ここから本文です

サプライズ続きでフィギュア界騒然! 順位予想も難しい今季のGPシリーズ。

Number Web 11月7日(水)12時19分配信

「Anything can happen in figure skating.」(フィギュアスケートでは、何が起きるかわからない)とは、昔から言われてきたことだ。だが今季のGPシリーズほど、それを実感させるシーズンも珍しい。

 11月2日から上海で開催された中国杯でGP初優勝をきめ、スケートアメリカの3位と合わせてGPファイナルへの出場権を手にしたのは町田樹だった。

 熱心なフィギュアファン以外にはなじみの薄い名前だろうが、22歳の彼は新人ではない。2010年四大陸選手権の銀メダリストで、昨年の全日本選手権では4位だった実績を持つ選手である。

 だが彼が元世界王者の高橋大輔を破って、一番乗りでファイナル進出を決めるなど、誰も予想しなかったことだった。

 昨年、トリノ五輪銀メダリストのステファン・ランビエルに振付の指導を受けるようになってから、表現力も急成長。2週間前にはスケートアメリカで初のGPメダルを手にし、一躍世界のトップ選手の仲間入りをした。

■「よくあれで2位にとどまった」と、絶不調だった高橋大輔。

 もっとも中国杯では「スケートアメリカと同じミスをしてしまった。大先輩に勝ったのは光栄ですけれど、もっと嬉しい優勝がしたい」と本人が語ったように、男子全体が不調な試合だった。今回の町田樹が出した優勝スコアは236.92。スケートカナダで3位だった織田信成の238.34よりも少し低い点数だ。

 2位だった高橋大輔は、普段なら250ポイントは楽に出す選手である。だが今回の231.75は、本人の自己ベストの276.72より、およそ45ポイントも低い。4回転は2回とも回転が足りず、3ループで転倒。成功した3回転ジャンプは3つのみ、という演技で2位にとどまったのは、彼の基礎技術の高さと表現力、そして過去の業績があったからだろう。

「よくあれで2位にとどまった。自分でもびっくりしています」と苦笑した高橋は、不調の原因について「緊張感などがうまくかみ合わず、一番中途半端な感じになってしまった」とコメントした。

■採点の新方式が浸透し、年々順位予想が難しくなった。

 今季のGPシリーズは、出だしから驚きの連続だ。

 スケートアメリカではまだ17歳の羽生結弦が、いきなりSP歴代最高点を出した。フリーでは小塚が逆転優勝して、日本男子が表彰台を独占。

 スケートカナダでは世界王者のパトリック・チャンが2位に終わり、女子では16歳の無名のジュニア選手、ケイトリン・オズモンドが鈴木明子らベテランを退けて優勝した。

 この波乱万丈の展開には、いくつか理由がある。その一つは、年々その特徴が浮き出してくる現在の採点方式である。

 2004年/2005年から正式に導入された現在の採点方式により、このスポーツは大きく変わった。暗算の天才でもない限り、ジャッジは自分がそれぞれの選手を何位につけたのか、最後の合計が出てくるまでわからない。ジャッジの頭の中にある選手の「格」が、以前より採点に反映しにくくなった。過去に実績のない無名選手でも、質の高い演技を見せれば勝つことが容易になったのはそのためだ。

 世界選手権の表彰台に上がった選手でも、うかうかとはしていられない。油断をすれば、無名の新人に負けてしまうということが簡単に起きてしまうスポーツになったのである。

■男子のトップ3は、昨シーズンの終わりに揃ってコーチを変えていた。

 もう一つの理由は、トップ男子たちのコーチ陣の動きである。

「2位の結果は良かったと思う。だってやる気が湧いてくるもの。正直にいうと、いつも優勝ばかりしていると、人間だから少し士気も下がってくるんだ」

 ニコニコと無邪気な笑顔を浮かべながら、スケートカナダでそう語ったのはパトリック・チャンである。スケートアメリカの羽生結弦、中国杯の高橋大輔、そしてカナダのチャンと、昨季世界選手権の表彰台に上がった3人がなぜかGP初戦で全員仲良く揃って2位に終った。

 実はこの3人とも、昨シーズンの終わりにコーチを変えている。

 チャンは4月に主任コーチだったクリスティ・クラールが辞任。同時に5年ついていた振付師のローリー・ニコルから、新しい振付師に移った。

 高橋大輔は、6月に以前のコーチ、ニコライ・モロゾフに4年ぶりに再び師事することを発表。ジャパンオープンでは「この試合に来る前にモスクワですごくいい練習ができました」と言って素晴らしいフリーを演じた高橋だったが、この1カ月間でなぜ調整が狂ったのだろうか。

 羽生結弦は長年指導を受けた阿部奈々美コーチから、カナダのブライアン・オーサーのもとへ移った。

 コーチを移ると、指導に慣れて成績に反映されるまで2シーズンかかると言われている。新たなコーチと関係を築いてソチ五輪に間に合わせようと思ったら、今年が最後のチャンスだったのだ。

 その意味では、この男子トップ3人に関しては試合一つ一つの成績で一喜一憂せずに長期的視線で見守ってみたい。これまで修羅場を乗り越えてきた実力者たちだけに、もっとも重要なシーズン後半までには、必ず調整してくるに違いない。

■彼女らしい2つのプログラムで輝きが戻った浅田真央。

 こうしたサプライズの多い展開が続いた中で、浅田真央の中国杯逆転優勝は日本人にとって嬉しいニュースだった。「100%の出来ではなかったけれど、久しぶりに優勝だったので本当に嬉しい」と笑顔でコメント。

 今季の新プログラム、SPのガーシュイン「アイ・ガット・リズム」はアップテンポでのりがよく、最初から最後までコケティッシュに笑顔で滑るプログラム。フリーの「白鳥の湖」は、一見はかなげに見えながら実は強い彼女にぴったりのキャラクターだ。彼女の良さを引き出したこの2つのプログラムなら、世界のトップに返り咲くこともできるだろう。

 何より注目したいのは、3アクセルを封印して演技全体をまとめた結果、5コンポーネンツに8点台が戻ってきたことである。彼女本来が持っていた滑りの良さが、ミスが最小限に抑えられることで再び輝きだしてきた。

 あと残るは3試合。最後まで何が起きるか予想のつかない今季のGPシリーズになりそうだ。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)

最終更新:11月7日(水)12時19分

Number Web

 

記事提供社からのご案内(外部サイト)

Sports Graphic Number

文藝春秋

816号
11月8日発売

特別定価560円(税込)

日本最強のベストナイン〜BASEBALL FINAL 2012〜

前田健太/ダルビッシュ有/阿部慎之助/金本知憲
【巨人×日本ハム】日本シリーズ完全詳報

 

PR

carview愛車無料査定
PR

注目の情報


PR