6日午後1時30分。かかってくるはずの電話がかかってこない。長野県軽井沢の自宅で休んでいた静岡県知事の川勝平太(63)は、受話器を取り、電話をかけた。
1時間ほど前、県庁の部下から「一時半に海江田大臣から電話があります。電話口にいてほしいとのことです」と連絡があった。
川勝が、電話をかけたのは経済産業相、海江田万里(63)の側近。「大臣は会議中なので、終わり次第、電話します」。海江田は、首相の菅直人(65)から浜岡停止の了解がなかなかもらえない。経産省が当初描いたスケジュールは大幅にずれ込んでいたが、川勝はそんな事情を知る由もなかった。「一体、どうなっているのか」
さらに1時間半後。業を煮やした川勝は、携帯電話を取り出し、登録リストの「細野豪志」に発信した。首相補佐官の細野(40)は、前日5日に行われた浜岡視察で海江田に同行していた。その時、細野が「地元とのパイプ役になる」と話したのを思い出した。短い発信音の後、細野の声が聞こえた。
細野「私もちょうど電話しようと思っていたところです」
川勝「経産省から電話をくれると言われたままだが、どうなっているのか」
細野「まだ会議中です」
川勝「何をもめているのか」
細野「浜岡3号機の停止は決まった。4、5号機をどうするかでもめています」
川勝は5日、視察後の海江田と会談し「津波対策は不十分で、3号機の再稼働を認めるのは難しい」と伝えている。呼吸を整えて、細野に自身の考えを告げた。
「津波の安全対策が十分でないと、3号機は動かせない。再開を認めないだけで、メッセージは十分だ。4号機は来年1月、5号機は3月に定期検査に入る。3号機を動かせない以上、4、5号機は『自然死』する。夏場の電力需給を考えると、動かしておいた方がいい」
「知事の意向は分かりました。伝えます」。細野はそれだけ言うと、電話を切った。