「暴行事件の目撃者を探しています。どんな些細な情報でも構いませんので、目撃情報お待ちしております」。会社帰りのサラリーマンや歓楽街に繰り出す若者たちがひっきりなしに行き交う夜の東京・新宿駅前で、「目撃者」を求めてビラを配る女性がいる。彼女の名前は原田尚美さん。黒装束に身を包み、ビラと同じデザインのプラカードを掲げながら、カン高い声で道行く人々に呼び掛ける姿が印象的だ。
■ 12月の深夜、新宿駅で「事件」は起きた
探しているのは、2009年12月10日の深夜、新宿駅で起きた「ある事件」の目撃者だ。尚美さんの息子・信助さん(当時25歳)は、駅構内ですれ違いざまに女子学生のお腹を触ったという痴漢の容疑を掛けられた。信助さんは犯行を否認したが、女子学生と一緒にいた男性に取り押さえられ、新宿署で事情聴取を受けた。翌朝、信助さんは処分保留のまま警察署を帰されたが、その足で母校近くの地下鉄東西線・早稲田駅に向かい、電車に飛び込んでしまった。
尚美さんは信助さんが痴漢をするような人間ではないと信じており、「息子は冤罪だった」と訴えている。尚美さんがそう考える根拠の一つは、遺品として残されたボイスレコーダーだ。このボイスレコーダーには、新宿警察署で取調べを受けた信助さんが一貫して痴漢容疑を否認し、むしろ逆に、女子学生の男性仲間から暴行を受けたと訴える肉声が残されていたのだ。
しかし、ボイスレコーダーだけでは分からないことも多い。当時の状況をもっと知りたいと考えた尚美さんは、事件が起きた新宿駅で目撃者を探し始めた。
■ ニコニコ生放送で3回目の特番を放送
目撃者探しのためのビラを1000枚刷り、息子さんの命日までに全てを配ろうと決意。一周忌を目前に控えた2010年11月30日、1000枚を配り切った。「最初は誰も話を聞いてくれなかったが、最近では立ち止まって話を聞いてくれる人が増えた」と語る尚美さん。支援者の輪も広がり始め、ホームページの開設やイベント企画など様々な形で尚美さんを支援する動きが活発化している。
そんな中、10月半ばになって、「暴行現場」を目撃しJR職員に通報したという女性が現れた。証言内容によれば、信助さんと思われる男性が駅構内の通路の壁際でうずくまり、執拗に暴行されていたという。「息子の汚名を晴らしたい」と語る尚美さんは、この証言が突破口となり事件の真相が究明されることに期待を寄せている。
信助さんの命日にあたる12月11日には、一周忌の法要が予定されており、信助さんと親しかった人達とともに冥福を祈る。また、これまで信助さんの事件について検証する特別番組を2回にわたって放送したニコニコ動画は、事件が起きたのとほぼ同時刻の12月10日24時から3度目の特番「痴漢と呼ばれ自殺~1年前、新宿駅で何が起きたのか」を放送する。
原田尚美さんのほか、メディアジャーナリストの津田大介さん、ジャーナリストの江川紹子さん、そしてこの事件をメディアとして最初に取り上げた夕刊フジ記者の小川健さんが出演し、1年前の夜に起きた悲劇を考える。番組では事件に関する情報を募集している。目撃情報はこちらまで。
※ニコニコ生放送「痴漢と呼ばれ自殺~1年前の夜、新宿駅で何が起きたのか?」
http://live.nicovideo.jp/gate/lv34091534
※原田尚美さんのブログ
http://harada1210.exblog.jp/
※Twitterのハッシュタグ → #shinjukueki_1210
(三好尚紀)