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社説

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精神障害者 雇用義務化を急ぎたい(11月11日)

 厚生労働省の労働政策審議会は、企業にそううつ病や統合失調症など精神障害者の雇用を義務付ける方向で検討に入った。

 仕事を求めたり、実際に職に就いたりする精神障害者が年々、増えているためだ。障害者への差別禁止や合理的な配慮を求めた国連障害者権利条約批准のための環境整備の一環でもある。

 年内に結論を出し、来年の通常国会にも関連法案を提出する。

 障害の有無にかかわらず、働く意欲や能力のある人に就労の場が与えられるのは当然である。

 政府は身体、知的障害者の就労を促すため、1997年までに企業に採用を義務付け、従業員数の一定割合を雇う法定雇用率を定めた。

 精神障害者への適用が他の障害者に比べ、これほど遅れたことは理解に苦しむ。義務化に向け、雇用率や対象業種など具体的な制度設計を急ぐべきだ。

 ハローワークの統計では、昨年度の精神障害者の就職件数は前年度比約30%増、道内でも約35%増で身体、知的障害者に比べ大きく伸びた。

 企業側の理解が進んでいるうえ、ハローワークへの精神保健福祉士など専門家の配置や、雇用奨励金などの施策が功を奏したようだ。

 問題は、雇用を義務付ける精神障害者の範囲である。

 審議会は、都道府県の審査が義務付けられている精神障害者保健福祉手帳の交付者に限る方針という。障害の程度が把握しやすく、公正さを保ちやすいためだとしている。

 しかし、精神疾患患者約323万人(2008年度)のうち手帳を持っているのは7分の1にすぎない。

 これでは多くの人が就職の機会から漏れてしまう可能性がある。対象は幅広く設定するのが筋だ。

 スムーズに職に就くには、政府や自治体の後押しも欠かせない。

 政府の障害者就労促進策には自立訓練や就労移行支援事業などがあるが、利用するには自己負担が求められるケースが多い。負担を軽減するなど参加しやすい形にすべきだ。

 偏見や誤解を解くために、障害の特徴などを周知し、社会の理解を広げる必要もあるだろう。

 職場には治療を続けながら働けるよう、勤務時間を柔軟にするなどの配慮も求められる。

 仕事上のさまざまな悩みにこたえるため、ハローワークの精神保健福祉士などが企業を回り、相談に応じる態勢も整えてほしい。

 近年、長時間労働や仕事の過密化などでうつ病になる人が増えている。精神障害者の積極的な雇用が、職場環境の改善にもつながることにあらためて思いを致したい。

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