空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第五十五話 2011年 勤労感謝の日記念LAS短編 何に感謝するの?


※作品の途中でハルキョンを連想させるシンジとアスカの会話を入れたので、『涼宮ハルヒの憂鬱』を知っている方はさらに楽しめるかもしれません。

使徒との戦いも終わり、チルドレンの任務から解放されたアスカとシンジ。
14歳と言う多感な一緒に時期を過ごした2人の間には協力関係を通じて恋愛感情が芽生え、アスカは帰国せずに葛城家の生活を続けた。
やっとつかみ取った平和な日常は周囲の大人達に守られ、失われる事は無かった。
地獄のような体験をしたシンジ達も今や平凡な大学生。
リビングのソファでシンジと並んで座っていたアスカは隣に居るシンジに声を掛ける。

「ねえシンジ、勤労感謝の日ってあるけど、いったい何に感謝する日なの?」
「勤労する事じゃないかな」
「そうじゃなくて、働いて養ってくれる親に感謝するのかとか、それとも雇用先を提供してくれる事業主の人に感謝すべきなのか、働いている自分にご褒美をあげるのかとかいろいろな考えがあって気になるのよ」
「うーん、僕にも解らないな」

シンジが真剣な顔をして悩み始めてしまったので、アスカは悪い気がしてしまい謝る。

「ちょっと気になって聞いただけだから、別に良いのよ」
「でも今のアスカにストレスを抱えたままにさせては置けないし」

だからと言って、シンジが悩んでいる方がさらにアスカのストレスに繋がるのだが、シンジは考えるのを止めない。
どこまでアスカの事になると真剣なのかとあきれる反面、だから自分はシンジを選んだのだと少し嬉しさを感じた。
シンジの悩みを解決するために、アスカはヒカリに電話して聞いてみる事にした。
しかし、電話するとアスカはヒカリにシンジとのノロケ話を披露するのに夢中になって、しばらくして何を聞くために電話したのか思い出す有様だった。
思い出してヒカリに勤労感謝の意味を尋ねても、シンジと答えは大して変わらない。
ヒカリとの電話を切った後もシンジは隣で難しい顔をして腕組みをしている。

「仕方無い、アイツに聞いてみるか……」
「何か用?」
「まったくもう、聞きたい事があるから電話したのよ」

アスカはレイの態度に苦笑しながら、勤労感謝の日の意味を尋ねた。
レイから帰って来た言葉は4文字だった。

「ググレば」

切れてしまった電話を手にしてアスカはしばらくぼう然とした後、ため息をついた。
別にアスカはレイと仲が悪いわけではない、しかし特別仲が良いわけでもない。
シンジと恋仲になってからはさらに微妙な距離感を置くようになってしまったのだ。

「グーグル先生に聞いて解る答えならアンタに聞かないわよ……」

そう言いながらもアスカは携帯電話を操作してwikiなどを調べた。
勤労感謝の日は収穫に感謝する新嘗祭が変化したものだと説明されている。
アスカの故郷であるドイツでも収穫祭があるがそれとは同一視できないと書かれている注釈を見るとさらにため息が出る。

「結局、納得できる答えは無いわね」

アスカはそう言ってリビングを見回すと、大きな写真立てに入った写真が目に入った。
その写真はプラグスーツを着た14歳のアスカとシンジが写った記念写真だ。
左隣にはレイも写っているのだが、気にしてはいない。
さすがのアスカもレイの部分を切り取ってまでシンジを独占しようとは思わなかった。
その写真を見たアスカは良いアイディアが閃く。

「そうだ、何に感謝するのか解らないのなら、新しく作ればいいのよ!」
「何を?」
「記念日よ!」

驚くシンジに向かって、アスカは興奮した様子で自分の考えを話し始めた。
11月22日は『良い夫婦の日』。
それなら11月23日は『良いLASの日』としても良いじゃないかと。
ちなみにLASはラブラブアスカシンジの略であると付け加えて説明した。

「アタシはセカンドで、シンジはサード。お互いに感謝する日って事で良いじゃない」
「う、うん……」

無茶な理論のような気がするが、シンジはアスカの悩みが解決すればそれで構わないのだった。

「だから、これからお互いに相手のしてくれた事を話して感謝し合ってみない?」
「じゃあ、僕から始めて良いかな?」
「良いわよ」

アスカは期待を込めた視線でシンジの顔を見つめた。

「アスカは僕の世界に光を与えてくれた太陽のような子なんだ」
「そんな、大げさよ、アタシが太陽だなんて」

シンジの言葉を聞いたアスカは照れ臭くなって首を軽く左右に振った。

「アスカが居なかったら、僕は下を向いて誰とも関わろうとしないで腐ってしまったかもしれない」
「別にアタシはウジウジとしていたシンジに何か行ってやりたくなっただけで……他にもミサトとか明るい人が居るじゃない」
「うん、でも僕にとってアスカは特別なんだ。お節介なぐらいに僕の心の奥底まで踏み込んで来て、僕を暗い闇の底から引っ張り上げてくれる。こんな情けない僕だけど、これからも側で僕を照らしてね」

シンジが優しくアスカに頼むと、顔を赤くして話を聞いていたアスカは了解してうなずいた。
そして今度は自分の番になり、アスカはゆっくりと話し始める。

「シンジと会う前のアタシはハリネズミのようだったわ。独りで強く生きて行こうと考えていたし、誰とも打ち解けようとしなかった。そんなアタシに優しくしてくれたのがシンジなの」

アスカはそう言って、自分の方をシンジの肩にそっと触れさせた。

「だけど、加持さんやミサトさんもアスカを妹のように思って優しくしてくれたんじゃないかな」
「そうだけど、最後までアタシを見捨てないで側に居てくれたのはシンジよ」
「でも、きっと加持さんも生きていれば……」
「加持さんはアタシより、ミサトや自分の仕事の方を優先していたわ。ミサトも、アタシの苛立ちを理解してくれない時もあった。シンジはアタシがボロボロになっても、あの赤い世界で『気持ち悪い、あっちへ行ってよ』って拒絶の言葉を掛けても、アタシの事を求めて抱き締めてくれたじゃない」

そこまで言ったアスカは、大きく息を吸う。

「それに、マグマの海に沈んでしまいそうになった弐号機を助けてくれたシンジはアタシの命の恩人よ! どう、アタシの感謝の方が勝っているでしょう!」

勝利宣言をしたアスカに、シンジも負けまいと反論を始める。

「アスカが居なかったら、僕はきっと女の子に告白する勇気が持てなかったと思うよ。ずっと自信も持てなくて、暗い性格のままになっていたと思う」
「そんな事無いわよ、こんなにシンジが優しいと知ったら他の子も放って置くはずが無い……ってシンジ、他の子に浮気しちゃダメよ!」

自爆に近い発言をした事に気が付いたアスカは、慌ててシンジに釘を刺した。

「分かってるよ、僕はもうすっかりアスカの魅力のとりこなんだから」
「まったく、このスケベシンジったら」

そう言ってシンジがアスカの肩に手を回すと、からかうような口調でシンジに微笑みかけた。
そして、自分のお腹を優しくそっとなでる。

「ここに居る赤ちゃんも、シンジからの贈り物よね。これ以上の感謝すべき物ってないわよね?」
「赤ちゃんは2人の物なんだから、感謝の勝ち負けの対象にはならないよ」
「ふふ、そうよね、ごめんなさい。ほら、シンジも撫でてよ」
「うん」

シンジはアスカのお腹を撫でて「ごめんね」と小さくつぶやいた。
そのシンジのつぶやきを聞き逃さなかったアスカはあきれた顔でため息をつく。

「シンジ、まだあの時の事を気にしているの?」
「だって僕のせいで、この子は死んでしまいそうになったんだから」
「大丈夫よ、お医者さんも元気に育っているって太鼓判を押しているわ」

アスカがシンジに妊娠を告げた次の日の朝、シンジは葛城家から逃げ出してしまったのだ。
シンジが姿を消した後、アスカはショックのあまり気絶してしまった。
ミサト達がシンジを見つけたのはシンジが姿を消した日の夜だった。
発見された時、シンジは少し離れた街の商店街を巡ってアルバイトの就職口を探していた所だった。
怒ったミサトが理由を問いただすと、シンジは自分が父親になれる自信が持てなかったからだと答えた。
シンジは先日、書店でのアルバイトをミスを犯してクビになったばかりだった。
さらに大学の成績もあまり良くなくて、アスカに励ましてもらっていたもののシンジは気にして落ち込んでいた。
しかし、アスカに告白された場所に来たシンジはもう一度頑張ってアルバイトを探してみる事から始めようと決意したのだった。

「バカシンジ君っ! それならどうしてすぐにアスカに連絡しなかったのよ!」
「ごめんなさい」

ミサトにバカシンジと呼ばれたのはこれが最初で最後だった。
葛城家に帰ったシンジは目を覚ましたアスカに土下座して謝った。
しかしアスカはシンジを怒る事は無く、

「よかった、シンジが戻って来てくれた……!」

と、感激の涙を流してシンジを赦して迎え入れた。

「あの時僕が立ち直れたのはアスカが居てくれたからだよ。だから僕も感謝ではアスカに負けないからね」
「仕方無いわ、今日の勝負は引き分けね」

そう言って、シンジとアスカと顔を見合わせて笑った。

「これでまた新しい記念日が増えたわね」
「出会った日に初デートの日、ファーストキスの日に初めてのアレの日に、婚約した日、そして『いいLASの日』か」
「それできっと良い夫婦の日も新たな記念日に加わるのよ!」

後にアスカから記念日を聞かされたヒカリは1年に7回も記念日を祝わされる事になるシンジにちょっと同情した。
そして、初デートの日をすっかり忘れてしまっているトウジの事を思い出し、ため息をついたのだった。


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