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父子家庭の抱える課題とは? - 村上 吉宣

全国の男性の皆さん、全国の子育て中のお父さん、少しだけ想像してみてください。もし今日、突然奥様が亡くなられたら。もし今日、突然奥様が家出をしたら。皆さんは、1人で子育てをしながら、今の仕事を続けていく事を出来ますか?

全国父子家庭支援連絡会の発足記者会見で代表の片山が、最初に世に問いかけた言葉です。その3年後、1000年に1度と言われる天災が発生しました。

震災当初から様々な活動を続けてきましたが、まずは皆さんに父子家庭の最大の問題である「孤立」について、知って頂けたらと思います。

父子家庭になると、職場や地域コミュニティ、子育て行政支援・社会などのあらゆる場面で問題を抱えます。

【会社での孤立】

毎日、当たり前に残業をしていた部下が突然に定時帰宅、欠勤、早退の日々なら「あいつは使えないやつ」と烙印を押され、アルバイトや契約社員へと降格され、職場に居づらくなります。転職すれば収入も激減します。

また、子どもは急に体調を崩します。授業参観などの行事、保護者会の活動など、ママ任せだったことが重くのしかかります。

【地域コミュニティでの孤立】

地域コミュニティに参加する経験を積んでこなかったパパは、父子家庭になって地域の中で孤立する傾向があります。また、相談するという事に抵抗があるように見受けられます。

「子どもは放っておいても育つ」と言いますが、その裏には親が地域コミュニティでの役割を果たすことで、放っておくことが許される地域環境が担保されているという背景があります。

子育ては掃除、洗濯、炊事、子どもの面倒だけではなく、地域コミュニティという社会で役割を果たしていく事も含めて、子育てという事がパパ達に認知しきれていないという問題もあるようです。

【子育てを介した繋がりが希薄なため、育児に孤独を感じる】

子育て情報や悩みの共有も大事ですが、そうした子育てをテーマとしたつながりがもっぱらお母さんたちのネットワークの中にあって、お父さんはその輪になかなか入っていけません。父子家庭には敷居が高い、ママ友の輪。その結果、【孤立】し1人で抱え込む傾向があります。

【行政窓口で支援がない事を知った時、社会的孤独を感じる】

就労支援、貸付制度、雇用促進制度や遺族基礎年金を子供と別居しないと受給できないなどと受け止めたときに【社会的孤立】を感じます。

父子家庭になると「仕事」と「子育て」のどちらを選ばなくてはならない苦渋の選択を迫られます。

「仕事」を選択した場合、帰りが遅くなり、子どもを夜遅くまで留守番させることになります。そうした子育て状態に対して地域の理解が得られないと、ネグレクト(育児放棄)であると誤解され更に追い込まれる事例もあります。

「子育て」を選択すると、就労時間は子どもたちにタイムスケジュールに左右されます。ひとり親の特性上、当然、早出、残業、出張、転勤は困難なため、収入は激減します。

子どもの成長過程と就労時間の関係

子どもには子どもの生活があります。遅くとも夜7時くらいには夕食を食べさせたい。子どもの生活リズムの安定を考えれば、毎日定時に帰宅したい。夕飯もできれば手づくりのものを与えたい。父子家庭になった途端、そんな家事と育児、仕事のバランスに悩まされます。

仕事も子育ても家事も、夫婦合わせて48時間を使ってこなしていた内容をひとり親は24時間でこなす必要に迫られるのです。

父子家庭は究極のワークライフバランスが求められ、更に緊急的に働き方の見直しを迫られるという事が言えます。

母子家庭であれ、父子家庭であれ、抱える子育てと就労をめぐる問題は、本質的に共通です、そこは、ご理解頂けると思います。 あしなが育英会のデータによると、震災により遺児世帯になってしまったのは1206世帯に及ぶとされています。母子家庭569世帯(47%)父子家庭432世帯(36%)両親のいない世帯205世帯(17%)となっています。

「あしなが育英会調査資料より」
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津波により仕事を失い、家も車を失い、妻まで失った死別の父子家庭。彼等に残ったものは住宅ローンなどの債務と、まだまだ親の寄り添いが必要な子どもたちです。

ある当事者の方は言いました。「義援金も災害弔慰金も全部、住宅ローンを払うためにとっておいてるんだ。子どもたちが成人して社会人になったら、自己破産しようと考えている」と。

父子家庭の特性上、債務を負ってひとり親になるという性質があります。そのため、前年度の収入が高くても「隠れ貧困」に陥ってしまうのも父子家庭の特徴です。あしなが育英会のデータでは、父子家庭432世帯の内、65.7%が全壊、5.1%が半壊となっており、約70%の方が債務を負ってしまったということが言えると考えられます。

「あしなが育英会調査資料より)
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自宅や車を失っても、ローンが残っていれば支払いは続きます。仕事を失い、仕事を探しますが、子どもたちの生活にリズムに合わせた仕事を選択する必要に迫られるため、再就職はますます難しくなります。

早出残業などの長時間労働で得ていた収入は、妻のサポートがあって得られていたものです。また、夫婦共稼ぎで生計を維持していた方々もいるでしょう。

しかし、1人で子育てをしながら生きていくという事は、働き方を見直す必要があるのです。収入が激減した上、債務の返済は続き、子どもたちの病気や怪我などで不定期に休まなくてはならないことも多い。そんな渦に巻き込まれ、経済的に追い込まれていく─。それが父子家庭の現実です。

突然の天災により環境が一変した震災父子家庭の方々は特に、誰もがあの瞬間まで想像すらしていなかった事態でしょう。

もし?愛する妻が亡くなったら? そんなことは誰もが想定していませんでした。普通の日常が流れ、そして津波により何もかも失ってしまったのです。

そうした背景に伴い「遺族年金の父子家庭への拡充」

そして母子家庭にのみ該当される「母子寡婦福祉資金貸付制度や高等技能訓練促進事業、特定就労困難者雇用開発助成金の父子家庭への拡充」という法改正に焦点を当てて活動を始めました。

民間組織が出来る一時的な支援も必要です。そして長期的に継続した支援体制も必要です。

何十年と継続した支援が続き、包括した支援ネットワークを形成し、更に被災3県のどこに居ても同じ支援を受けられるようにするためには、国の法律を変え、地方行政で対応できるようにすることが遠回りに見えても、必要になる事だと考え行動し続けています。

(仙台市・宮城県父子の会代表 村上吉宣)

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