大飯原発の活断層問題 “電力氷河期”の不安は尽きない
産経新聞 11月11日(日)18時10分配信
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大飯原子力発電所敷地内の破砕帯に関する評価会合では、詳細なデータをもとに専門家による議論が交わされた=11月7日、東京都港区(荻窪佳撮影)(写真:産経新聞) |
関西電力大飯原子力発電所(福井県おおい町)敷地内を通る「F−6断層(破砕帯)」が活断層かどうかをめぐる原子力規制委員会の議論が長期化の様相をみせている。活断層と判断されれば、稼働中の大飯3、4号機(出力計236万キロワット)は停止を迫られ、関電管内は一気に電力不足に陥る。利用者は一層の節電協力を強いられる上、今夏は回避できた計画停電が実施される可能性も。電力不足が慢性化し、まさに“電力氷河期”となりつつある。
【フォト】 大飯原子力発電所敷地内の破砕帯に関する評価会合
《平成25年2月早朝。会社員のAさんは、自転車をこいで、普段ならば電車で30分で到着する勤務先へと向かっていた。この時間帯、Aさんの住むX町は計画停電の実施エリアに入り、自宅では照明やエアコンも使えず、電車の運行も止まっている。「遅刻してしまう」。そう思った瞬間、自転車は凍った水たまりの上を滑って転倒。Aさんは頭を強く打った。犬の散歩をしていた主婦があわてて119番通報したが、町で唯一の病院も停電し、救急患者は受け入れられないという》
この冬、関電管内で計画停電が実施された事態を想定した架空の話だ。大げさに感じられるかもしれないが、原発停止は人命にかかわる問題であり、その“生命線”といえる大飯原発が停止の危機にさらされている。
大飯原発敷地内の破砕帯について、規制委が派遣した調査団のメンバー、渡辺満久・東洋大教授は繰り返し「活断層だ」と主張。117日に行われた第2回評価会合では、規制委の島崎邦彦委員長代理が「一番長い破砕帯であるF−6が大丈夫なら、他の破砕帯も問題ない」としていた旧原子力安全・保安院の姿勢を問題視し、「限られたデータしかなく、はっきりとした調査を」と関電側に調査範囲を拡大するよう求めた。
原発の新安全基準が策定されていない現時点で、規制委には、原発の運転停止を命令できる明確な法的根拠はない。しかし、野田佳彦首相は「規制委の判断を尊重する」としている。活断層かどうかの判断は先送りされているが、規制委が運転停止を要求すれば、大飯3、4号機の停止は免れない。
関電は、今冬の最大電力需要を2537万キロワット(来年2月)と想定。これに対し、供給力は2642万キロワットで、需給の予備率は4・1%になり、最低限必要とされる3%は上回るとしており、この冬の節電要請では数値目標を掲げないという。
ただ、これは大飯3、4号機の稼働が大前提。しかも、昨年からの節電の定着で平成22年冬比で148万キロワットの需要が減ると見込んだ上での話だ。もし3、4号機が停止すれば、夜間にダム湖の水を電力でくみ上げ、日中に放水して発電する「揚水発電」も減り、供給力は一気に13・4%も不足する。
今冬の寒さが予想以上に厳しくなり、エアコン需要が増えれば、「定着した節電」も期待できない。数値目標を設定しない冬の節電方針が見直しを迫られるだけでなく、計画停電の実施も現実味を帯びてくる。
関電は今夏、大飯3、4号機が再稼働しても、予備率3%を確保できない厳しい事態を問題視し、計画停電を準備した。人命や社会生活への影響が強い病院や鉄道は計画停電の影響を免れる「緩和対象」とされたが、それでも影響がゼロでは決してない。
JR西日本管内の全1222駅のうち、関電管内のローカル線を中心に、一般家庭向けと同じ配電網から供給を受けている約170駅は計画停電の対象になった。駅が停電になれば、自動改札機や券売機が使用できなくなるため、係員の増員といった対策を余儀なくされた。
結果的に、火力発電のフル稼働で今夏の計画停電は実施されずに済んだ。クラゲの大量発生による停止などのトラブルはあったものの、計画外停止による出力ダウンの幅は7〜9月で平均27万キロワットにとどまり、経済産業省の幹部も「このレベルで済んだのは奇跡といってもいい」と舌を巻いたほどだ。
とはいえ、火力発電のリスクは常につきまとい、油断できない。関電幹部は「無理な節電をさせたくないので、数値目標は示さない。計画停電などもってのほかだ」と安定供給に意欲を燃やしているが、再調査などで長引いている活断層問題の結果次第では、関電管内の電力供給は一気に不足してしまう。まさに電力不安は尽きることがない。(宇野貴文)
最終更新:11月11日(日)20時43分
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