『一週間de資本論』 (ＮＨＫ教育)より ――
１９世紀、カールマルクスはこんな言葉を残した。
「一定の成熟の段階に達すれば、特定の歴史的形態は脱ぎ棄てられ、より高い一形態に席を譲る」
(『資本論』第３巻 ７編５１章)
熱心な歴史研究家でもあったマルクスは資本主義の歴史を分析し、その法則の先に未来の姿を見つめようとした。
そんなマルクスの考えを高く評価しているフランスの思想家がいる。
著書『２１世紀の歴史』が世界的ベストセラーになったジャック・アタリだ。
彼は、マルクスの電気を執筆。
テレビ番組で次のように語っている。
「マルクスは、マルクス主義者ではありません。これまでの社会主義は彼の考えとは違うものです。
グローバル化はマルクスを読まないと理解できません」
先進国の停滞、新興国の成長、そして多くの国々の貧困問題――
資本論を通してグローバル化の未来を考える。
司会者：
ベルリンの壁の崩壊でもうマルクス主義は終わったんじゃないかという人も多い中で、アタリさんはマルクスを見直してるワケですね。
的場明弘(神奈川大学教授)：
ベルリン崩壊後の方が、マルクスの研究にとってある意味で新しい方向を指し示したと考えてるんですね。
グローバル化が起こることによって、本来のマルクスの考え方がよりハッキリわかるようになったというふうに考えてるんですね。
司会者：
今回は歴史から未来を読み解くとい言うのがテーマになってるんですけど、まさにマルクスの資本論というのは、２１世紀、そして我われの未来というのを予言してるところがあるんですね。
資本論は、資本家が誕生するまでの何世紀にもわたる歴史を描いている。
１５世紀から１８世紀にかけて生まれた新しい資本家によって、毛織物産業が発展。
必要な羊を育てる牧場をつくるため、多くの農民が追い出された。
耕す土地を失った農民は、自分で自分を売ることしかできなくなる。
彼らを工場労働者として雇うことで、最初はわずかな資金しか持っていなかった資本家も、急速に力を伸ばしていった。
競争に勝ち抜いた資本家は大資本家となり、大量に生産された商品を売るため、市場を世界に広げる。
やがてイギリスなどの国々は、競って海外に植民地をつくり、資本家が労働者を搾取する仕組みが世界に広がっていった。
『資本論』では、このグローバル化の現象について次のように書かれている。
「常に一人の資本家が多くの資本家を滅ぼす。
この集中とともに、つまり少数の資本家による多数の資本家の収奪とともに、
(中略)
世界市場全体への、世界の国民の組み入れ、及びそれとともに資本主義の国際的性格が発展する」
的場：
最初は国内に様々な企業があって、それが競争して、最後には一社になると。
こうなってくると世界でも同じことが行われるようになって、最終的には世界でも一社になってしまうと。
理想的に行けばそうなんですが、実際には倒産したところには失業者が出ますよね。
それは世界でも同じことですよね。
そうすると貧困問題が起きる。
グローバル化は様々な問題を起こしながら進んでいくということなんです。
で、これから先のことをマルクスはどう書いているかというとですね、実に理解するのが難しい表現があるんですね。
「生産手段の集中と労働の社会化は、そうした資本主義の枠と調和しなくなる点にまで至る。
そして、その枠は破壊される。
資本主義的私有の最後を告げる鐘が鳴る。
収奪者が収奪されるのだ」
これはどういう意味かと言いますとですね、さっき言ったように、たった一人の資本家(収奪者)に最後なりますとですね。
彼がやがていなくなり、結局、全員のものになるという・・・
司会者：
共産主義になるということなんですか？
的場：
いや、そうではなくてですね、資本主義は自然に変わっていく要素があるんだってことなんです。
これは革命という解釈でいいんですがね。
まあ、そういう考え方もあると。
司会者：
田中さんからご覧になって『資本論』は未来のことを書いてるという視点はございますか？
田中直樹(経済評論家)：
私はそうは思いません。もちろん資本主義の現実を記述するものとして、優れたものであることは確かなんですが、でも、その点だけでいえば、マルクスの１００年前のアダム・スミスが資本主義の現実というものを『国富論』でかなり正確に記述してます。
もちろんマルクスが世界の歴史に残ったのは理由があることでして、それは搾取とか、収奪とか、その、感情というか、情感に訴えて、新しい社会のイメージを社会の中で抑圧を受けてる人にしてみれば「これだ！」という共感があったんだと思います。
でも内容的には私はさほどの評価をしておりません。
・・・
かつて発展途上国と言われ、先進国からは収奪の対象とされ、世界には中心と周辺、あるいは、中心と縁辺があって、縁辺の人たちは生活改善はできないんだと、こういう議論が非常に強かったんですけども、しかし、いま起きてることは・・・
私は「先発逆転」と言ってるんですけども、先進国と発展途上国が逆転すると。
どこで逆転してるかっていうとですね、まあ、１年間で世界経済の成長分・・・増えた分ってありますね。
今までは、先進国の貢献分が非常に大きかったんですが、ところがこれから数年、おそらく１０年を超えたらですね、間違いなく、発展途上国の成長増分の方が、先進国より大きいんですよ。
これは今まで、貧しい国は収奪の対象になるだけでなく、発展の契機もないと革命的な、まあ何らかな形をしないと、いう議論が強かったんですけども、現実はそうではない道過ぎをたどり始めてる。
マルクスが書いた図式とは全く違う図式が今、生まれてきてるんですね。
・・・
新興国といわれる国が力をつけてきたのは、ハッキリしてるんですきっかけは。
社会主義やめたからなんです。
結局、マルクス主義者たちがしたことというのは、現実に社会主義圏において、人々の自由を奪い、創造性の発露を塞ぎこみ、新しい挑戦というものを潰してく。
そういう中で、貧乏が支配する。
その貧乏の中で社会主義っていうのは崩れてったんですね。
・・・
私から言わせれば、アタリさんが言ってる世界政府なんていうのもね、
これ何も言ってないのと同じなんですよ。
いま、それぞれの国で、政治も行政も根底から問われてるワケでしょ。
それを世界政府だなんて・・・一体誰が構成するんですか。
何を見本にするんですか。
意外に思われるかもしれませんけどもね、世界で自由貿易を支持する国っていうのは、中国とかインドとかブラジルとか・・・
ですからむしろ自由貿易を妨害するのはむしろ先進国じゃないかと。
支配者は恣意的に人民を抑圧する。
これを覆すには市場しかない。
そう考えてる人が世界で増えてるってことなんです。