◆初防衛目指す
亡き父との思い出の場所で初防衛を決める−。将棋の第二期リコー杯女流王座戦の第三局が十日、藤枝市の藤枝明誠中学高校で開かれる。初代女流王座の加藤桃子さん(17)=牧之原市出身=の父で、二〇〇八年に五十一歳で亡くなった康次(やすじ)さんは同校の元教諭。加藤さんは「静岡でなんとしても勝ちたい」と胸に誓っている。
女流王座戦は昨年創設された五番勝負のタイトル戦で、女流棋士のほか、プロ棋士を目指す女性の奨励会員も参加できる。今年の挑戦者は本田小百合女流三段(34)。第一局は加藤さんが鋭い寄せで快勝、第二局は終盤までもつれたものの競り勝った。「第二局は終盤に自分の弱さが出てしまった。第三局では『決断力がある』と言われる自分らしい将棋を指したい」と三戦全勝での初防衛を目指す。
将棋一家で育った。康次さんは藤枝明誠高校棋道部を全国有数の強豪校に育て上げ、母親の夕佳さん(46)も将棋の指導経験を持つ。加藤さんは幼稚園年長から六年間、藤枝明誠に月二回通っては高校生らを相手に腕を磨いた。
小学三年生でプロ棋士を志すようになったが、女性には「棋士」と「女流棋士」の二つの道がある。女流棋士の方が格段に容易だったが、自身も棋士を目指した経験を持つ康次さんと「女性初の棋士になる」と約束した。〇六年、日本将棋連盟の棋士養成機関の奨励会に入会し、将棋漬けの日々を送る。
試練が訪れたのは〇八年八月。康次さんが病のため突然亡くなった。大きなショックを受けたが、娘の活躍を誰よりも願っていた父の姿が支えになった。「私が負けると私の倍悔しがり、勝つと私の倍喜んでくれた」。夕佳さんは「将棋が心のよりどころになってくれた」と振り返る。
加藤さんは現在、奨励会一級。プロ棋士(四段)まで道のりは厳しいが、女流王座戦をステップにしたいと意気込む。
九日には対局場の下見があり、懐かしそうに校舎を歩き回った。「たくさんの思い出がある場所で自分の力を出し切りたい」。将棋の楽しさを教えてくれた原点の場所で、一回り大きくなった自分を見せるつもりだ。
(木谷孝洋)
<棋士と女流棋士> 将棋のプロには「棋士」と「女流棋士」の2種類の資格がある。棋士となるには日本将棋連盟の養成機関の奨励会に入り、四段になる必要がある。奨励会には男女ともに入会できるが、これまで女性が棋士になった例はない。女流棋士には連盟が開催する研修会で一定の成績を収めればなれる。奨励会員は女流棋戦には出られなかったが、女流王座戦などから一部、出場が認められるようになった。
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