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東電事件無罪 浮かぶ3つの課題

11月7日 18時40分

宮脇麻樹記者

平成9年に東京電力の女性社員が殺害された事件の再審=やり直しの裁判で東京高等裁判所はネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんに無罪の判決を言い渡し、確定しました。
今回の再審でみえた問題点や教訓について、社会部の宮脇麻樹記者が解説します。

注目を集めた事件

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事件が起きたのは平成9年。
東京・渋谷の繁華街にあるアパートの部屋で東京電力の39歳の女性社員が殺害されているのが見つかり、2か月後に、近くに住むネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)が逮捕されました。
裁判でマイナリさんは一貫して無実を訴えます。
1審の東京地裁は「犯人とするには矛盾や説明できない疑問が残る」と判断して無罪の判決を言い渡しました。

課題1 無罪だったのに勾留続けた高等裁判所

本来であれば、マイナリさんはここで釈放されてネパールに帰国することになるはずでした。
ところが異例の展開となります。
1審で無罪だったにも関わらず、東京高等裁判所が審理もしないまま「疑わしい点もある」などとして、マイナリさんを釈放せず、勾留し続けたのです。
実は、このとき、同じ東京高等裁判所の裁判長で現在は弁護士の木谷明弁護士は、マイナリさんの勾留を認めない決定を出していました。
検察がこれを不服として改めて申し立てをした結果、別の裁判官が判断を覆したのです。
木谷明弁護士は「裁判所がマイナリさんの勾留を認めるということは、いわば有罪の心証だと言うことを示したようなもので、拙速な判断だったと思う」と指摘しています。
こうして行われた2審の判決は一転して無期懲役となります。

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「状況証拠を総合すると被告の犯行は明らかだ」と1審とは全く逆の判断を示し、最高裁判所で判決は確定しました。

課題2 制度のない証拠開示

事態が大きく動いたのはDNA鑑定の結果でした。
弁護団が再審、裁判のやり直しを申し立てたあと、DNA鑑定が行われた結果、別の男のDNAと判明したのです。
これ最大の決め手となって、ことし6月、東京高等裁判所は、再審を認める決定を出しました。
一方で、再審請求の途中で浮き彫りになった課題が証拠開示のあり方です。
検察は、被害者の体から、マイナリさんと別の血液型の唾液が検出されたという事件当時の鑑定結果を、去年になって明らかにしました。

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弁護団は、「無罪を証明する重要な証拠であり、証拠隠しだ」と検察に抗議しました。
現在は、初公判の前に争点を絞り込む手続きが行われ、必要と判断された証拠を明らかにすることが制度として定められています。
しかし、再審を申し立てた段階で、捜査によって集められた証拠の何を明らかにするかは、決まった手続きがありません。
検察や裁判所の裁量に委ねられています。
こうした証拠の取り扱いについて、もっと改善すべき点があるのではないかと感じます。

課題3 検証に向かう姿勢はあるか

今回の事件は、発生したときから社会の大きな注目を集めました。
警察、検察庁、裁判所と慎重な捜査や審理が行われたはずです。
同じような問題を繰り返さないためには、検証を行うことが欠かせません。
特に、当時1審で無罪だった人を勾留し、最終的に15年も身柄を拘束し続けた裁判所の結果責任は免れません。
木谷明弁護士も「刑事裁判は、過去の事実を証拠によって再現しようとする作業であり、どんな優れた裁判官でも誤りは起こりうる。疑わしきは被告人の利益にという原則の意味をもう一度かみしめて、裁判所と検察庁は今回の裁判を教訓にしていかないと、また同じ間違いが起こってしまう」と指摘しています。

失われた15年間を教訓に

逮捕された当時、30歳だったマイナリさんは46歳になりました。

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10年以上、手紙のやりとりや面会を通じてマイナリさんの支援を続けてきた客野美喜子さんは、帰国したマイナリさんに代わって判決を聞きました。
客野さんは「検察や裁判所にはなぜ15年も苦しまなければならなかったか原因を解明してほしい」と話しています。
また、マイナリさんも判決を受けてコメントで「警察、検察、裁判所はよく考えて、悪いところをなおしてほしい」と訴えています。
マイナリさんの言葉をどれだけ重く受け止めて、再発防止に向けた取り組みを進めることができるかどうかが今、問われています。

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