意見をつなぐ、日本が変わる。

記事 社会保障

父子家庭への支援拡充を求める動き - 村上 吉宣

「妻じゃなく、俺が死んだ方が良かったんだ、と思う事がある。
俺が死んでいれば、行政からの支援も受けられて、子ども達の生活も
一変する事はなかったんじゃないか」

「夫婦共稼ぎで返済して行こうと計画を立てていた住宅ローンの返済が苦しい。
子どもも傷ついているから、出来るだけ傍にいてやりたいが、子育てを1番にすると
生活が出来なくなってしまう」

「子育てをしながら働きやすい社会になっていって欲しい。
子どもに合わせて職種を変えようかとも考えたが、就労支援が無い事に愕然とした。
今は耐え忍ぶしかない」

津波で奥様を失った父子家庭の方々は、僕に訴えかけてくれました。
1人1人と交わした握手の力強さを忘れられません。ひとり親への経済支援である児童扶養手当が父子家庭へ拡充されたのは
震災半年前の平成22年8月。スタートしたのは、ここ最近の話なのです。

しかし、前の記事で書かせて頂きましたが支援差はいまだ大きく
その法律は地方行政ではどうすることも出来ない壁です。

遺族年金問題一つとっても下記のような課題が、震災から
1年3カ月あまりが経過した今も、取り残されています。

【遺族基礎年金】
父に受給権は存在しません。子に対して受給権は存在しますが、
父と同居をすると子の受給権は停止してしまいます。

この問題は主夫世帯、妻が生計維持者で夫が専業主夫である場合も同様の問題があります。
どんなに妻が働いて国民年金を収めていても、主夫には遺族基礎年金は支給されません。

図1


【遺族厚生年金】
55歳以上という年齢要件が存在します。

【児童扶養手当と年金の併給問題】
低額の年金を受給する事で、児童扶養手当が満額貰える年収だったとしても、
児童扶養手当を選択出来ないという課題も存在しています。

遺族年金が父子家庭へも拡充されてこなかった理由ですが、厚生労働省によると
「父親は稼ぎ手であるべき」と言った旧来の価値基準によるところが大きいと言います。

神戸の震災でも同様の問題は存在していたはずです。
しかし、神戸市議会からも格差是正の声は上がっていなかったことを見ると
当事者の声を代弁する組織体が存在しなかったことが大きいのだろうと考えられます。

図2


支援は母子家庭には存在します。父子家庭には存在しない。
その根幹となる法律が「母子及び寡婦福祉法」です。


法律の中の文言に「配偶者のいない女子」や「母子家庭及び寡婦」と明言化されて
しまっていることで「配偶者のいない男子」や「寡夫」は支援対象とされていません。
更に法律の文言には「父子家庭」という文言は無く「母子家庭等」と表現され、
父子家庭は「等」でくくられています。

福祉事務所などでの相談業務は父子家庭へも拡充されています。
しかし、その情報自体が当事者へ周知しきれていないのが実状です。

相談員であっても、父子家庭の抱える課題や背景を理解されていない方もいます。
そのため相談窓口でトラブルになることも多々聞き及んでいます。


震災後、僕は回れる範囲ではありますが、宮城県内の沿岸部と内陸
岩手県内の沿岸部と内陸の行政窓口の方々1人1人に、実態を聞き取るため回りました。

ある窓口担当者の方は言いました。

「村上さん、厚生労働省はどうすると言ってましたか?
津波で奥様を亡くされたお父さんが沢山来ます。
あきらかに精神的に衰弱している、疲弊しきっている方々に
私たちは病院の心療内科を受診するよう勧めることしか出来ませんでした。
私達は国の支援制度を紹介することが出来ますが、
お父さん達には何も提案出来る支援制度がないんです。
頑張ってください。陰ながらになりますが応援してますから」



こうした事を、ここに書いていいのかどうか、僕には正直分かりません。
でも現場の職員の方々は必死に何とかしたいとの思いで仕事をされていましたので
書かせて頂きました。


何度も引用していますが、母子及び寡婦福祉法に書かれている
支援対象者は「配偶者のいない女子」です。
そして遺族年金は父子家庭へ支給されない。またはクリアしなくてはならない壁がある。


そこで、全国父子家庭支援連絡会(全父子連)は平成23年6月20日、厚生労働省に 
小宮山副大臣(当時)を訪ね、要望書を手渡しました。

小宮山副大臣と面談


要望項目は下記内容になります。
1.ひとり親支援に関する大臣付けの諮問機関の設置
   ・日本のひとり親支援制度の見直し、支援制度拡充を目的とし、政治、
    行政、研究機関、NPO、市民が討議できる場を設置して頂きたい

2.遺族基礎年金など各種遺族年金を父子世帯にも支給拡大

3.東日本大震災における被災された父子家庭支援(急務:被災地限定)
   ・母子寡婦福祉資金貸付金の父子世帯への拡大
   ・高等技能訓練促進費事業の父子世帯への拡大
   ・特定就職困難者雇用開発助成金の父子世帯への拡大


 そして僕は同様の要望項目の意見書が、被災県議会や市町村議会から政府へ
届けられるよう働きかけました。
平成23年10月24日、仙台市議会で採択され、政府へ意見書が送付されました。

そうした動きを皮切りに、岩手県、宮城県、福島県議会と採択され、更に市町村議会
からも続々と意見書が採択されました。その動きは全国に波及していき、項目内容も
東日本大震災に限らない形式で採択された議会も数多く見られます。

南三陸町の要望書


平成24年6月現在で確認できるだけで、17の県議会、96の市町村議会から政府へ
意見書が送付されています。

また、同様の要望を市長会から発信を要望したり、日弁連や仙台弁護士会、
岩手弁護士会からも政府へ要請頂けるよう、要望書を送付しています。

111201_083409


しかし国政の壁は厚いです。
地方議会の議員さん達は、皆超党派で協力してくれ「父子家庭の支援拡充を求める意見書」
について無条件で協力してくれました。

ご自身も奥様を津波で亡くされた陸前高田市の戸羽市長
宮城県内で一番多くの遺児が生まれてしまった石巻市の亀山市長などに
直接お願いに伺った際には問題の重要性をしっかりご理解いただき、
早々に対応してくださいました。

石巻市長


しかし国会となるとなかなか、難しいのです。
議員さん1人ひとりに直接お話しすると、誰もが納得してくれる問題なのですが、
政局が問題解決を停滞させています。法改正への道は長期戦の気配です。


僕はひとり支援制度とは「保護」するということが目的なのではなく、「自立」
に向かうための「支援」であり、ゆくゆくは納税者に育てていくということが目的で
あると思います。

養育者達が仕事をし、生活し、未来に向かって生きていくためには、自助努力ではどうにもならない
天災・事故、病気や障がい、そして子ども達の年齢や性質等の課題を抱えた者に対しては、外から手助け、公的な支援が必要だと考えるからです。

東日本大震災においては故郷を喪失し、仕事を失い、妻が隣にいてくれた日常生活を失いました。
失った悲しみや絶望の深さは、撲には想像することすらできません。

でも、深い悲しみや絶望には、光が必要なことだけは理解できます。
生活再建を目標とした時、仕事に就くための支援や再就職のための技能習得支援、
無利子の貸付制度などの支援があったら・・・。

それは目標達成に向けた「光に向うための階段」になるのではないだろうか、と思うのです。
そして目標に向かい続けることが当事者達に活力にを生み、悲しみと共に生きていく糧
になっていくと信じているのです。


東日本大震災で浮き彫りになった父子家庭支援の問題。
被災県内陸部の方々も、全国の方々も3.11当時、「明日は我が身」と危機感を持たれたことと思います。


今まで記載させていたことを受け、天災だけでなく、事故や病気
そして子どもの状態(年齢・病気・障がいの有無)によっても同様に、女性であれ、男性であれ
困難な状況に追い込まれることを、ご理解頂けたかと思います。


お気づきかもしれませんが、「父子家庭への支援拡充を求める」ということは
全国の「子育てする父親達のセーフティーネットの整備」にも繋がっていくことになります。

僕は被災県に住む、父子家庭への支援拡充を求める活動者として、
震災での苦い経験や痛みまで、次世代に引き継がせたくはないのです。
(仙台市・宮城県父子の会代表 村上吉宣)

(続く)

※意見書送付を求める活動や、政府へ向けた訴えは継続活動中です。

【制度説明】
「母子寡婦福祉資金貸付制度」
無利子の貸付金制度で、就労・技能習得・生活等の12項目の理由により活用できる制度

「高等技能訓練促進事業」
看護師や保育士などの高等技能を習得する為に専門校に入学した場合に、
生活費の一部を助成してくれる制度

「特定就労困難者雇用開発助成事業」
母子家庭や高齢や障がい者の雇用を促進する為に、事業者助成金が出る事業


【追記】
一部地方自治体では、公営住宅の優先入居などを実施されていますので、詳しくは窓口にて、ご確認ください。

話題の記事をみる - livedoor トップページ

社会保障の関連記事

社会保障に関連する一覧(324)

河北新報 オピのおび ふらっと弁論部の記事

河北新報 オピのおび ふらっと弁論部の記事一覧(92)

東北を代表する地方紙がボランティア情報や生活情報を発信

意見

意見(コメント)の投稿について

注意!livedoor ID または Yahoo! ID で
アカウント認証を行っているユーザーのみなさまへ

この度ガイドラインの変更にともない、意見(コメント欄)への書き込みには facebook ID、twitter ID または mixi ID での認証が必須となりました。以下のボタンより認証するIDを選択して、追加認証を行ってください。

総合ランキング

ランキング一覧

BLOGOS Recommnend

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

意見を書き込むには FacebookID、TwitterID、mixiID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。