加していた後藤裕子さんに書いてもらうことにしました。
後藤さんは、夫と息子の3人暮らしです。さっそく、自分のお気に入りを書き込むページから始めました。お気に入りの音楽や、思い出の美術館などを次々と書き進めていきます。続いて「マイベスト10」のページ。自由にテーマを決めて、1位から10位を決めるものです。後藤さんが選んだテーマは「おいしい食べ物」。...ここで後藤さん、デジタルカメラを取り出し、写真を探します。そしてデジカメやケータイに残る記録を頼りに、書き始めました。「これはほほ肉の煮込み物だと思います。去年なのに...忘れてますね、結構。」実はこれ、"若い女性あるある"。出版社によると、デジタル機器に思い出を詰め込んだことで満足し、そのまま忘れてしまう。そんなことがよくあるそうです。
そして、幸せを感じた瞬間を書き綴る「ハッピーデイズ」のページ。ここで後藤さん、一人息子の謙護(けんご)君の写真を取り出しました。後藤さんがエンディングノートに興味を持つようになったのは、謙護君に何かを残したいと思ったからです。それは・・・去年、3月11日。いつも幼稚園に謙護君を迎えに行く後藤さんは、この日、用事で都心にいたため、すぐには迎えに行くことができませんでした。謙護君の安否が確認出来ないまま、結局、会えたのは深夜12時。この日以来、自分の思いを何かに書きとめ、残したいと考えるようになったのです。
「命が終わることが、もしかしたらあるかもしれないということを感じてしまう日だった。エンディングノートとして、残された人のためにそういうものを残しておくのは必要なのかなと感じました。」後藤さんのエンディングノートが完成。母の愛情が息子に伝わる日を信じて...謙護君へのメッセージがちりばめられています。若い女性向けのエンディングノート。それは、日常の小さな幸せから、大切な人への思いまで、自分を記録し、未来につなげるノートでした。
小谷みどりさん(第一生命経済研究所 主任研究員)
これまでの「エンディングノート」っていうのは「遺言ノート」とも言われて、亡くなった後の葬式とか墓のことを書くものだったんですけれども、今は自分が生きてきた証とか、自分の人生史を残すためのノートとしても使われるようになってきたので、幅広い年齢層の方に使ってもらえるノートが増えてきています。30代、40代の方って将来に対する漠然とした不安がありますけど、例えば自分が介護をしてもらう立場になったら、誰にどこで介護してもらいたいのかって考えて、まずどういう選択肢があるのかって調べてみますよね。で、いろんな選択肢があるんだっていうことを知れば、安心することもできます。実はこのように自分のエンディングについて考えることでメリットもあるんです。
全世帯にエンディングノートを配った町があります。新潟県見附市。市独自に作ったエンディングノート、名付けて「マイ・ライフ・ノート」です。...とはいうものの、配って3か月、市民たちの反応は?「書かない。めんどくさい!」「まだいいな。まだ青年だすけ(笑)」いまいち・・・、かと思いきや、エンディングノートによって、夫婦の絆が深まったという人がいます。「ボウリングがあの頃ブームだったんだよね。で、あとね、交換日記っていうのが流行って・・・、交換日記したよね、2年ぐらい。ハハハ。」ノートを書き始めたことで、結婚した当時の思い出話に花が咲いた結婚40年目のご夫婦、市内で寿司屋を営む、松田忠一さんと、まち子さんです。
ノートを書き始めて1週間。お互いのノートを初めて見せ合うことにしました。ところが、ここで衝撃の事件が!まち子さんが、2人の大切な思い出、新婚旅行の行き先を忘れていたのです。では結婚式の日は?あぁ、こちらは大丈夫でした。エンディングノートの良いところは、普段、話しにくいことでも、互いの意志を確認できること。例えば「献体」や「臓器移植」の欄。忠一さんは、「希望する」でしたが、まち子さんは「希望しない」でした。さらに、普段、照れくさくて言えないこともノートには書くことができるようで...「(忠一さん)『私のいつもの朝ご飯、女房に感謝』って書いてある。ハハハハ。こういうことがないと書かないよね。」
見附市が全世帯に配ったエンディングノート。これをお年寄りの生きがいにつなげようとしている人もいます。民間の有料老人ホーム、社長の若杉尚子さんは、およそ20人の入居者全員にノートを作ろうと考えました。今井市太郎さん(87)。今年8月、体の衰えが激しくなり、この施設に入居しました。若杉さんは今井さんの話を聞きながらノートに清書します。今井さんの一番楽しかったことは、娘さんたちと海に行ったこと。そして...「(若杉さん)もう1回しておきたいことある?...ばあさん?うん?会いたい?」
およそ30キロ離れた別の施設で暮らす奥さんとは、もう3か月以上、会っていない今井さん。『もう一度、お前に会いたい』若杉さんは今井さんの話を妻へのメッセージの欄に、こう記しました。新たな夢を確認した今井さん。離れて暮らす妻に会えるよう娘のイツさんが準備を進めています。「(若杉さん)夢を持つということは重要だと思います。これからの張り合いですので。」普段、夢や希望を口にしないお年寄りたち。若杉さんは、これからもエンディングノートを使って、お年寄りたちの生きがいを掘り起こしていくつもりです。
渡辺満里奈さん(タレント)
例えば、だんなさんが「ありがとう」とか「愛している」とか言えなかったら、エンディングノートを「じゃ、ここに置いておくから」とかって言って。で、言うと、やっぱり見たくなるじゃないですか。で、見たら、ああ、ちょっと感動...みたいなこともあるかもしれない。結局、死を考えることって、 "今、生きていることをもっと輝かせること"なんだと思うんですよね。それがなく、何となく過ごすのも、もちろん、いいんですけど、もっともっと何か大切なことを突き詰めていくとか、何かを輝かせるためにも、こういうのはいいかもしれないです。