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【浜岡原発停止10日間の攻防】

3.響く怒号

 5月5日朝、まだ肌寒い東京駅。経済産業相の海江田万里(63)は浜岡原発の視察に向かうため、7時26分発のこだま635号に乗り込んだ。

◆堤防にならない。こりゃ駄目だ

下村内閣審議官が大学ノートに記したメモ

写真

 前日に美浜原発の視察で、福井県を往復したばかり。座席を倒し、目を閉じた。4月末から詰めてきた浜岡停止のシナリオ。視察は経産省が「アリバイ作り」のためお膳立てしたようなものだが、最後は自分の目で確かめたい気持ちがあった。

 JR掛川駅で降り、ワゴン車で浜岡に到着したのは午前10時。ゲート近くの事務本館の会議室で、中部電力社長の水野明久(58)らが緊張した面持ちで迎えた。首相補佐官の細野豪志(40)も同行した。海江田は胸の内を悟られないよう気をつけた。「しっかり見たい」とあいさつする。

 視察はバスで、非常用発電機や川から水を引くポンプの設置場所を巡るコース。問題視されていた海岸の砂丘も入っていた。

 3号機前の海岸でバスを降りた。ヘルメットのつばを上げ、岸沿いに延びる砂丘を眺めた。案内役の中電幹部は「砂丘堤防です」と説明したが、海江田の見方は違った。

 「大きな津波が来れば波が砂丘をはい上がる。堤防にならない。こりゃ駄目だ」

 海江田が停止に傾いた理由はもう一つある。同行した経産幹部は、安全対策に必要なガソリン式ポンプの駆動時間を中電がうっかり間違えたことだった、と証言する。

 「自信がないなら『確認する』って言ってくれ。間違った情報がインプットされてしまうじゃないか」。中電幹部をしかる海江田の怒声が視察現場に響いた。

 側近は「大臣はいつも『現場の人を見れば大体分かる』と言っていた。いいかげんな説明に現場のモラルが低い、と感じたようだ」と話す。

 視察後、海江田は取り囲む報道陣に「結論を出すのは5月初旬」とけむに巻いたが、腹は固めていた。停止中の3号機の再稼働先送りと運転中の4、5号機を止める全面停止だった。

 経産省に戻ると、大臣室に事務次官の松永和夫(60)、原子力安全・保安院審議官の黒木慎一(54)ら幹部を集めた。翌6日に行われる記者会見の段取りを詰めた。

 「午後1時〜1時30分 総理、官房長官、福山副長官、細野補佐官へ説明」

 「午後4時 大臣会見」(緊急対策+浜岡)

 「大臣会見と並行して、与野党幹部他関係者へのご連絡」

 A4判2枚の資料に詳細な時間と役割が記されていた。会見前には、海江田が中電社長の水野と静岡県知事の川勝平太(63)へ直接連絡することも確認した。後は、首相の菅直人(65)にどう切りだし、了承を得るか。それが最も難しいハードルだったことを、海江田は後になって知る。

 海江田と別れた細野はこのころ、官邸で官房副長官の福山哲郎(50)に視察の報告をしていた。「浜岡は止めなきゃだめですよね。海江田大臣も了承ですよ、きっと」。細野の言葉に、福山は驚く。

 「へぇ〜、勝負は早いな」

 

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