PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10


作者:3-731氏

 生きていればいろんなことが起こるものである。
 有り得ないと思うようなことでも起こってしまうのが人生というものであろう。

 俺はしみじみとそう思った。

 ことの始まりは一週間前に遡る。

 俺はいつもの如く、VMMO……意識をオンライン世界に直結することで、本当に
異世界で冒険しているような気分になれるネットゲーム……で、遊んでいた。
 生活費以外の仕事の収入と仕事以外の時間を全てゲームに当てているいわゆる廃人と
いわれる人間である。

 俺がやっているVMMOは戦闘系スキルは武器や技ごとに分かれ、生産系スキルはさらに
細かく、一口に鍛冶といっても精錬スキルや採掘スキルなどの関連スキルが必要になるなど
分かれており、様々な職種のものと交流することで足りない部分を補っていくというシステムが
とられているゲームであった。
 そのためギルドシステムが発展しており、殆どの者はこれに加入している。
 だが俺はそんなゲームをソロで(知り合いは勿論大勢いるが)楽しんでいた。
 ゲームでは全部のアイテムとレベルコンプリートしないと気がすまないタイプの俺にとってこのゲームはまさに底なし沼である。

 何時もどおりに遊んでいたとき、俺は一人の女性(?)に出会った。実際に女性かどうかは
わからない。選択でどちらでも選べるからだ。
 とにかく、犬人族のその女の子は登録後初めに選ぶことの出来るはじまりの町の一つであり、
ゲーム中の主要6王国のひとつ、ミルガリンの首都、レトの中央広場で途方にくれていた。

 石畳で出来た広い広場にぽつんと立つその姿はまさに捨てられた子犬といった感じである。
なまじ生身に近い感覚があるだけに、戸惑いも大きいのであろう。不安そうに耳をぱたんと後ろに倒していた。

 俺は、裁縫スキルを上げるためにちくちくと最高級の革鎧を作りながら間違いなく
参加したての初心者であろう彼女を遠目で観察していたのだが。

(あ、声をかけようとしてる……無理だった。)
 ちくちく。

(おっ!今度こそ!!……あ、気づいてもらえなかった。)
 ちくちく。

(声をかけた!!おめでと……ありゃ。無視された。涙目だ。なんか苛めたくなるな。)
 ちくちく。おけ、鎧完成。

  涙ぐましい努力を続ける犬耳少女(?)がなんだか可愛そうになり、俺は声をかけることにした。
 スキルを上げ続けるだけでは正直しんどい。気分転換、きまぐれだった。




「こんにちは。なんか探し物か?」
「ひゃあっ!あ、あの。こ、こんにちは!いえ、そんなのじゃないんです!」
 にこやかに声をかけると、犬耳少女は手をぶんぶんふって慌てていた。近くで
よく見ると初心者用の革鎧に初心者用の短剣を装備していることがわかり、予想が
当たっていたことを悟る。俺はなるべく意識してゆっくりと話しかけた。

「慌てずにゆっくり落ち着いて。いい?深呼吸。」
「はい……。」
 このゲームで深呼吸は意味は無い。気分の問題だ。

「で、どうしたの?」
「実は親に薦められて、ゲームに参加したんですが何をすればいいのかもわからずで……。」
 しゅんと、耳をたれて俯く少女。動物が混じったキャラは感情によって付属パーツが動く
ようになっている。全く製作者はよくわかっているといわざるを得ない。

「親が薦めるってまたなんで……いや、さっきの見てればわからんでもないか。」
「えええ、み、見てたんですか!」
「ああ。微笑ましかった。」
 くっくと笑うと、彼女は涙目で俯いていた。

「私、暗くて不細工で引っ込み思案だから……中学でも苛められて……
こういうゲームならどうかって……。」
「こらこら。こういうゲームで自分の身分が判る様なこと言ったら駄目だ。」
「そうなんですか。……ごめんなさい。」
 く、暗い。俺は内心顔を引きつらせながらも、笑顔で胸を叩く。

「まぁゲームは楽しくやるもんだ。今日は俺が町を案内しよう」
「え、いいんですか?」
 ぱぁぁぁっと表情が明るくなる。顔を上げた少女のキャラメイクはとことん地味で
あったが、髪や瞳の色合いは落ち着いた茶色を用いており、顔立ちは少々幼いが穏やかな性格で
あることを思わせることに成功していた。
 正直、笑顔は可愛かった。

「お兄さんに任っせなさっい!俺はベテランだからな。」
 わざと馬鹿っぽく大げさに身振りをつけて話すと彼女は徐々に緊張が取れてきたのか
微笑んでいた。

「有難うございます。親切なんですね。」
「暇だったしな。で、名前は?」
「えっと、若……じゃなかった。蕾です。」
「俺は匠だ。今日だけだと思うがよろしくな。」
 今日だけといった俺に彼女は驚きの表情を向けるが、俺は真剣な顔で続ける。

「今日だけ……ですか?」
「俺と君じゃ強さがぜんぜん違うからな。それに、蕾ちゃんは自分で頑張らないと意味ないだろ。」
「はい……。」
「だから、自分で楽しみを見つけていくんだ。」
「はい。」
 ぶっちゃけ、毎日初心者の相手なんてしてたらきりが無い。俺はそんな内心をおくびにも出さずに笑顔に切り替える。

「まあでも、今日は一緒に楽しもうな。」
「はいっ!よろしくお願いします。」
 犬耳少女──蕾は尻尾をぱたぱた振り耳をぴんと立て、満面の笑顔で頷いた。俺は表裏無く喜ぶ彼女に、多少の罪悪感を感じていた。




「今日はそろそろ落ちようか。」
「はい。有難うございました。本当に楽しかったです。」
 現実世界で午前2時、出会ったのが夕方6時だったのでたっぷり8時間、町の主要施設案内を
した後に味を実際に感じることの出来る甘味処へ案内して奢りでケーキを食べたり、生産スキルを
実践してもらったり、町の外で狩りの仕方を教えたりしていた。

 腰の低い性格で引っ込み思案っぽい彼女も打ち解けると、一つ一つのゲームの演出に
年相応の女の子のようにかわいらしくはしゃいでいたのは印象的だった。

 時間が過ぎるのはあっという間で、今は出会った街中の広場で別れの挨拶をしていた。

「明日から頑張れるよな?」
「はい!匠さんにはなんてお礼をいったらいいか。」
 そういって笑顔で頭を下げる蕾をみて俺は心底いいことしたなぁと、充実した気分に
なっていた。……のもつかの間であった。

「な、なんだ?」
「きゃっ!!」
 ごごごごごごごっ!!!!!!!!!!と大きな地震が起き、世界中が崩壊するような地響きが轟く。
バグったか!?と思ったその瞬間、脳がミキサーにかけられたような不快感と痛みが俺を襲う。
 勿論そんなものに耐えられるわけも無く、俺は意識を失っていた。

 どれくらい気を失っていたのだろうか。判らないが目を開けると心配そうに俺を覗き込む
蕾の顔があった。

「あれっ……。どうなった?」
「わかりません。」
 俺の問いかけに彼女は涙を浮かべながら不安げに答えた。

「地震が起こったかと思うと街中の人が頭を抑えて蹲って……、私はちょっと頭痛が
きただけでしたけど匠お兄さんの苦しみ方は死んじゃうんじゃないかと思いました。」
「それは良かった。蕾ちゃんが無事で。」
 初めてのプレイでこんな事故であんな痛みを体験したらトラウマになる。
 そう思って俺は心底ほっとする。

「有難うございます。それで……気がついたら中央広場に急に人が大勢出てきて……。」
 俺はその言葉を聞いて周囲を見渡す。彼女の言葉通り、中央広場には普段以上の人や
獣人で溢れていた。


 ゲームでのこの首都の謳い文句は人口100万の都市というものであったが、参加プレイヤーの
数の関係上、そこまでの表現は出来ない。
 だが、今、広場は人ごみと喧騒で溢れており、実際に大都市の熱気が感じられた。作り物っぽかった
街並みも生活の雰囲気を感じさせる。それに、街の広さも大きくなっているような……

 俺は眉を潜めた。

「それから…ログアウトが出来ません。」
「システム画面が……出ないな。ステータスやスキル表示も何も出ない。」
 彼女はもう涙を流していた。俺の背中にも嫌な汗が流れる。
 まさかと思い、俺はズボンに手を突っ込みパンツの中を見る。全年齢推奨のこのゲームでは
禁止行為であるのだが……。

(で、でかい。)

 不審者丸出しのこの行為を彼女は泣いていて見ていなかったのは幸いだったろう。
 そして、頬をつねる。このゲームには味覚はあっても痛覚は無い。が、痛かった。これの意味するところは……。

「よくわからないが、とんでもない事に巻き込まれたかもしれないな。」
「匠お兄さん……私怖い……。」
 当然ながら蕾は怖がっていた。初めにあったときのような暗い表情で俺の服を掴んで離さない。
 俺だって怖い……が、努めて笑顔で頭を撫でる。

「大丈夫。心配するな。事情がわかるまで一緒にいてやるから。」
「はい。有難うございます。」
 子供にそうするように彼女の背中を軽く叩くと顔から恐怖心は消えたが、不安は消えていなかった。
 まぁ、俺だって不安だしな。

 だが、大人の自分がうろたえる訳にはいかない。見慣れているはずの世界が変貌した恐怖心を
抑えて俺は必死に己を保っていた。




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